第18話「十三番目の星の兆し」
深夜、星詠み庵の天窓から、クラヴィスが空を見上げていた。
「……また、光ったな。あの位置……黄道に乗っていないのに」
アストレイアが静かに入ってくる。
「あなたも気づいていたのね。あの光、私は……見覚えがある」
黄道十二星座とは別に、時折その隙間で僅かに光る星。
それは長らく記録に残されず、神々にも“見なかったことにされた”星だった。
クラヴィスは、過去の星図を並べて言った。
「この動き、どう考えても“星”としての巡りがある。十三番目の座、存在します」
その瞬間、天の窓に強く光が走った。
庵の床にいた若者が、突如倒れた。
「う、ぐ……眩しい……頭の中に……何かが……語りかけてくる……」
彼は生まれてこのかた、いずれの星座神にも祝福されず、木札にも属さなかった“無星者”と呼ばれる存在だった。
アストレイアは彼に近づく。
「……あなたの中にあるのは、星ではなく“記されなかった星”の記憶」
その若者は、こう名乗った。
「……名前は、まだありません。でも、私は“蛇”の夢を見ます」
クラヴィスが囁いた。
「……蛇遣いだ。封じられた星、十三番目の座」
星座会議が招集される。
議題は明快だった。
「十三番目の星座を、認めるか否か」
反対:
アリエス:「曖昧な者を入れれば、制度が崩壊する」
カプリオス:「記録にないものは神ではない」
賛成:
ピスケス:「記されなかったのは、ただ“忘れられていただけ”では?」
ジェミニ:「混乱する? だから面白いんじゃん!」
アストレイアは迷った。
だが彼女の目の前に立った若者が、ぽつりと呟いた。
「この村にいても、どこにも居場所がなかった。でも……この星があるなら、私は生まれてよかった」
アストレイアは帳を閉じて言った。
「記録がなかったのは、私の責任。あなたは、私の見逃した星」
結論は持ち越された。
だがその夜、天には十三の光が、確かに並んでいた。
今回は“十三番目の星”――蛇遣い座の存在が、物語に入り始めました。
十二星座という制度そのものが揺らぐ瞬間。
それは神々だけでなく、記録するアストレイア自身の根幹にも関わってきます。
無星者に居場所があるのか。
神話は閉じられた円なのか、それとも未完の螺旋なのか。
この問いは、やがて“1万邑”という全体像にも波紋を投げかけるでしょう。
次回は、“増え続ける村”と“十二神制の枠”のせめぎあいに迫ります。
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