第4話「秩序とルールとサボり神」
第一の邑「グレンムラ」は、命の火を絶やさず冬を迎えていた。
カルキノエの炊き出し、リュナリアの薬草包帯、アリエスの斧、そしてリーブラの調停によって、
文明はかろうじて技術レベル1.5へと歩み出していた。
けれど、アストレイアには気がかりがあった。
「……子どもたちが、働かなくなってる」
かつては薪拾いに走っていた少年たちが、
今では布団でぬくぬくしながら「またカニ様が食事くれるよねー」と言っている。
「なんていうか……**秩序の基盤、壊れてない?」」
アストレイアが村の広場でぼやくと、リーブラが手帳を開いて冷静に答えた。
「ええ。観察によれば“自主性が崩壊した邑”が出来上がりつつあります」
「それって、秩序の神としては……最悪じゃないの?」
「でもカニ様たちが悪いとは言えません。飢えたら死ぬという現実の中で“優しさ”は必須でした。ただ、それに“つけこむ者”が現れると話は別です」
「つけこむ……?」
そのときだった。
村の中央小屋の屋根に、片膝立ちで座るだらしない格好の男神が現れた。
「あ〜〜〜、はいはい、働きたくないね〜〜。
でもルールって“みんなが勝手に決めた期待”でしょ?俺、そういうの苦手なんだわ〜」
「……誰?」
「紹介しましょう。蟹座の裏神、ネルトゥス。
“保護されることに依存する”神格です。カルキノエ様とは、いわば陰陽のような関係にあります」
アストレイアが眉をひそめる。
「何しに来たのよ、あなた」
「いや〜、寝床あるって聞いて来ただけっす。あ、ついでに“他人に怒られない方法”を村人に教えてあげてま〜す」
「……は?」
「怒られそうになったら、“体調悪いふり”とか“親の介護”とか言えばOKっす。
あ、あと“自分の好きなことは才能のひとつだから尊重して”って言えば、だいたい黙りますよ〜?」
アリエスが斧を持って近づこうとするが、
リーブラが静かに右手を上げて止める。
「待ってください、アリエス様。
ネルトゥスは神格として非常に“村を内部から壊す力”を持っています。
力で排除しても、彼の影響を受けた村人の“心のサボり”は消えません」
アストレイアは、焚き火の火を見つめながら呟いた。
「……“自由”と“秩序”、どこで線を引けばいいの?」
すると、小さな手がアストレイアの裾を引っ張った。
「アストレイア様……私ね、薪拾い……戻りたい。
でも、“サボってる子に文句言うと、空気悪くなる”って、お兄ちゃんが……」
それを聞いて、アストレイアは立ち上がった。
「わかった。ルールを作るわ。
“ルール=罰”じゃなくて、“ルール=誇り”にする。
自分の行動に名前をつけて、みんなが互いに感謝できる仕組みを……!」
リーブラが笑みを浮かべる。
「それこそ、“秩序の再建”ですね」
翌日。
グレンムラには、新たな“木札”制度が導入された。
「焚き火守」
「水汲み役」
「包帯仕立て」
「獣避け見張り」
働いた者には**“木札”と交換でスープの追加支給が。
札は翌日には自動的にリセットされ、積み重ねではなく“毎日の貢献”を重視**する設計だった。
ネルトゥスはしばらくして、静かに村から姿を消した。
「……気楽に過ごせる村、ってのも悪くなかったんだけどな」
村の発展状況(第4話終了時点)
村名:グレンムラ(原初の火邑)
人口:17
技術レベル:2
新制度:木札制度(役割と貢献の見える化)
村内意識:労働と誇りのバランスが成立
課題:生産性向上の限界(次なる技術革新が必要)
次回予告:「第5話 水瓶神アクエリア、風車と反乱の設計図」
寒さと食糧に抗うため、技術の神アクエリアが降臨。
だが彼のもたらす“革新”は、村の秩序を根底から揺さぶることに――