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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第四章 変化
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最大の敵からの教示

「稽古……?ピリカさんと?」

「ピリカでいいですよ、羽花さん」

「じゃあ私も羽花、で。

 タメ口でいいですよ?」

「私のこれは癖みたいなものなので気にしないでください。

 羽花は気にせず使ってくださいね?」


 笑顔を見せたピリカに、羽花も微笑み返す。

 こうして始まった前人未到の特訓。

 それはほんわかした彼女からは想像出来ない程厳しいものだった。


「羽花、違います!!!」

 先程からこの公園には彼女の叫び声が鳴り響いていた。

 羽花が宙に作った結界に飛び移った瞬間放たれたその言葉に驚き、思わず結界を解除してしまった羽花はそのまま地面へと落ちていった。


 地に触れる寸前のところで身を翻し着地した羽花は息を整えながら、腰に手を当て仁王立ちするピリカを見た。


「私は結界を張ることは出来ません。

 何故なら魔物に与えられた力は単純な力。

 そこに術式や、時間差などは付与できない」


 昨日の敵は今日の友。

 まさにその通りで絶対に交わらないと思っていた魔界の住人が直々に指導してくれることは羽花にとって非常にありがたいことだった。


 何故ならば魔界の最上位。

 つまり魔界の中でトップクラスの実力を持ち、魔物の仕組みを知る彼女からの稽古は、対魔物の戦いできっと大きな影響を及ぼすだろう。


「その代わりに魔物に与えられたのが、膨大な力。

 まだまだ同等とは言えませんが一番魔物に近いのは、鳳莱家の雷の術者様です」

「景兄?」

「はい、彼は驚く程の力を所持しています。

 だからと言って魔物より多いかと聞かれれば答えはNo。

 あくまでも人間様の中では、というお話です」


 確かに景は両家の中で一番の実力と共に、所持している力にも恵まれていた。

 一度だけ翔が聞いていたことがある。

 何故あんなに動いても力が無くならないのか、と。

 それに対する景の答えはたった一言――「知らん」それだけだった。


 そのことをピリカに伝えると、困ったように眉を下げた。

「まあ、たまにそういう方がいらっしゃいますよね。

 無意識に出来てしまうお方。

 そう言う方は教えることに向いておりませんが」


 羽花はその光景が想像出来た。

 聞いたとしても再び「知らん」と返されるか、教えてもらえたとしても景の言葉が理解できずに苦しむだけになることを。


「でも個人の天力保有量は生まれた時から決まっているんじゃ?」

「そうですね、努力をしなければ変化がないのも当然です」

「努力?」

「うーん、わかりやすいか自信はありませんが。

 例えばその人の食べられる量ってある程度決まっていますよね?


 初めがおにぎり三個分が限界だとしましょう。

 でも毎食少しずつ無理をして食べ続けていくと、脳の満腹中枢がバグを起こしその状態に慣れてしまいます。

 当初限界だった三個分を食べないとむしろ満足できない程、いつの間にか体が変化しているのです。

 そうやって徐々に量を増やしていくことで沢山のおにぎりを食べられるようになります。


 しかしこれは胃が大きくなっているのではなく、あくまでも脳の満腹中枢の影響。

 そしてこの仕組みに似ているのが力の保有量です」

「力の保有量……」

「胃が大きくならないのと同じで、個体の体が大きくなる必要はありません。

 ようは脳を麻痺させ、体内に閉じ込めておく力の許容量を拡大するのです」


 きっとただ答えだけ並べられても理解は出来なかった力の仕組み。

 身近で、わかりやすい例を掲げてくれたおかげですんなりと理解することが出来た羽花だが、一つ疑問が浮かんだ。


「その拡大って言うのは?」

「人間様も魔物も力を使った時、体内にはその分の空きが出ますよね?」

「はい、すぐには回復できないので」

「要は出て行く力よりも上回る量を回復していけば、体は次第に慣れていきます。

 二放出したのなら三回復、次に三放出したのなら五回復――そうやって徐々に回復量を上げていくことにより多くの力を蓄えられるようになるのです」


 ピリカは頷く羽花に手を伸ばす。

「ただし注意が必要です。

 自分の治癒力に任せていたら結局今ある最大値までしか回復できません。

 そこで必要になってくるのは自分以外からの回復です」


 ピリカの説明はこうだった。

 自分の体による回復の場合、最大値までの回復しか出来ないが、他者から受けた回復術にはその最大値を引き上げる効果があるという。

 他人による回復術を受ける場合、ある程度の損失力を推測し、それに見合った力を流される。

 つまり他者の判断故、多少の誤差が出てしまう。


 しかし回復術を使う者は決して素人ではない。

 的確な判断でほぼ正確な力量を判断出来る。

 けれどやはり本人以上にデータを詳しく知る者はいないだろう。


 自分の空腹に気が付き、お腹いっぱいまで食べられるのが本人ならば、言葉を話すことが出来ないお腹の空いている人に食べさせる他人はおおよその予測しかできない。

 つまり他者から誤差のある回復術を受けながら自分自身でも天力を回復させる。


 ――というものだった。



「一見簡単そうに聞こえますがタイミングを誤れば全て水の泡です。


 遅ければ自力での回復は不要とみなされ作用せず、早ければ他者からの回復術を受け体が耐えきれずに死に至る。


 ベストなタイミングは他者からの回復術の最後の瞬間――最大値に近づく最後の力を受ける瞬間にまだ空いている隙間に自力での回復を少量ねじ込むこと。


 そうすることにより逃げ場を失ったはみ出た回復力はその場に止まることしか出来ず、体内には百何パーセントの力を閉じ込めることになる。


 初めは最大値を超えた力に体はパニックを起こすかもしれませんが、慣れては増やし慣れては増やしを根気よく続けていれば、必ず体内の保有量は増えていくはずです」


「ピリカ達もそうやって増やしていったの?」


 羽花の問いかけに目を丸くしたピリカは口籠った。

 何やら言いにくそうな空気を察した羽花は無理に問い詰めたりせず、次の話題を懸命に探した。

「そういえ――」

「魔物は、」

 同時に言葉を発した二人だが、先程の答えだと気が付いた羽花は身を引く。

 互いに互いの意図を汲んだ速やかに話し手と聞き手に分かれた。


「魔界ではどうやら一番初めにある儀式があるそうです。

 魔界のトップに君臨する誰も知らない頭。

 儀式では彼から大量の力を始めに与えられ、それに適応できる体を作らされる。

 そしてその体には瞬時に力を回復できる仕組みが施されています」


 魔物の回復の速さはこの仕組みによるものだった。

 怪我をしても驚くスピードで再生し、何事もなかったかのように動き回ることが可能になる。

 全ての魔物が持つ、不思議な仕組み。

 しかしそれには回数制限があった。


「四回――それがこの仕組みの上限です」

「使える回数があるんだ……」

「目に見えてわかるものではないですが、その回復スイッチみたいなものは魔物の体内に存在します。

 個体によって場所が変わったり、本人がそれを把握していないためかなりの難易度にはなりますが、その箇所を攻撃してしまえば魔物は回復する術を失うことになりますので、戦いが一気に有利になるかと」

「そんな儀式があるんですね」

「はい。

 しかし残念ながらその儀式は記憶から消されてしまうので、何があったのか、誰がいたのかなどは誰一人として覚えていないのです。

 このことも儀式参加直後、記憶を消されまだ断片が残っていた魔物に聞いた話であって、私自身が体験したことを覚えているわけではないのですが」


 今まで知らなかった魔界での出来事。

 この数時間で、何千年も知ることが出来なかった情報を手に入れ羽花は事の展開の速さに戸惑っていた。

 戸惑いながら頭で繰り返された言葉。


『残念ながらその儀式は記憶から消されて――』


「待って、」

「はい?」

「魔界にも記憶操術を使える人が存在するってこと!?」

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