表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第7話「獅子神レオンドラ、祝祭の影で吠える」

火を囲んで、村人たちはいつものように静かに食事をとっていた。

“木札制度”と“耳の庵”の導入により、グレンムラの内部は少しずつ安定の兆しを見せていた。

しかし、神々の思惑が交錯するこの村に、静けさなど長く続くはずもない。


その日、昼を過ぎたころ――

村の南の丘から、眩しい光と太鼓の音が響いた。


「グレンムラの者たちよ! 今日からこの村に、**“本物の輝き”**がやって来た!」


きらびやかな金色の衣、たてがみのような巻き髪。

そして、眩しいほどの自信と光をまとって現れた神。


獅子神・レオンドラ。


その背後には、彼女を称えるように集まった民たちがいた。

豪快な笑い声と共に、彼女は村の中心に足を踏み入れる。


「聞いたわよ。この村、“神々の集まる最初の邑”なんですってね?

だったらふさわしいわね、私が統べるに。」


アストレイアが前に出る。


「統べる……? レオンドラ、何をするつもりなの」


「決まってるでしょ? 祝祭よ。王の即位を祝う、光の祭典。

私は、村をひとつにまとめる。あなたの秩序なんて、地味で退屈よ」


リーブラが静かに反論する。


「ですが、強い個が中心に立つ体制は、“王とそれ以外”の分断を生みます。

あなたの統治は、果たして調和と言えるのでしょうか」


「あなたねぇ、言い回しは立派だけど、要は地味なのよ」


笑いながらそう言うレオンドラの周囲には、「光の祭り」と称して音楽や酒、衣装の準備を始める者たちが集まっていた。


それを遠巻きに見るアストレイア。

そして、村の子どもミナがぽつりと呟いた。


「……お兄ちゃん、昨日から笑ってない。

“何もせずに楽しんでる人たちを支えるのがイヤになった”って……」


アストレイアはその言葉に、かつて耳の庵に投じられた紙を思い出した。


『“頑張る”を嘲笑う笑顔が一番怖い』


レオンドラは村人を集め、祭壇を築こうとしていた。


「私の像を作りなさい!

この邑を守る象徴として、レグルスの光を刻むのよ!

これは祭りじゃない、信仰の始まりよ!」


その瞬間、彼女は空を指差した。


「見なさい。

あれがレグルス。獅子の心臓。私は、あの星と共に歩んでいる。

だから私は神であり、王でもあるの。」


村人たちは黙った。

誰かが小さく拍手し、また一人が声を上げる。


「レオンドラ様がいれば、きっと村は強くなる!」


アストレイアは一歩だけ前に出て、空を見上げた。


「……確かに、あなたはあの星とつながってる。

でもね、レグルスは“真昼には見えない星”なの。

見えるのは夜だけ。

だからあなたの力は、闇の中でしか本当に試されない。

民が苦しんでいるとき、光だけじゃ足りないのよ」


レオンドラは笑う。


「それなら夜にでも見に来なさい。

私の星がどれだけ強く、輝いているか。」


そして、夜が来た。


レオンドラは再び空を指す。


「私はここ――レグルス。

王が王たる所以は、他者に示す姿があること。

どれだけ恐れられ、どれだけ憧れられるかで王は決まる。」


だがその夜、もう一人、空を指した者がいた。


アストレイアが、スピカを指して言った。


「私はこの星。穀物を抱く乙女。

誰も見ていないときでも、支え続ける手を持っている。

だから私は神であり、民のために立つ。」


村は揺れていた。

熱気と光に染まる一方で、火の陰に座る者たちがいた。


シュウがそっと言う。


「……この村、まるで星座の間で引っ張られてるみたいだ」


リーブラは目を伏せる。


「それが“最初の邑”に課せられた運命です」


(続く)

村の状態(第7話終了時点)

新たに登場:獅子座神レオンドラ(支配と祝祭の象徴)


村の動揺:祝祭派(レオンドラ支持)と勤労派(アストレイア支持)で分裂の兆し


星語り:レグルス(レオンドラ)とスピカ(アストレイア)の対照的な語り


民の分裂:「働く人が損をする」という感情の再燃

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ