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素晴らしいこの世界の片隅で。

両手にはバラの花を。両脇にはピストルを。

作者: ニチニチ

両手にはバラの花を。

両脇にはピストルを。


~ GOD BLESS ×me×××× (PIERROT) ~





あの時はゴメンね。

私も子供だったんだと思うし。


そして僕は爽やかな笑顔をたたえている。

そして僕は優しい笑みをたたえている。


今の彼女の瞳には僕の顔が天使に映っているのだろうか。




社会人1年目だったか。

中学時代の同級生に仕事帰りに駅のホームで遭遇した。

名前は思い出せないが、当時弱い男子生徒をイジメていた女子生徒だったと思う。


当時、現場に遭遇した僕は一言「やめろよ大人気ない」と吐き捨てるように言った。

別に正義感ではない。

ただ、不快感の方が大きかっただけだ。


プライドを傷つけられた彼女の怒りの矛先は僕に向いた。

黒く滲み出した気配は、じわじわと僕の周りを取り囲み、静かに浸食していく。

翌日からほぼ3年間鬱々とした日々がやってきたことは言うまでもない。


女子中学生社会は陰湿だ。

無視・悪口陰口が常套手段。

僕の全く知らない女の子から避けられるのは日常。

一番キツかったのは、当時の女子生徒会長が僕の私物には触れたくないと話していたのを聞いた事だ。


僕は率直に思った。

ああ、中学の生徒会長なんてのは所詮こんなもんか。


女子中学生特有の狭くて薄っぺらな世界。

その、鉛のように重い鎖で繋がれた世界を生き抜くのは、大変なことだと思う。

きっとそんな世界は男が生き抜くには辛すぎると思う。

男ならばその歪んだ世界で発狂してしまうのではないか。

そんな世界に触れなければならない女の人には、強く敬意を表したい。


そのほんの一角を体験できただけでも、今となっては貴重な経験だったように思う。

・・・別に感謝はしないけど。




僕の方は全く覚えてないが、向こうは気付いたらしい。


久しぶり。

ニチニチ君、何か変わったね。


甘ったるい嬌声が癇に障る。

聞いてもいないのに馴れ馴れしく近況報告してきたが、何を言っていたか覚えていない。


一方的な近況報告の後、突然塞ぎ込んだ素振りをみせる。

どうやら彼女は当時の自分の行いを悔いているようだった。


ずっと謝りたかったの。

あの時はゴメンね。

私も子供だったんだと思うし。


オレは爽やかな笑顔で言った。

なんだ、そんな昔の話か。


彼女はホッとした表情を見せる。


そうだよね。

昔のことだしさ。

優しいんだね、ニチニチ君って。


僕は限りなく優しい笑みをたたえたまま言った。






申し訳ございませんが、許せるほど人間ができていません。

もし、次にどこかで見かけても、声をかけないでください。

さようなら。






彼女はぽかんとしていた。

きっとドラマや小説のようなハッピーエンドになると思っていたのだろう。

お元気で。


僕は振り向かず歩き出し、すぐに駅の人混みへと消えていった。


そういえば彼女の名前何だっけ。

束の間考えたけど、中学生の卒業アルバムはすぐに捨ててしまったし、別にいいかと一人で納得する。




家路を急ぐ雑踏の中。


じわっと黒い気配が染み出してきたような気がした。

それはやがて黒い洪水に変わり、ぐるぐると渦を巻くことだろう。

電車の席に腰を下ろすと、案の定、僕はずるずるとその渦の中に飲み込まれていった。


正しい選択をしたとは微塵も思っていない。

いつか彼女が母親になったときには、正しい選択をして欲しいと思う。




遠い昔に誰かが言っていた。

人間が優しくできる人の数は限られている。

愛する人には限りなく優しく、そうでない人には限りなく残酷に。

それが出来れば立派な大人だ。


麻薬王だったかマフィアだったか今となっては定かではないが、ハードな人生を歩んだ人の言葉だったと思う。




今夜は月が低い。

こんなガサガサした夜は、ブランデーかウィスキーがよく馴染む。

酒の趣向の変化で年老いた自分を見かけたような気がしたけど、気付かない振りをする。


名前も知らない彼女には、僕の顔は醜く歪みきった悪魔に見えたかもしれない。

けれど、今となってはそれも悪くない気がするんだ。

あの頃、本当の悪魔になれていたらどれだけ楽だっただろう。





だから。





両手にはバラの花を。

両脇にはピストルを。

両足には鉄の鎖を引きずって、僕らは生きていくんだ。

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