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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第四章 変化
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花VS花

 目の前の少女は相変わらず可愛らしい笑みを浮かべ、透き通った声に似つかわしくない棘のあるその言い方に、羽花は思わず体を震わせた。


 恐怖に支配されたわけではない、外の寒さにやられたわけでもない。

 けれど確かに感じたこの違和感。


「お手合わせ願います」

 その言葉と同時に飛び出したピリカの背中には真っ白な羽が生え、ひらひらと数枚抜け落ちた。


 咄嗟に張った結界が彼女の攻撃を防ぎ、間一髪羽花はその攻撃に触れることなくやり過ごす。

「そんな気がしていたけれど、相性悪いよね」


 宙を羽ばたく彼女の手に握られているのは大量のシロツメクサ。

 先程まで冠として彼女の頭を飾っていたそれはいつの間にか結びを解かれ、ブーケとして今度は彼女の手元を彩っていた。


 彼女の可愛らしい雰囲気にぴったりな攻撃スタイル。

 手元の花を振ることにより、様々な攻防が放たれるようだ。

 しかしその華麗さとは裏腹に、一瞬たりとも油断ならない鋭い攻撃は間違いなく上級クラスのものだった。


「貴方、上級ですよね?」

「私自分の階級は興味ないのです。

 ただ一つ言えることは”心の底からに人間様が苦手”。

 それだけです」


 まるで地上で舞うように優雅に花を振り回すピリカ。

 その度に体を揺するような強風と、眼球を痛みつける粉のようなものが飛ばされ羽花は一撃を放つことさえもままならない。


 天力の残量……計算しながら組み立てないと後々大変なことになる。


 あの日負荷をかけすぎたせいか、あれからハナが姿を現すことは一度もなかった。

 つまり回復術に頼れない今、己の実力が試されていた。


 羽花は最小限の天力を放ち、全身に結界を張るとそのまま勢いよくピリカに突っ込む。

「花属性 従三位 水月鏡花」


 周囲に漂う大量の花びら。

 しかしその量はいつもよりも断然少ない。

 花びらの量より、相手の目を晦ます質を優先したそれはピリカの周囲にも届くはずだった。


 パラッ


 羽花が生成した花びらは視線を誘導するように宙を自由に舞っていたが、ある一定の距離に進むと勢いを無くし、地面に吸い寄せられた。

 相手に何の一撃も当てられずに力を失ったそれは、ピリカの足元を囲うように円を作っていた。


 相手に自分の攻撃が届かなかったからと言って打ちひしがれる羽花ではない。

 再び体制を整え、自分が習得してきた術式を発動し続ける。



 もう一度花びらを漂わせながら生成した毒を空気に溶け込ませる。

 何分経っても一向に相手に効果がないことに少し焦り始めた羽花がいよいよ残り少ない天力による術式を発動させようとした時、その声は聞こえた。


「私の方が強いみたいですね、お花の力」


 羽花が恐れていたことが起きてしまった。

 過去に一度も同じ属性と戦ったことはないが、若匡から聞いていた『同属性の交戦』。


 同じ属性同士の力は大きく分けて二つに分類される。


 一つ。

 火や風のように互いの力を高め合い、今までにない質力を発揮するもの。


 そしてもう一つ。

 花や時間のように決して混ざり合うことはなく、力の勝者がその場を支配する場合。


 今の状況はまさに後者――羽花の花属性の力が、ピリカの同じ力に押し負けていた。

 攻撃の手段が削られ焦りが見られたタイミングで放たれたピリカの力は、羽花の体に直撃した。


 まるで何トンものおもりが飛んできたような衝撃を体に受け、羽花は数メートル先まで飛ばされた。

 運悪く地面から顔を出していた木の幹に頭を強打し、白く光る視界でピリカを見つめた。


 来る、こっちに向かってくる。

 早く立ち上がって防がなきゃ。


 頭ではそう思っていても、衝撃を受けた体は自由が利かず、意識が遠のいて行くのを感じた。


「この木も、力……か」


 ほぼ毎日この場所に足を運んでいる羽花にはわかる。

 こんな公園の中央に、木が生えていないことくらい。


 ピリカは羽花が突風の悲劇にあった瞬間、おおよその飛距離を計算し、ピンポイントで地面から立派な大木を生やしたのだった。

 まんまとその作戦に乗った羽花は、相手の思い通りの結末へと辿り着いた。



 いよいよ閉ざされた視界。

 それを補うように研ぎ澄まされた聴覚が彼女の言葉を一言一句間違えることなく拾っていた。


「疲れてしまったので少し休憩させてくださいね。

 安心してください。

 私、意識のない方を一方的に痛めつけるのは好きではありませんので」


 そう言ってこの空間に似合わない程メルヘンな花籠が突如現れ、ピリカはその中に入り込んだ。

「それではまたあとで」

 優しい声に促されるように遠のいた意識は、そこでプツンと切れた。



 ※ ※ ※ ※



 誰?何かが聞こえる。何を話しているのだろう。


 謎の話声が聞こえうっすらと目を開けた羽花は、今自分が置かれている状況を思い出し勢いよく顔を上げた。

 聞こえたはずの話声はぴたりと止み、人っ子一人いない目の前の光景に気味の悪さを感じた。


 姿が見えないピリカは花籠の中にいると予想し、羽花はまず自身の体に巻き付く蔓を解除しようともがいた。

 しかし強力なそれは一筋縄ではいかず、身を捩っても一向に緩む気配のない蔓を睨み付ける。


「強力……私のより頑丈に作れているのが悔しい」

 拘束されている腹立たしさよりも、同じ『花』の使い手として向こうが長けていることに劣等感を感じ、羽花は心を靄つかせた。


「早く帰って練習しよう」


 新たな目標を口に出し確認した羽花は、巻き付く蔓に視線を移す。


 本当は天力を使いたくないけれど……


 羽花は身を捩り辛うじて触れられる蔓に自身の天力を流した。

「花属性 正三位 桜花爛漫」


 蔓に無数の枝が突き刺さり、どんどん亀裂を増やす過程を眺め、拘束が解けた体を立ち上がらせた。

 花籠に視線を向け一歩踏み出した時、数秒前まで存在していた籠が消えピリカが姿を現した。


「早いですね」

 感心しているピリカを見つめながら羽花はもう一度術式を発動させる。


『人生の中で大切にしたい複数の事柄。

 一、何事も極めること・理解することは当然。

 しかしそれらを最大限に使いこなすには全てタイミングにかかっている』


 それなら――


「良きタイミングを見つけるまでのこと!」

 笑みを絶やさずこちらを見つめる少女を見つめ返し、羽花は言い放った。



 相手が花を振り回す瞬間、タイミングよく背後に周り、その背に手をついた羽花は術式を発動した。

「花属性 正三位 桜花爛漫」



 案の定二度目も弾かれた羽花は、何かを考えるようにぶつぶつ声を漏らし距離を取った。


 心臓から枝は生え始めていた。

 途中で解かれたことを考えると、まだタイミングがあっていないだけ。

 この術式が相手に効かないわけではない。



 自身の天力と引き換えに次々と情報を得る羽花。

 着実にこの場を制する者へと近づいている彼女の一番の試練は天力が持続するかどうか。


 相手の分析のため、自身の攻撃のため、限りある力を効率よく使うという羽花の腕が試されるのだった。

無事クリスマスを乗り越えました......

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