第15話「星を詠む者たち」
ある日、村の耳の庵に一人の老人が現れた。
白い髭に青い外套、手には星図を巻いた杖。名をクラヴィスという。
「あなたは、空の言葉を読みますか?」
彼は開口一番、そう言った。
村人は最初、彼をただの旅人だと思っていた。
だが彼が口にした言葉に、広場が静まり返った。
「この子、きっと“牡牛”の気質です。畑より倉庫の管理が向いている。食べ過ぎと怒らせすぎには注意を」
誰も教えていないのに、その子の癖も性格も言い当てた。
「この娘は“双子座”の風を持っています。話す力は強いが、責任の重さに脆い」
村に衝撃が走った。
アストレイアは、その様子を遠巻きに見ていた。
「……星を詠む者。神でなく、人が」
クラヴィスは神々にも敬意を払った。
「私たちは、天から知恵を盗んだのではありません。天が忘れないよう、人に渡したのです」
彼は村の一角に「星詠み庵」を構え、村人からの相談を受けるようになった。
作物の植えどき、夫婦の相性、子どもの進路――
全てを星の位置と生まれた時の風で導くという。
タウロスは言った。
「星の名前を出しても、土は乾かん」
カプリオスは言った。
「統計に基づかない助言は信用ならん」
だがリーブラは秤を片手に微笑んだ。
「偏りを認めることで、重さの真実に気づけることもある」
星詠み庵は、神々の意見さえ二つに割らせるほどの“曖昧な重み”を持ち始めていた。
そして夜、クラヴィスは庵の天窓から空を見上げながら呟いた。
「彼らは知らない。彼らの歩き方さえ、星々は囁いていることを」
アストレイアもまた、天を仰いだ。
「人が星を読むとき、神は不要になるのか。それとも……」
その答えは、まだ空の彼方だった。
第15話では、人間の中から星を読み解く“占星術師クラヴィス”が登場しました。
神々の力ではなく、人の知恵によって星の声が届き始める。
この小さな変化が、村という社会にどれだけの揺らぎをもたらすのか。
神と人の関係に、風が吹き始めます。
次回はその“違和感”が文化という衣をまとって広がり始めます。お楽しみに。
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