第5話「水瓶神アクエリア、風車と反乱の設計図」
グレンムラに朝が来た。
昨夜、アストレイアが導入した「木札制度」は驚くほど村に馴染んでいた。
子どもたちは自分の木札を見せ合い、大人たちは「今日は何札取れるかねぇ」と楽しそうに談笑していた。
「アストレイア様、この“札”の手触り、なんだかクセになりますね。集めたい……」
「それコレクター精神入ってない?」
そう、今までは「義務」だった働きが、今ではちょっとした「自慢」になりつつあった。
だがその日。
村の空に、**ブオオオオオン……!**という謎の音が鳴り響く。
「……え、え? 今、何か……回ってなかった?」
見上げると、丘の上に、突如として巨大な風車塔が建っていた。
「ちょ、誰が許可したのよ、あんなの作るの……!」
その答えは、すぐに現れた。
「やっほー、グレンムラの諸君☆ 技術革新の波、浴びてるかい?」
現れたのは、奇妙な帽子に水瓶型のバックパックを背負い、
ぐるぐる眼鏡にマフラーを巻いた神――水瓶神アクエリアだった。
「えー、自己紹介しよう。私はアクエリア。風と水、そして技術革新を司る水瓶座の神だ!」
「……誰が呼んだのよ、そのテンションの神を」
アストレイアがこめかみを押さえる。
「カルキノエから聞いたんだよ。“この村、ちょっと安定してきた”って。
だから来たんだ。“次のステージへ進むチャンス”をあげにね!」
リーブラが控えめに手を挙げる。
「アクエリア様の技術は確かです。ですが、導入には段階が……」
「段階? そんなのすっ飛ばそうよ!」
アクエリアはそう言って、巻物を広げた。
✅新技術案:
・風力粉砕機(麦粉製造)
・簡易水力ポンプ(自動水汲み)
・木札自動計測機(木札制度のAI化)
・時間記録機(休憩時間を見張る時計塔)
「いや最後のヤツ、誰も望んでない監視社会の片鱗じゃない!?」
アストレイアが叫ぶ横で、村人たちは囁き始める。
「……でも、水汲みが自動になるのは助かるよね」
「粉挽き、あれがあればお粥じゃなくてパンが焼けるかも……」
人々の目がキラキラし始めた。
アリエスが腕を組んでぼそっと言う。
「……便利ってのは、意志を鈍らせる」
「正論だけど、それで毎朝3往復するのアナタじゃないし!」
アリエスが黙る。
その夜、村の会議が開かれた。
神々と代表村人、そしてアストレイア。
「私は“技術導入”には賛成よ。でも、“依存”には反対。
楽になることと、考えなくなることは違う」
「ふーん……じゃあ決めようよ、“誰が管理するか”をさ。
オートマティックな世界ってのは、“意志ある管理者”がいてこそ成り立つ」
アクエリアがそう言って見渡すと、
誰かがぽつりと呟いた。
「……だったら、アクエリア様が“村の技術係”でいいんじゃ……?」
「異議なし」
「意義はあるけど否定できない……!」
こうして、グレンムラに技術庁が誕生した!
【新技術解放】
・風車粉砕機(麦の処理効率+50%)
・自動水汲み台(子どもの水汲み任務が不要に)
・時計塔(休憩時間の公平化)
だが、リーブラはふと呟いた。
「技術が村人を解放するとは限らない。
彼らが“使われる側”になれば、それはもう新たな支配です」
アストレイアは夜空を見上げた。
風車が音を立て、月が回る。
「私はまだ“真の秩序”を知らない。でも、
それが“命が命であることを許し合える世界”なら……やってみる価値はある」
(続く)
グレンムラ現状(第5話終了時点)
村名:グレンムラ(原初の火邑)
人口:17
技術レベル:3
新施設:風車粉砕機/自動水汲み装置/時計塔/技術庁
村の構造:徐々に“役割の分化”と“集中管理”が進行中
今後のリスク:秩序と自由のバランス崩壊、技術支配の兆候
次回予告:「第6話 蠍神スコルピオ、毒と真実をもたらす」
村に忍び寄る影の気配。
麦粉に混入した“青い粉末”――それは事故か、それとも意志ある毒か?
“情報”の神スコルピオがついに姿を現す。