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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第四章 変化
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待ち人

「俺は――手術を受けない」

 そう言い切った朝陽の目は真っすぐで、迷いなんか一つもなかった。


「でもそれじゃあ!!」

 羽花は声を荒げたが朝陽は落ち着いたまま口を開く。

「大丈夫。言っただろ?諦めないって。

 諦めるつもりなんて微塵もないよ」

「じゃあどうして――」


「完全に目が覚める前、周りの回復術者達の声が聞こえたんだ。

 どうやら俺がまだ起きないと油断していたらしい。


 先生曰く『過去にどんな症状も治せた優秀な回復術者がいた』らしい。

 先生もなんとなく聞いたことがあるってだけだった。


 もしかしたらそれはデマかもしれない。

 けれどもしその人がいるのなら、俺はその人に賭けたい」


「でも早く手術しなきゃ他の細胞が危ないんでしょ?」

「あぁ。

 だから時間の問題だ。


 ガセネタあるいは見つけられなかったら最悪俺は死ぬ」


 唇をかみしめる羽花は、

「でもさ、」

 その声に再び顔を上げる。


「失ったものは戻らない。

 けれど可能性がある限り、それを信じたいんだ。


 絶対とは言い切れない、約束は出来ない。

 けどもし戻って来れたら、また一緒に稽古してくれるか?」


 羽花は真っ直ぐな瞳を見つめ返し、視線を下ろす。

 視界に入った痛々しく、異様な雰囲気を放つ右手を優しく包み込んだ。


「痛い?」

「痛くないよ。何もわからないんだ」

 その言葉を聞いてゆっくりと額に引き寄せた。


「待ってる。お兄ちゃんが帰ってくるまでずっと待ってる」

「うん」

 朝陽の手を放し、渡された結晶を握り締め、羽花は笑顔で言った。


「いってらっしゃい」

 朝陽は大きくなった妹に、昔の姿を重ね笑った。


 ※ ※ ※ ※


「お兄ちゃん、学校いってらっしゃい!!」


 ※ ※ ※ ※ 


「いってきます」

 歩き出した朝陽は一度も振り返ることはなかった。

 羽花はそんな兄の姿が見えなくなるまで見送る。


 ――お兄ちゃんは「待ってて」とは言わなかった。

 けれど私は、


「お兄ちゃんが帰ってくるって信じてる」


 見つめる先――そこにもう朝陽の姿はなかった。

 優しく吹く風に包まれながら振り返った先に構える異門。

 それを真っすぐ見つめた羽花の心はもう固まっていた。


「よし」


 時刻は午後四時。

 季節の関係もあり、すっかり暗くなった外の世界で、もうすぐ始まる本日の任務に向け羽花は歩き出した。

 寒さで両手を擦り合わせながら歩く羽花は、なんだか心が軽い気がして心の中でメロディーを口ずさむ。



 そんな羽花を見送るように、異門の出入口の地面では緑色の光が綺麗な輝きを放っていた。




 ※ ※ ※ ※ 



 あの後第四異門に到着した羽花は、解放同時に侵入してきた魔物三体、続く八体を祓い終え軽く一息つく。

 今まで以上に多い侵入者に、あの日の仮説が正しかったことを痛感した。


「やっぱりお兄ちゃんと景兄の存在は大きかったのか」

「わ!!!」

 早くも息切れし始めた体に糖分を補給していると、突然耳元から大きな声が聞こえ肩を跳ね上げた。


「おじさん!!」

 軽快しながら勢いよく振り返るとそこには鳳莱徹の姿があり、羽花は首を傾げた。

「どうしたんですか?……まさか、緊急事態じゃ」

「違う違う。

 プライベートだから安心して」

 プラプラと手を揺らしながら笑う徹に羽花は息を吐き出し、再び問いかける。


「珍しいね、おじさんが来るの」

 任務中、この公園を囲むように結界が張られており、一般人の侵入を防いでいる。

 術者用のぬけみちは作っているため、そこから自由に出入りすることは可能だが、基本的に誰かが侵入してくることは滅多にない。


 稀にあったとしても現若者世代のうちの誰かであり、徹や修、若匡が任務中に顔を見せたことは未だかつてないのである。


「ちょっとね。

 うわー、懐かしいなぁ。久しぶりだ、何年ぶりだろう」

 公園内を見渡し声を上げた修に、羽花は疑問を投げかけた。


「あれ?

 でもおじさん、魔物が大量発生した時ここの担当だったよね?」

 ぎくりと体を強張らせた徹は、あたふたと体を動かしながら弁解した。


「いや、ほら。羽花と来るのはさ?久しぶりじゃん!?」

「いえ。ここの公園にはおじさんと来たことありませんよ?」


 それもそのはず、羽花が初めてこの公園に足を踏み入れたのは三歳になったばかりの頃。

 若匡に連れられ、家のしきたりを始めて目の当たりにしたあの日だった。


 徹が一度も顔を見せていないということは、当然二人がこの場所で会ったことは一度もないのである。


「いやーにしてもあれ、翔が好きそうだなぁ」

 強引に話を変えた修は、腕を組みながら明らかに動揺した視線を遊具に移した。

 そのことに気づいていながらもスルーした羽花もその視線を辿り遊具を見つめる。


 徹がまじまじと見つめるそれに羽花は思わず噴き出した。

「それ、任務の度に乗ってたよ」

「え、本当に!?

 わかった、あそこに立ってたんでしょ?」

 あの頃毎日のように見ていた光景を言い当てられ、二人は顔を見合わせ笑った。


 まるで空気を読んだかのように、ピタリと侵入が途絶えた異門を眺めている羽花を呼ぶ声が聞こえ顔を上げた。


「羽花、俺は感動したよ」

「え?」

 突拍子もない発言に羽花は困惑した。


「今まともに戦えるのは羽花だけだ。


 両家の男性陣は全滅、茉莉もすっかり精神的にやられてまともに戦える状態じゃない。

 唯一変わらずに過ごせているのは羽花だけだ」


「そんなこと――」


「立派になったなぁ」

 しみじみと呟く修を見上げた羽花はその表情に胸が締め付けられた。

 驚くほど優しい目でこちらを見つめるそれは、まさに父親そのものだった。


 どこか翔に似ているその目を見て、どうしても伝えたくなった言葉を口に出す。


「茉莉姉もお姉ちゃんも、きっと辛いと思う」

「うん。でもそれは羽花も同じだろう?」

「私はその辛さを昔経験しているから」


 ずっと隣で切磋琢磨してきた存在がある日突然いなくなり、一人取り残される辛さ。

 既に経験している羽花はそれがどれほど辛いことか、身をもって知っている。


「それと同時に兄弟の離脱もあるんだから、私の何倍も辛いと思う」

「羽花は?」

「私は、約束したから」


 羽花の言葉の意味が徹にはわからなかった。

 けれど口を挟むことなく、静かにその言葉に耳を傾ける。


「それに今私が折れるわけにはいかないの。

 私まで折れてしまったら、皆が帰ってきた時に『おかえり』を言う人がいなくなるから。

 私は皆を待っていたい」

「そっか」

 二人はなんとなく辺りを見渡しながら時間が過ぎるのを感じていた。

 動きを止めた体には冷たさが篭り、鳥肌を立てながら佇んでいた。


「なぁ、羽花?」

「何?」

「異門の封印、どうするんだ?」

「……」

「昨日の夜、修と話した。

 上で決まった決定事項、羽花自身はどう思ってる?」

「私は――」

 羽花は言葉を詰まらせながら考えた。


 考えがまとまらないまま、相手を待たせている申し訳なさから、心の中の言葉をそのまま吐き出した。


「当然だと思う気持ちもあるし、悔しい気持ちもあるって感じかな」

「あくまで俺の意見な?

 一人だろうと、挑戦したい気持ちがあるのなら迷わずに進むべきだと思った」



 徹は魔物が侵入する気配がない第四異門を見つめながらゆっくりと口を開いた。


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