第11話「射手神サジタリア、天の矢を放つ」
冷え込んだ朝、村の広場に一本の矢が突き刺さっていた。
矢羽根には、淡い紫の布が巻かれている。
「……矢文?」
それは挑戦状でも警告でもなかった。
矢に巻かれていた布をほどくと、そこには一本の白い道が描かれていた。
その日、東の空から現れたのは――射手神サジタリア。
白銀の馬身を持ち、星の模様が織り込まれたマントを翻し、
自らを「導きの者」と名乗った。
「星々が語るままに、村に“信じる力”を注ぎに来たのです」
サジタリアは、村の空気に“希望”を持ち込んだ。
誰もがそれを歓迎した。
「努力は報われる」「願いは空に届く」「信じる者には未来がある」
アストレイアは、その言葉に少しだけ顔を曇らせた。
「……それは“報われなかった者”への責任を、誰が取るの?」
サジタリアは笑った。
「未来は結果ではなく、“矢を放つ姿勢”に宿るのです」
その日から、村には“目標の石板”が設けられた。
村人は願いを記し、星に向かって放つ儀式を始めた。
だが――
翌月、願いが叶わなかった若者が、矢を折って去った。
「信じても、届かないなら……なんの意味がある」
サジタリアは空を見上げた。
「――届かないからこそ、矢は放たれるのです」
アストレイアは静かに、折れた矢を拾い上げ、言った。
「信じることと、生きることを、
一緒にしてはいけない。希望は毒にもなる」
サジタリア登場回でした。彼のような“信仰と希望”の象徴は、村に新たな力をもたらすと同時に、静かな毒も忍び込ませます。
信じることで立ち上がれる者もいれば、信じたことで傷つく者もいます。
どちらも描いていきたいと思っています。
次話もお楽しみに。よければブックマークもお願いします!