第7話「獅子神レオンドラ、祝祭の影で吠える」
火を囲んで、村人たちはいつものように静かに食事をとっていた。
“木札制度”と“耳の庵”の導入により、グレンムラの内部は少しずつ安定の兆しを見せていた。
しかし、神々の思惑が交錯するこの村に、静けさなど長く続くはずもない。
その日、昼を過ぎたころ――
村の南の丘から、眩しい光と太鼓の音が響いた。
「グレンムラの者たちよ! 今日からこの村に、**“本物の輝き”**がやって来た!」
きらびやかな金色の衣、たてがみのような巻き髪。
そして、眩しいほどの自信と光をまとって現れた神。
獅子神・レオンドラ。
その背後には、彼女を称えるように集まった民たちがいた。
豪快な笑い声と共に、彼女は村の中心に足を踏み入れる。
「聞いたわよ。この村、“神々の集まる最初の邑”なんですってね?
だったらふさわしいわね、私が統べるに。」
アストレイアが前に出る。
「統べる……? レオンドラ、何をするつもりなの」
「決まってるでしょ? 祝祭よ。王の即位を祝う、光の祭典。
私は、村をひとつにまとめる。あなたの秩序なんて、地味で退屈よ」
リーブラが静かに反論する。
「ですが、強い個が中心に立つ体制は、“王とそれ以外”の分断を生みます。
あなたの統治は、果たして調和と言えるのでしょうか」
「あなたねぇ、言い回しは立派だけど、要は地味なのよ」
笑いながらそう言うレオンドラの周囲には、「光の祭り」と称して音楽や酒、衣装の準備を始める者たちが集まっていた。
それを遠巻きに見るアストレイア。
そして、村の子どもミナがぽつりと呟いた。
「……お兄ちゃん、昨日から笑ってない。
“何もせずに楽しんでる人たちを支えるのがイヤになった”って……」
アストレイアはその言葉に、かつて耳の庵に投じられた紙を思い出した。
『“頑張る”を嘲笑う笑顔が一番怖い』
レオンドラは村人を集め、祭壇を築こうとしていた。
「私の像を作りなさい!
この邑を守る象徴として、レグルスの光を刻むのよ!
これは祭りじゃない、信仰の始まりよ!」
その瞬間、彼女は空を指差した。
「見なさい。
あれがレグルス。獅子の心臓。私は、あの星と共に歩んでいる。
だから私は神であり、王でもあるの。」
村人たちは黙った。
誰かが小さく拍手し、また一人が声を上げる。
「レオンドラ様がいれば、きっと村は強くなる!」
アストレイアは一歩だけ前に出て、空を見上げた。
「……確かに、あなたはあの星とつながってる。
でもね、レグルスは“真昼には見えない星”なの。
見えるのは夜だけ。
だからあなたの力は、闇の中でしか本当に試されない。
民が苦しんでいるとき、光だけじゃ足りないのよ」
レオンドラは笑う。
「それなら夜にでも見に来なさい。
私の星がどれだけ強く、輝いているか。」
そして、夜が来た。
レオンドラは再び空を指す。
「私はここ――レグルス。
王が王たる所以は、他者に示す姿があること。
どれだけ恐れられ、どれだけ憧れられるかで王は決まる。」
だがその夜、もう一人、空を指した者がいた。
アストレイアが、スピカを指して言った。
「私はこの星。穀物を抱く乙女。
誰も見ていないときでも、支え続ける手を持っている。
だから私は神であり、民のために立つ。」
村は揺れていた。
熱気と光に染まる一方で、火の陰に座る者たちがいた。
シュウがそっと言う。
「……この村、まるで星座の間で引っ張られてるみたいだ」
リーブラは目を伏せる。
「それが“最初の邑”に課せられた運命です」
(続く)
村の状態(第7話終了時点)
新たに登場:獅子座神レオンドラ(支配と祝祭の象徴)
村の動揺:祝祭派(レオンドラ支持)と勤労派(アストレイア支持)で分裂の兆し
星語り:レグルス(レオンドラ)とスピカ(アストレイア)の対照的な語り
民の分裂:「働く人が損をする」という感情の再燃