第3話「蟹座神カルキノエ、炊き出しと布団をもって襲来」
焚き火の煙が細く空に消えていく。
第一の邑「グレンムラ」は、今なお技術レベル0。
火と斧は確保したが、住居は未完成、食糧も尽きつつあった。
「ねえ、アストレイア様……明日もごはん、あるの?」
かじかんだ手を握りしめ、少女がぽつりと尋ねた。
かつては秩序を司っていた神であるアストレイアは、何も返せなかった。
「……ごめんね。もう少し頑張れば、何か見つかるから……」
そのとき、風が変わった。
甘くて、あたたかくて、煮物のような香り。
それは、命の匂いだった。
「ほらほら、道を開けて! 炊き出しよ、炊き出しー!」
森の奥から、布団をかつぎ、鍋を担いだ一団の神々と村人たちが現れた。
その中心にいたのは、蒼白の衣を纏い、額に蟹の紋を浮かべた女神。
「久しぶりね、アストレイア」
彼女は柔らかな微笑とともに名乗った。
「我が名はカルキノエ。蟹座の神々の筆頭よ。
あなたが帰ってきたと聞いて、この地に“庇護”をもたらしに来たの」
「カルキノエ……!」
アストレイアの目に覚えがあった。
かつて神々がまだ争っていなかった頃、
彼女と秩序の理念を共有していた“静かな母神”の一人。
だがその後ろには、さらに数柱の蟹座神が見えた。
リュナリア:月の満ち欠けを司る蟹座神。情緒と直感の化身
テラネイア:布団・建築・保温を得意とする技術神
ミュラリエル:薬草と食事を司る調理の守護女神
それぞれが鍋をかき混ぜたり、布団を広げたり、子どもたちの手を引いたりしている。
「ずいぶんと賑やかだな……」
そう呟いたのは、戦神アリエス。
眉間に皺を寄せて、鍋の匂いをかぎながら唸る。
「この村は狩猟で成り立ってる。過剰な庇護は、人を弱くする」
カルキノエは微笑を崩さない。
「でも、狩りの前に“凍えて死ぬ子”を守ることも大事でしょう?」
「理屈はわかる。だが、それが“戦える民”を育てるのか?」
二人の視線が交差し、ピリッと空気が凍りついた。
「……バランスは大事です」
仲裁に入ったのはリーブラだった。
「蟹と羊は相性最悪。星読みでも有名な“衝突関係”です。
ですが今は、共に村を生かすことが最優先では?」
カルキノエは、アストレイアに振り向く。
「秩序の女神。あなたの裁定を」
アストレイアは答えた。
「布団とスープ、ありがとう。あなたたちのおかげで、村は“今”を乗り切れる。
でもアリエスの言う通り、訓練や狩りも必要。
だから、“持ちすぎない庇護”と“孤立させない訓練”。両方をバランスしていく」
カルキノエはうなずき、鍋を置いた。
「わかったわ。では、あなたの“第一邑”に、私たちも“月の小屋”を建てましょう。
夜ごと、月の満ち欠けと共に、村を見守る場所を」
この夜、村に新たな技術がもたらされた
【技術解放】
・保存食:煮込みスープ
・簡易寝具:布団
・医療基礎:ハーブ包帯(リュナリアの寄進)
だが翌朝。
「アストレイア様、問題発生です」
リーブラが駆け込んできた。
「子どもたちが、薪運びをボイコットしています。
“カルキノエ様が全部なんとかしてくれる”って……」
文明が芽吹けば、同時に“甘え”も生まれる。
これは、秩序の女神に課せられた新たな試練だった。
(続く)
村の発展状況(第3話終了時点)
村名:グレンムラ(原初の火邑)
人口:17(秩序の民×4、戦士の民×4、護民×9)
技術レベル:1
解放技術:焚き火、煮込み、布団、ハーブ包帯
村内施設:焚き火台、月の小屋(夜間安定ボーナス)
緊急課題:勤労意識の低下、訓練と庇護のバランス
次回:「第4話 秩序とルールとサボり神」
村に潜む“労働忌避”の影と、アストレイアの“初めての怒り”が火邑を揺らす——!