第2話「第一の邑と牡羊神アリエス」
時渡りから数日。
アストレイアは、冷たい風が吹きすさぶ荒れ地にポツンと座り込んでいた。
彼女の持っていた“秩序の神力”は、時を越えると同時に雲散霧消していた。
「……どうしろっていうのよ、これで。焚き火すら起こせないじゃない」
近くの石をこつんと蹴る。すると、ぬっと草むらから顔を出したのは彼女の忠臣、天秤神リーブラだった。
「おや、絶望の風ですね。アストレイア様、ちょうど良かった。ここに“第一の邑”を立てましょう!」
「は?」
「必要最低限の資源はここにあります。水脈、木材、石、それに動物の足跡。あとは……」
リーブラは手にした粘土板を取り出し、カチンと割った。そこには粗雑な古代文字が書かれている。
【技術開発一覧】
・焚き火……火打石×2
・簡易小屋……木材×15
・保存食……肉×2、塩×1(塩技術未習得)
「……もう本当に“太古レベル”じゃない……!」
リーブラがうれしそうに頷く。
「そうですよ~。神々の力が消えた影響で、技術も概念もすべて“未開”に戻っています。つまり、ここから邑と人類の文明を作り直せば、アストレイア様の“喪われた秩序”も復活するかも!」
「復活“かも”って何よ!」
「大丈夫です!技術ポイントは毎日たまりますから!」
「ゲームじゃないのよ!」
そんなやりとりをしていると、大地が低く唸った。
ズン……ズズン……
向こうの丘の影から現れたのは、炎のような赤髪をなびかせ、斧を担いだ男。背には野営民を従え、足元には焚き火の煙。
「よう……乙女座の神よ。お前が帰ってきたって噂は、本当だったか」
「アリエス……!」
牡羊神アリエス。
始まりと闘争を司る星座神。
彼は、アストレイアがいなくなった後、残された“戦士の民”を導き、獣と吹雪に耐えて生き延びていた。
「ここは俺の民が営地にしようとしていた土地だ。だが、お前が1万邑を建てるって話……ちょっと気になってな」
アリエスの背後、子どもたちと老人たちが火を囲んでいる。どの顔も、戦ではなく“暮らし”を求めていた。
「私の民もここに住まわせたい。でも……争うつもりはないわ」
「争う気はねぇよ。むしろ、協力してやる。ただし条件がある」
「条件?」
アリエスは一歩前に出る。空気が熱を帯びる。
「“技術”だ。お前のところが火を起こせるようになったら、俺の民にも教えろ。こっちは斧を作ってやる。共に育てようぜ、“文明”ってやつをな」
アストレイアは少しだけ笑った。
「……悪くないわね。その提案、乗った」
こうして、**アストレイアとアリエスによる第一の邑「原初の火邑」**が幕を開けた。
村の初期ステータス
村名:グレンムラ(原初の火邑)
人口:8(秩序の民×4、戦士の民×4)
技術レベル:0(焚き火解放済)
気候:吹雪(−12℃)
緊急目標:火の確保、食料保存、簡易住居の建築
次回:
「第三話:蟹神カニサ、炊き出しと布団をもって襲来」
飢えに凍える村に、今度は“家庭と庇護”の神がやってくる――!