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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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始まりの日

 羽花は体の痛みに耐えながら、鳳莱家の二階左にある一室にたどり着いた。

 小さい頃から何度も来たこの部屋には、『つばさ』と書かれた星形のプレートがかけられている。

 昔から目立つことが大好きで、自信たっぷりで、

「僕は、おほしさまみたいにキラキラするんだ!」

 なんて張り切っていた。


 羽花が目を覚ますまで十日間。

 その間、翔はずっとこの部屋に閉じこもっていたと母親が言っていた。

 それを聞いた羽花は耳を疑った。

 確かに、あの日の取り乱しようは珍しかった。

 ひたすら前を向き、めげないことが取り柄の翔が、涙を流し自分に縋りついてくることに心の底から驚いた。


 何て声をかけていいか羽花はわからなかった。

「心配かけてごめんなさい」

「助けてくれてありがとう」

「翔は大丈夫?」

 言いたいことはたくさんあるが、どの言葉もきっと翔を苦しめてしまうことはわかっていた。

 だからこそ、羽花は扉を叩くことに躊躇っているのだ。


「なに」

 何分経ったのだろう。

 暫くの間扉の前に佇んでいると、中から声が聞こえてきた。


 久しぶりに聞いたその声は、驚くほど感情がなく、素っ気ないものだった。

 羽花は一瞬怖気づいたが、意を決して声をかける。


「翔、羽花だけど。入ってもいい?」

 こんな風に翔の部屋に入る前に声をかけるのは生まれて初めてだった。

 ずっと相手のことはお構いなしに部屋に入り込み、自由気ままに過ごしていたのはお互い様だ。


 暫くの静寂後、返ってきたのは想像と真逆の言葉だった。

「駄目だ」


「え、」

 羽花は思いも寄らない返答に、混乱した。


 え?駄目?「駄目」って言った?――あれ、駄目ってなんだっけ。

 羽花の頭にそのことだけがグルグルと回り、よくわからなくなったその時扉越しに聞こえてきた声。


「ごめん」

 その声は酷く震えていて、羽花はなぜか泣きたくなった。


「何が?」

 必死に取り繕って平然を保つが、その声も翔と同様に震えていた。

 それはきっと部屋の主も気が付いている。

 それでも何も反応はなく、再び二人の間には沈黙が流れた。


 羽花は静かに思った。

 目の前で閉ざされている扉が、まるで今の自分達を表しているようだ、と。


「翔」

 羽花のその声に反応はないが、それは百も承知だった。

 羽花は構わず言葉を続ける。


「『ごめん』も『ありがとう』も『大丈夫?』も言わない。翔が今欲しい言葉じゃないのはわかっているから」


「私は大丈夫。

 すぐに天力で処置してもらったから跡も残らないし、すぐに元通りになるって」


 扉の前で一人、笑顔を作る羽花はふと視線を落とした。


「だからね、術者はやめないよ」

 その言葉と同時に息を呑む気配を感じた。


「お兄ちゃんにも言われた。

 いや、言われてはいないか。

 でもお兄ちゃんは思ってた、『今のうちに辞めてほしい』って」


「でも私は辞めない。後は、翔だよ」

 分厚い壁と扉――中にいる人の姿が見えるわけがない。

 それでも羽花は視線を上げ、ジッと扉の向こうにいる男の子を見つめ続けた。


 しかしいつになっても声どころか、音すら聞こえてこないため、羽花は一度家に戻ろうと立ち上がった。


「……俺は、」

 ポツリ、小さな声が聞こえ、羽花は踏み出した足を戻す。


「自分が嫌いになった。

 大口ばかり叩いて、羽花に怪我させて、それなのに仕返しすることも出来ない。

 あの日――あいつを祓ったのは兄ちゃんだ。俺じゃない。

 俺は何もできなかった。

 兄ちゃんは来て早々、たった一つの技で瞬殺したんだ」


「だから俺は思った。辞めてやる、って。

 強い奴が任務に行った方が、皆も安心して暮らせるだろ」


 静かに耳を傾けていた羽花は、姿勢を正し床に座る。


「今から言うことは、私の夢です」

「……夢?」

「なので翔君は静かに聞いていてください」

 深呼吸し、周りの音が聞こえないことを確認した羽花は宣言した。



「私は、強くなりたい。

 お兄ちゃん達みたいに、お互いを信じ合って一緒に戦って魔物を祓う。

 お互いがお互いを必要としあって、自分のことを任せられる――私は翔とそんな関係になりたい。


 そしていつか!!!!」


 羽花は目をつぶり、腹の底から叫ぶ。


「皆が笑いあえる世界を作りたい!!!

 世界中のみんなが、私達が、全員が幸せになれる世界を!!!」


「だから一緒に戦おう、翔」


 ゆっくりと扉が開く。

 そこから出てきた翔はただ静かに、床に座る羽花を見下ろしていた。


「俺は自分が嫌いだ」

「私が好きだから、大丈夫だよ」


「突き進んで道を間違えたら、怖い」

「その時は私が止めるから、安心していいよ」


「兄ちゃん達に敵わない」

「まだまだこれからだよ」


「追いつけるのかな、俺」

「私も一緒に行くから、一人じゃないよ」


「もう羽花が傷つくの見たくないんだ」

「じゃあ私も早く強くならないとだね」

 いたずらっ子のように笑う羽花の顔を見た瞬間、緩んでいた涙腺が崩壊した。


「っ、痛い、思いさせてごめん」

「私こそごめんね、ありがとう」

 翔は震える手で、あの日のぐったりとした羽花の感触を上書きするようにもう一度自らの腕の中に閉じ込めた。


「俺、強くなるよ」

「うん」

「もう絶対羽花を傷つけさせない。

 俺が羽花を守れるくらい強くなる」

「ありがとう」

「だから――」

 体を離し、二人は両手を合わせた。

 優しい温もりが掌を通してお互いに伝わる。



「一緒に戦おう」

「うん!」

 二人はとめどなく溢れる涙を拭うことなく笑いあった。


『失敗は悪いことではない。挫けない人が、強くなる』

 前に爺ちゃんが言っていた言葉を思い出した。


 翔は心の中で呟いた。


 ――爺ちゃん、俺強くなるよ。


 守りたいものが出来たんだ。

 だからいつまでも落ち込んでいられない。


 両家に課せられているのは『世界の平和の存続』だけど、俺は『羽花の夢を叶えるため』に強くなる。

 兄ちゃん達も、爺ちゃんも超えて、


「歴代最強の術者になってやる、羽花と一緒に」

 二人は再び顔を合わせ、口角を上げた。


 いつもとは逆の立場で相手と接した二人は、一つの壁を乗り越えまた一段と強い絆で結ばれた。

 この絆はこの先、ずっと解けることはないだろう。



 デビュー戦。

 二人にとっては悔しい一戦だったかもしれない。

 それでも今回のこの戦いがこの二人を成長させてくれたことは紛れもない事実であり、それはこの先も変わることはない。


『歴代最強の術者』

 二人が目指すこの肩書。

 この日、最強術者の二つの卵が誕生した記念すべき始まりの日となったのである。










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