のじゃロリ魔王、村長になる。~スイーツに釣られた最凶の幼女魔王による、聖域なき村改革~(短編版)
とびらのさん主催、「あらすじだけ企画」参加作品です。
少年、アルは妹のリズとともに、禁断の洞窟に入る。
ここには伝説の魔王が眠っていると言われていたのだ。
リズが持ってきていた、おやつのアップルパイの香りに誘われて魔王は目覚める。
魔王は、未成年のリズより小さな幼女の姿をしていた。
恐ろしいオーラを発する魔王はオリガトールと名乗る。
だが、魔王はアップルパイにご執心だ。
アルはアップルパイと引き換えに、魔王に取引を持ちかけた。
それは、限界集落化しつつある村を立て直してほしいということ。
村は既得権益化した村長一族の独裁により、若者が都会に出て、年寄ばかりが残る消滅寸前の状態になっていたのだ。
オリガはアップルパイのために立ち上がる。
まずは村長を蹴落として村長にならねば、改革はできない。
「妾は貴様ら人間のスケールに合わせて戦ってやろう! そう、選挙で現職村長を蹴落とすのじゃ!!」
オリガの宣言とともに始まる選挙戦。
秘書になったアルは、オリガの常識はずれな選挙戦略を目の当たりにする。
地元の有力者ではなく、ごく普通の老人にねぎらいの声を掛けて握手をする。
商店街一軒一軒を回り、店のものを食べて褒めちぎる。
果ては、わざとキレイなドレスを纏い、泥だらけの畑に降りていって、野良仕事をする老夫婦と握手を交わす。
どぶ板選挙と呼ばれるこの戦い方で、オリガは着実に支持を伸ばしていった。
一方、現職の村長は自らの権力にあぐらをかき、積極的には動かない。
それどころか、オリガの邪魔をすべく、先回りをして村民を脅したり、選挙事務所となっていたアルの家に火をつけたり、暴れ牛を突っ込ませたりする。
だが、相手は魔王オリガだった。
オリガは魔王としての力を行使して牛を止め、あるいは幼女としての可愛らしい外見を使って村民の心を解きほぐし、時には長い時を生きた魔王のカリスマを以って、村民に希望をもたせる演説をする。
村人たちの意思が、みるみるオリガへと傾いていくのを、アルは驚きの目で見ていた。
これはまさに、革命的選挙であった。
やがて始まる、村長選挙。
村民たちに、分かっているなとにらみを効かせる現職村長。
しかし選挙結果は、蓋を開ければオリガの圧勝。
前村長は不正選挙を叫ぶが、ここで村長によって村の金の横領が行われていたことが判明する。
前村長によって協力させられていた村人が告発したのである。
ついに地位を失い、前村長は夜逃げした。
村は新たな村長を迎え、再生を始める。
まずは、若い住人を呼び戻す必要がある。
都会に行った彼らを呼ぶには、村にしか無い良さを知らせるしか無いのだ。
「都会とて理想郷ではない。都会生活に疲れた者がいるはずじゃ!!」
オリガが取ったのは宣伝作戦。
田舎でのスローライフを打ち出す広報が、都会で行われる。
ちらほらと戻ってきた、あるいは新たにやって来る若者たち。
頭数が増えた村は、次なる作戦に打って出た。
村の観光地化を進め、国からの地方交付金をもらうのである。
オリガは国の観光担当役所へと向かい、地方交付金対象となるよう陳情を行った。
彼女がここで、プレゼンを行う。
村を、理想的な田舎村として都会に紹介し、一時的スローライフを提供するというのである。
まさに魔王的プレゼン力に、アルは戦慄する。
理想化された田舎暮らしを実現し、これをアミューズメント化するというのである。
役人は渋るが、ここでオリガからの山吹色のお菓子が唸りをあげる。
買収である。
清濁併せ持った作戦で、国から視察団派遣を勝ち取ったオリガ。
村に戻って急ピッチで準備を開始する。
それは、見た目だけ綺麗なスローライフができる村ではなく、村そのものの暮らしを、理想的スローライフにする計画だった。
村人たちに、村を豊かにし、暮らしを豊かにする夢を語るオリガ。
その伝説的演説で、村人たちの心に希望の火が灯る。
村の大改造が始まり、仕事の効率化が行われる。
時間管理、農具の改良、土地の改良。
オリガとアルが作り上げたのは、理想的スローライフ生活のしおり。
気ままに畑を耕し、それが終われば酒盛りをし、夜には星を眺めながら眠る。
そんな生活実現のために、村はその門構え、家々の作り、村民らしい態度まで徹底的にデザインされた。
そしてやって来る国の視察団。
彼らが目にしたものは、実にらしい田舎と、らしい田舎スローライフ。
村民たちの暮らしぶりも、とてもそれっぽい理想的な田舎。
視察団は大いに満足し、ついに村には地方交付金がもたらされる。
設備を充実させ、広報をうち、村は観光客を迎え入れた。
村に金が落ち、豊かになっていく。
豊かな村に憧れてやって来る、新しい住人たち。
人の数を増やし、大きく、そして豊かになった村。
これを眺めながら、村長オリガは満足げにアップルパイを頬張るのだった。
そして、宣言する。
「次は、村を町にしてやるのじゃ! そうすれば妾は町長じゃ! ついてまいれ、秘書!」
「はい、先生!」
幼女魔王村長と、秘書の少年の楽しくも忙しい毎日は続いていく。