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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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直感

 翔は斜め前に立つ一人の少女を見つめる。

「………羽、花?」


 見た目も、声も、感じる天力も、羽花そのものなのに。

 でも確かに今ここにいるこの少女は自分の知っている女の子ではなかった。

 少女は次々と花びらを放出し、問答無用に標的へと切りかかる。


 これは先程まで羽花の背後にいた敵のみならず、翔の術を受けた際に四方八方に分散した個体にも向かっており、この公園内に散らばるどんなに小さな魔物に対しても花びらが追いかける。

 大量の花びらで覆われた翔は、その圧倒的な量と迫力に立つこともままならず顔を顰める。


「羽花?……やめろ、一回やめろよ。

力の消費が激しい」

 

 それでも必死に、大切な女の子へ声をかけるが、それも虚しく羽花の耳に届くことは無かった。

 

口元に笑みを浮かべ、ただひたすら楽しそうに術を放出し続けている彼女は一体誰だ。


「羽、」

 力ずくで止めようと手を伸ばした翔だったが、その腕に花びらが恐ろしい速さで掠り赤色の直線が出来上がる。


 ピリッとした痛み、我慢出来なくはないが治まることのない痛みの継続。

 多分、いや確実に。

いつもの羽花なら俺に攻撃は当てないはずだ。


誰よりも優しく、温かく、みんなが大好きな羽花がこんなことをするはずがない。

ということは、ここにいるのは全くの別人(羽花では無い誰か)



 そう頭では分かっているのに、翔はどうしても目の前の少女に攻撃の矛先を向けられずにいた。


 自分のことより相手のことばかり優先してしまう優しい羽花とはかけ離れたこの少女が、どうしても羽花だと自分の心が言っている。



「痛い?痛いよね?……でも私も痛いの。

腕も顔も首も、痺れてとても辛いの」

「おも、面白い、いいいい、面白いねぇ」

「そうだね、面白いね。

 私の術で苦しんでいる貴方が見られるんだから」

 

彼女が不敵な笑みを浮かべた瞬間、翔は少女に向かって術を放つ。

氷の結晶が手を離れた時に翔は心臓がバクンと大きな音を立てた。


無意識だったのだ。

彼女の表情を視界に映した途端、気づいたら術を放っていた。


動揺したのは一瞬。

次の瞬間には、もう戸惑いはなかった。

これで良かったんだ、そう自分に言い聞かせた。


「水属性 従四位下 氷消瓦解(ひょうしょうがかい)


【氷消瓦解】『水』属性に属する術者の天力によって生み出される技。

 物事が崩れてバラバラになること、または完全になくなる、という意味から作られた術式。


 氷が解けて消えるように、屋根の瓦が一部分崩れた際全体が次々と崩壊していく。

翔の攻撃もまた触れた相手をバラバラに砕き消滅させる効力がある。

 しかし翔が放った攻撃はあと一歩のところで標的には届かなかった。

 羽花の体を覆う天力が飛んでくる氷の結晶を弾き飛ばしたのだ。

 翔は自分の決意があっけなく敗れ、目の前が真っ暗になった。


「何?翔」

 

やめろ、やめろ。

 その声で、その姿で、俺の名前を呼ばないでくれ。

 その子は俺とずっと一緒に過ごしてきた、大切な――――


「見て見て、翔!

 腕がね、ほとんど変色してるの。

 痺れも強くなってるの。

 顔も結構痛いんだけどどうなってるの?」

 

鏡がないから見られないんだ、そう小さく呟きながら羽花は首を傾げる。


「う、腕と同じ……感じ」

 翔の答えに少女は痺れた顔をにっこりと歪める。

「そっか!じゃあ、お相子だ。ほら見て?」


 少女が指をさす先には花びらによりボロボロに切り刻まれる魔物が、苦しみ悶える光景が広がっていた。


 羽花との対立が始まった時と比べると塊内で起こっていた声の反響が少なくなっているように感じる。

 これはかなりの個体がやられていることを意味しており、それだけの天力を放って尚、彼女はこんなにも笑っているという現状が翔は怖かった。


「も、うやめろ。やめよう、羽花」

 翔は震える声で呼びかける。

「何、怯えているの翔。

 そんなんだから()()()()()んだよ?」

「……当たらない?」

「そう。

さっきの攻撃、私は何もしていない。

 私に届く前に勝手に消えていったんだよ」



 依然変わらず、大量の天力を消費し花びらを放出しながらケラケラ笑う羽花は最後にこう言った。

「これで、勝てると思ってるの?」

 その微笑みを見た途端、翔は力任せに術を放とうとしていた。


『翔、』この声が聞こえるまでは。


 唇を強く噛みしめ、咄嗟に術を変更した。

 急に放ったから上手くいかないかもしれない――――それでもどうか、どうか。


 上手くいってくれ…!!


「水属性 従三位 明鏡止水(めいきょうしすい)


 翔の術が発動した瞬間、翔と少女は海のように澄み切った不思議な空間にいた。


「な、何、ここ」

「俺の術式の中だよ」

「さっき当たらなかった割にはすごいね」

 見事だ、と拍手する少女を見つめ翔は微笑む。


【明鏡止水】『水』属性に属する術者の天力によって生み出される技。

 心が清く澄み切っていて、邪念のない心境のたとえから出来た術。

 この例えの通りこの術が発動した際、術式の対象となるものはすべて領域内に召喚され、邪念なく駆け引きすることが可能になる。



「羽花」

「なに?」

「羽花」

翔は首を横に振り、もう一度優しく呼びかける。

「だから、どうしたの?」

「羽花」

 何度も同じ言葉を紡ぐ翔の表情に少女は目を見開く。


「ッ、どうして泣いてるの?」

「頭では君が、羽花とは別の誰かだと思ってる。

なのに俺の心と体が言っているんだ。

『ここにいるのは羽花』だって」


 さっきの攻撃、俺は外すつもりなんてなかった。

 決めたんだ、この攻撃で仕留めると。

 でも当たらなかった、体が咄嗟に拒絶した――――当ててはいけない、と。


「羽花」

「なに?」

「戻って来いよ」

 優しい眼差しで少女を見つめた翔は、右手を差し出す。


「一緒に戦おう」

 少女はじっと見つめていた翔から目を逸らし、照れ臭そうに微笑んだ。

 ようやく、ようやく仕切り直しだ。

 羽花の体は大丈夫だろうか、きちんと治るだろうか。

 

 それでもひとまず。

ホッと胸を撫で下ろしたその時、翔は左頬に違和感を感じた。



「え?」

 ポタポタと流れ落ちる赤い液体、痺れ始めた皮膚、目の前で微笑む少女。


「うん。あなたと戦う」


 邪念なく駆け引きすることが可能になる。

 しかしそれは、術式発動者がその空間内で最も実力が高い位置づけにいる場合のみ有効である。


「翔、戦おう?一緒に」

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