第17話「文化の違いは、神の違いか」
十二星座神たちが集う星座会議の広間に、緊張が走っていた。
きっかけは、クラヴィスが庵の壁に貼った「文化別・乙女座神の一覧」だった。
律姫(和風)、筆皇女(中華)、運命織姫(インド風)、秤の母(アフリカ風)――いずれも乙女座に対応する存在でありながら、名も姿も性格も異なっていた。
「これは、私たちが“唯一”ではないということか?」
リーブラの声が、ほんのわずか震えた。
レオンドラは立ち上がる。
「私はこの村の“誇りの神”よ。誰かが私の名で違う舞を踊っているというの?」
ピスケスは静かに言った。
「だが、それも“必要とされた形”だったのかもしれません」
サジタリアは笑みを浮かべながらも、どこか曖昧だった。
「希望は形を変える。矢のように、放たれればどこに刺さるかは分からない」
アストレイアは皆を見回した。
「私たちは、星という“座標”にすぎない。そこにどう神が映されるかは、人の側の物語」
神々はしばし沈黙した。
そして、カプリオスが静かに手を挙げた。
「であれば、我々は“星座”であり、“神名”は変容可能と認めるべきだろう」
それは、神の“唯一性”を手放す決定だった。
会議は結論を出さぬまま散会したが、誰もが感じていた。
――文化とは、神を映す鏡である。
夜、アストレイアは一人、記録帳に書きつけた。
『神の形は、民の数だけある。正しさではなく、必要に応じて現れる』
同じ星が、異なる神となる。
それは恐れるべきことではなく、**“神話が生きている”**ということなのだ。
今回は「同じ星座でも神は変化する」という神話の多層性を描きました。
星座という座標が同じでも、そこに人々が見出す神の姿は文化によって異なる。
それを“異端”と見るのではなく、“物語が生きて動いている証”と捉える。
本作は神話再建譚であると同時に、“人々が星とどう向き合うか”の群像でもあります。
次回はいよいよ、封じられていた“十三番目の星”が動き始めます。
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