花VS花2
相手は私と同じ『花』の力を持っている。
『花』は互いに高め合うことは出来ず、より位の高い力を持つものがその場を制する。
現段階でこの場を支配しているのは私ではなくピリカの方。
まだ一つも当たっていない攻撃。
そろそろ一撃を食らわす……!!
「花属性 正三位 桜花爛漫」
「花属性 従二位 暗香疎影」
高く舞い上がった羽花は先に発動させた二種類に加え、新たにもう一種類の術式を発動させる。
「花属性 従三位 水月鏡花」
体から生え相手の力を奪う枝、それに気を取られている間に無意識に吸い込む毒、弱った体を切り刻む花びら。
頭の中のシュミレーション通りに術を発動させ、ピリカを追い詰める――――はずだった。
一手目の攻撃に体を傾けたピリカに手応えを感じたのも束の間、それ以降の攻撃はやはり相手に触れることなく、勝手に術式が解かれる。
「おかしい……今のが当たらないとなると何が原因なのか」
本日の羽花決して調子が悪いわけではない。
むしろ良すぎる。
体内の天力の流れを鮮明に感じ、そして周りの状況を察知する感覚も研ぎ澄まされていた。
身のこなしも今日はスムーズだった。
体が軽い、まるで自分の体ではなく誰かに操られているかのように俊敏な動きが出来る。
術式だって絶好調。
コントロール、精度。
全てにおいていつも以上の力を発揮しているのにも関わらず、相手に届かないのは何故なのか。
「単純に力が劣っている……それだけではなさそうね」
「ねぇ、あなたって本当に術者なの?」
「はい」
「……随分自信満々に答えるのですね」
今までなら「一応」などと濁していたであろう質問に、間髪入れず答える。
「私、人間様は好きではありません」
ピリカはブーケを持つ手を下ろし、静かに声を漏らした。
「でも何故でしょうね。あなたのことは憎めない気がします」
そう言って笑ったピリカは花のブーケを振りながら華麗に舞った。
どうぞ、そう促され羽花は植物の蔓や葉で作られたベンチを見つめた。
相手の力で作られたもの、そして隣には当の本人。
にこやかに笑っているけれど信じていいものなのか。
悩んだ羽花は、意を決してピリカの隣に腰を下ろす。
片手に猛毒の針を忍ばせながら。
「来てくれるとは……思ってもみなかったです」
隣に座った羽花を見つめながら、目を丸くしたピリカは自分の手元に視線を移した。
「先に言っておきます。
私はこの力で沢山の人間様を殺めました」
その言葉に羽花はピリカの顔から視線を逸らす。
「私はどう判断していいのかわからないです。
魔界に住む人達には大切なことだってわかっているから、何とも――」
「そうですね、魔物は人間様の力が無くても死ぬことはないのです。
しかしより充実した生活を、より高い地位に就くために私達は人間界に来る」
「人間様が苦手。
そう思い、私は復讐の意味も込めて人間様に手をかけ力を手に入れました。
初めは抵抗があった。
いくら憎き相手だからと言って、命を奪うことにはそれ相応の覚悟がいる。
けれど一度そのタガが外れてしまえば、後は息をするようにその行為をするようになってしまった。
そうして上り詰めた、魔界での最上位。
私は殺めたことに後悔はありません」
「ピリカさんは最上位なんですね?」
「こう見えて、私は初期からいるんですよ?」
「初期?」
ピリカは指先を揃え、手を伸ばす。
その指先に触れた羽花の左手はピクリと跳ね上がった。
「人間様がこの証を持つようになり、それと同時に魔物は誕生した。
私もその時の一人なんです。
かつて人間様を滅亡の危機に追い込んだのは私を始めとする五名の魔物。
沢山の人間様を喰らい力をつけた当時の五名は今も尚、強大な力を手にし魔界に君臨しております」
ピリカには先程までの脅威がなく、不思議に思った羽花は問いかけた。
「ピリカさんは何故そのお話を私に?」
ピリカは首を傾げる。
「何故憎めないのか、はっきりとした答えはわかりません。
ただ力を突き合わせている時に感じるあなたの人柄が、そうさせているのかもしれませんね」
眉を下げ笑顔を見せたピリカは揃えた指先を移動させ、視線を向けた。
「きっと他の術者様なら躊躇わずに振りかざしますよ、そちらの」
「……気づいていたんですか?」
「勿論。申し上げたじゃないですか。
沢山の人間様から頂いた力、それが私の神経を研ぎ澄ませているのです」
「あなたは不思議な感じがします。
まるで術者じゃないみたい」
その言葉に羽花は開いた口を閉じた。
そして気になっていた疑問を言葉に出す。
あの日確信に変わったことを、魔界に住む当の本人からの証明を求めて。
「魔界には、人間に殺意のない方はいますか?」
ピリカは爪にネイルを施した綺麗な指先で髪の毛を救い上げある一点を見つめる。
その視線の先――そこには午後六時に解放される二つの世界を繋ぐ出入口があった。
「いません」
悩む素振りは一切なく、まるで答えが決まっていたかのように強く口にしたピリカは、先程まで浮かべていた笑顔を消し光のない目をしていた。
「貴方達人間様にとって魔界とは、魔物の存在とは一体何ですか?」
羽花は口をまごつかせた。
答えられないわけではない。
三歳、初めてこの世界の秘密を知り今日までそのしきたりの為に沢山の時間と我が身を浪費してきた羽花はもう口にする言葉は決まっていた。
しかしそれを当の本人に言ってしまっていいものなのか、その思いが羽花の口を閉ざす。
「いいですよ、気にしなくて。
私も先程から、貴方達人間様のことを言っているのですから」
ピリカはそんな羽花の異変に気が付き声をかけた。
暗闇に支配されたような光のない視線と目が合い、思わず視線を逸らした羽花は早まる鼓動を感じながら口を開いた。
「私達術者が籍を置く蓮水家・鳳莱家。
その両家に伝わるしきたりの内容は『異門を抜け侵入し、人間に危害を及ぼす魔物達を祓う』こと。
侵入者を野放しにしておけば、この世界はそれこそ滅亡してしまう。
今この世界に生きる命が平和で幸せな時間を全うできるようこの世界を守るのが、私達術者の役目です」
「つまりは悪と正義の”悪”ということですね?」
その問いかけに羽花は答えられなかった。
隣でその表情を見ていたピリカは目を閉じ優しい笑みを浮かべた。
「本当に、不思議なお方」
ピリカは立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
その一連の動きを座りながら目で追う羽花を振り返り満面の笑みで言った。
「意地悪、しちゃいました」
「え?」
後ろで手を組み方を竦めた彼女はお道化た表情で言った。
「貴方があまりにも綺麗な心を持っているから、自分が酷く汚く見えてしまったので」
一人くすくす笑うピリカはもう一度髪型を整えながら口を開く。
「先程の質問――」
「質問?」
「人間様に殺意のない魔物のことです」
「さっき『いない』って」
状況がわからず困惑する羽花は、ピリカから伝えられる次の言葉を待った。
その視線に気がつき彼女は悲しそうに微笑んだ。
「います」
「え…?」
「正確にお伝えすると”いました”」
「いました……」
「たった一人だけ」
人差し指を立てたピリカを見つめながら脳裏に浮かぶ一人の姿。
小さな体で、果敢に立ち向かっていく一人の少年の姿を。
【お知らせ】
無事クリスマスという試練を乗り切り、年末年始と最近始めた副業バイトに全力を注いでおります。
12/28~1/5までの短い期間ではありますが、毎日投稿を再開したいと思います。
本業・副業がありなかなか執筆に当てる時間が無いのが現状ですが、可能な限り毎日投稿に近づけるべく頑張りますので、お時間ある際に読んでいただけると嬉しいです。
2021-12-27 桜音愛花




