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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第四章 変化
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怖さの先に構える光

「私もはっきりとはわかりませんが、噂ではいらっしゃるみたいです」


 ピリカの答えを聞き羽花は口を閉じた。


 術者でさえも限られた者しか使えないその術式。

 今いる術者の中で使えるのは若爺とおじさん、そしてお兄ちゃんの三名のみ。

 しかしお兄ちゃんは右手を負傷しているため、恐らく記憶操術はもう使えない。


 となると現時点で残るのはたった二名。

 それなのに魔界には少なくとも一名はその術式が使えるということ?


 けれどおかしい。

 何故ならば魔物は術式を持たないはず。


 先程ピリカが言っていたことを思い出し、改めて考える。


 昔からそう教えられてきたし、実際魔界のことをよく知るピリカがそう言っているのだから恐らくそうなのだろう。

 もしかしたら記憶を消されたから覚えていないだけで、魔界にも術式を使う者が数名いるのかもしれない。


 この可能性はしっかりと覚えておくことにした羽花は、忘れることがないように心に刻み込んだ。


「術式を持たない分、魔界に皆にはそういった特典があるんだね」

「いいえ、これは人間様にもありますよ」

「え?何が……?」

「回復術です」


 ピリカのハッキリした声が羽花の頭を悩ませる。

 未だかつて見た事がないのに、何故そんなに自信満々に言えるんだ。

 確かに何千年も人間を見てきたピリカはより人間のことを理解しているのだろう。


 それでも自分の身のことは自分がよく知っている。

 私は間違いなく人間で、まだ十数年しか生きていないけれど客観的に見るより当事者の方が知識はあるのではないだろうか。


 ほら、百聞は一見に如かずって言うし。ちょっと意味は違うけれど。

 心の中で自問自答を繰り返す羽花の意識を呼び起こしたのは、ピリカの声だった。


「人間様も持っています。

 けれどそれを使えないのです」

「使えない?」

「人間様の体に眠る回復術の核。

 魔物の制限は四、それに対し人間様はたったの二回。


 それも生まれながらにその回復術を使える魔物とは違い、人間様は持っていたとしても使えない――もしくは存在すら知らないのです。


 何故なら回復術を使えるようになるためには”一度死ぬ”ことが条件ですから」


【回復術―体内核―】

 天力による回復術とは違い、人間の体内に眠るたった二回のみ発動が可能なこの術式。

 本来術式とは異なるのだが、人間の使う回復術と酷似しているため総称してこう呼ばれるようになったという。


 ピリカの説明の通り、最大発動回数――魔物:四回、人間:二回と定められている。

 発動条件は一度命を落とすこと。


 魔物は最初の「儀式により一度命を剥奪されるため、気が付いた時には既にこの術式が発動出来るが、人間には”一度”という回数制限はない。

 つまり死んでしまうと術式発動どころか、二度と姿を現すことが出来なくなってしまう。


 それ故に体内の核による二度の回復術の発動は人間には不可能なのであった。



「だからこそ人間様が自分の力を最大限に発揮し魔物と渡り合っていくには、いかに体力や力を持続で出来るかがカギとなります」

「持続することによって高い攻撃を与え続けるってこと?」

「はい。

 私は今までの交戦成績を見ておりますが、中級以上の魔物対人間様の勝率はおよそ六割。

 上級になれば七割以上の確率で魔物に白旗が上がるのです。


 その理由としては――」

「対上級。

 いくら実力のある術者でも当然ただでは終われない、多少なりともハンデを背負う。


 マックスの状態で五分五分なら、体力が、天力が底尽き、精度が落ちた攻防で、回復しベストを保つ魔物に勝つことは出来ない」


 ピリカは頷き、羽花に向き合う。

 両者の真剣な視線が交差し、どことなく緊張感が走る。

 ピリカは右手の指を四本立て、低く存在感のある声で告げる。

 その声を聞いた羽花は背筋を伸ばし、姿勢を正した。


 本来敵であるはずの目の前の少女。

 敵だとしたら相当厄介な相手。

 現にあのまま戦っていれば、間違いなく敗北していただろう。


 そんな彼女が自ら稽古をつけてくれると言った。

 彼女は魔界で最上位につく実力の持ち主。


 今日まで沢山の人間の力を吸収し、沢山の術者を戦い、魔界で過ごしてきた彼女と稽古が出来るなんて。

 羽花は高揚する気持ちを抑えきれず、頬を緩ませた。


 深夜の公園で、前代未聞の特別稽古が行われたある日の事だった。



「貴方にはこれから、魔物が四度全回復しても戦い続けられる力量を蓄える器を作っていただきます」



 ※ ※ ※ ※


 いつからだろう、新しいことに挑戦することが楽しみになったのは。

 羽花は気分の高まりに比例するように上がる体温を感じながら考える。


 昔から新しい何かに手を出すことが苦手だった。

 失敗してしまうのではないかという不安、出遅れ感や焦燥感、そして何より怖かった。


 新しいことを始めるのには勇気がいる。

 当然、初めから上手くいかないことなどわかっている。

 練習して、練習して、練習して。

 そうやって少しずつできるようになっていくということはわかっている。


 それでも先の見えない恐怖、失敗する恐怖、周りの目が怖い。

 沢山の恐怖を感じることがとにかく嫌だった。


 この世界は常に新しくいなければならない。

 一日たりとも同じ日は許されないのだ。


「羽花」

「はい」

「何か一つでいい。新しくなるのじゃ」

「新しく…?」

「常に変わってゆけ。変わらないものに勝利はない」

「はい」

「攻略されていたとしても、新しい何かを持っていれば優位に戦えるかもしれない。

 昨日と同じ自分でいることは楽な道で、歩きやすいかもしれぬ。

 それでも――」



「変わらなければ成長もない」


 それから”新しい”が好きになった。

 新しいは怖く、不安なことも多いけれど、その先には今までにない自分が待っている。


 辛く、苦しく、怖い道を抜け待っているのは明るい未来だとは限らない。

 新しいものを手にしていても上手くいかないことだって多いし、やらなければよかったことだって沢山あるだろう。


 経験は自分の財産だ。

 昔何かで聞いた気がするその言葉。


 当時は「かっこいい言葉だなぁ」なんてなんとなく思っていたけれど、今ならわかる。

 まさにその通りだ、と。



 良いことも悪いこともどちらも自分の財産で、自分を作り上げる重要なパーツ。

 パーツが一つ違うだけで、今の自分とは全く異なる自分が出来上がっていたことだろう。


 羽花は今まで挑んできた沢山のことを振り返った。

 そして思った。

 そのおかげで今の自分がいるんだ、と。



 強くなりたいという願いが、新しさへと導く。

 約束を守りたいという決意が、心を守る。

 周りの皆が、背中を押す。



 やりたくなくて、嫌々挑戦してきた私とは違う。

 自分の意思で私は今ここにいる。


「新しいは無敵だ」



 力強い眼差しで顔を上げた羽花に、ピリカは微笑んだ。

 呼吸を整える羽花はそんな彼女の表情に気が付いていない。

 そのことが何よりも嬉しかった、それほど集中している証拠なのだから。



 まだ知らぬ沢山の知識を吸収し、私は絶対強くなって――


「さあ、始めましょうか」

 羽花は息を吐き出し告げた。

「お願いします」


 私は絶対強くなって、歴代最強術者になる。

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