第13話「神々の集落、分かれゆく道」
ウロスが畑を整え、村に安定した食の基盤が生まれてから、およそ十日のことだった。
村の広場には、朝ごとに人が集まり、誰がどの仕事を担当するかを巡って話し合いが行われるようになっていた。
最初は「誰でもできることを、できる人がやる」それだけだった。
だが神々が増え、神の加護を求める声が増えると、次第に“この作業はあの神の管轄”“この分野は誰々の専門”という意識が村人の中に芽生え始めた。
アリエスが言った。
「こうも神が集まっていると、衝突も起きる。分けるべきだ、集落を」
ジェミニが笑った。
「能力別クラス分けってこと? いいね、それぞれ得意な場所に分かれる方が合理的だよ」
リーブラはすでに何通かの投書を受け取っていた。
「“最近神様が多すぎて、誰に祈ればいいのかわからない”という声も増えています。機能分化は理にかなっているかと」
こうして、アストレイアのもとに提案が届いた。
「村を、星座神の加護ごとに分ける――十二の集落へ」
アストレイアはしばし黙考し、やがて頷いた。
「それぞれの神が、それぞれのやり方で人と向き合う。それもまた、秩序の一部」
決定が下ると、村の構造に急速な変化が起きた。
まず、レオンドラは祝祭広場を自らの集落に組み入れ、「芸と誇りの村」を名乗った。
舞台と衣装を整え、若者たちを呼び寄せては演説と舞を教えた。
タウロスは既に開拓済みの農地を整備し直し、「畑の神域」として倉庫や水場を整えた。
沈黙の中に力が満ちていた。
アクエリアは井戸と天文観測所を中心にした研究集落を構築。
「風と知の拠点」として、装置の発明に余念がなかった。
カプリオスは帳簿殿を拡張し、計算と記録に特化した“記録庁”を開設。
「正確さこそ神の姿である」と説き、子どもたちに数字の読み書きを教え始めた。
それぞれの神のもとに、人が自然と集まっていった。
「似たものは、似たもののもとに惹かれるのかもしれない」とアストレイアは思った。
神々の集落が形成されていく中、アストレイア自身には専用の集落がなかった。
彼女はそれを求めることもせず、村の中心にある庵で、変わらずすべてを見守っていた。
「私は誰の神にもならない。すべての神が、すべての人が、互いを理解するために在る」
村の地図が書き換えられた。
集落は“邑”と呼ばれるようになり、それぞれの特色と文化を育み始めた。
アストレイアはその変化を、細かく記録した。
「これが、ひとつめの村の“本当の始まり”かもしれない」
第13話では「集落の分化」、つまり“星座神ごとの邑”が誕生する様子を描きました。
村が成長するとき、やがて分化と専門化が起こる。
その始まりを、神々がどう受け止め、どう自らの個性を表すか――。
ここから、村づくりは“文明”の段階に移行していきます。
次回は「会議と制度」、いよいよ“統治”の形が生まれます。どうぞお楽しみに!