6.覚醒ー8
「おいおいマジかよ」
召喚されたオオトカゲはその体躯に見合わぬ小さな瞳で少年を見下ろしていた。忠実なその姿を見て、少年は噴き出した。「お前、ネフィル嫌いじゃなかったのかよ。何だこれ、変わったの使役してんだな」
「ガブっ!あれを止めて!」少女は少年の言葉を意に介さず、這い蹲ったままオオトカゲに指示を出した。
「…あ?ガブ?何だそりゃ。……あ、ああ、名前?え、マジで?ネフィルに名前付けてんの、お前」
少年は少女のことが全く理解出来なかった。分からないまま、腹を抱えて笑う。「スゲーな、お前。ホント馬鹿じゃねえか」
オオトカゲは踵を返すと、よたよたと歩いている男にのしのしと近付いていった。
「あーダメダメ」少年は動いた。
少女の頭から足裏を剥がすと地面を蹴った。一足飛びにオオトカゲの横に着くと、脚を振り回して横っ腹を蹴り飛ばした。
オオトカゲの巨躯が弾丸のようになってドーロの傍の建造物に激突した。砂埃が舞う。
「ガブっ!」自由になった少女がオオトカゲに駆け寄る。意味が分からない。
砂埃の向こうに浮かび上がったオオトカゲは、その腹のあたりが削れて無くなっていた。と、そこにぷくりと白い光が、熱せられた餅のように膨らんだ。
男の方に目をやると、相も変わらずよたよたと歩みを進めていた。オオトカゲが現れたというのに気にも留めていない。その前方で瓦礫が燃えていた。
「あ、おい。燃えんなよ」
少年がそう声をかけると、急にその頭部が無くなった。見ると、オオトカゲが尻尾を振ったらしかった。そのために男の頭部が落ち、ごろごろと転がっている。
けれど男は倒れない。その首の千切れた箇所から
は血も出ない。代わりに白い光がぷくりと飛び出してきた。それがみるみる膨らむ。そして二頭身ほどの、巨大な白い光の頭になった。地面に転がっていた頭はいつの間にか消えている。
見慣れた頭だな、そんなことを何とは無しに考えて、少年はオオトカゲに向かい合う。「おいたが過ぎるな」
少年は一息に跳び上がった。そして体を回転させると、少女の動きを真似るように巨竜の頭部に爪先を叩き付けた。
オオトカゲは顎を強かに地面に打ち付ける。瓦礫が飛散し、オオトカゲの左眼の辺りが大きく抉れた。ただそこも例によって白い光が膨らんで、巨大な目の玉を形成した。側から見ると片目だけ蝸牛のように白く立ち上っており、酷く不格好に思える。
その蝸牛の目は、頭部がネフィルのそれになった男を見据えていた。
そして、顎を地面に付けたまま、さながら地面を泳ぐ鮫のように、徐に動き出した。
「おっと」少年がそれを避けると、オオトカゲはそのまま男へ突進していった。不意に大きく口を開ける。
「─あ」
オオトカゲが男の胴体に齧り付いた。そして高々と持ち上げる。
「何やってんだよ。勝手なことしてんじゃねぇよ」少年はオオトカゲの方へ歩み寄ろうとした。すると目の端で何かが動いた気配があった。
直ぐ様体を反転させると、少女が飛びかかってきていた。「させないっ!」
「だから─」少年は少女の両手を擦り抜け、その懐に滑り込む。そしてその赤い衣の襟と袖を掴んだ。「─いい加減学べよ」
少年は少女の衣を掴んだまま体を捻る。そして自分の腰の上に少女の腰の辺りを乗せた。
勢いに任せた少女は自分のその勢いのまま少年の背中に乗る。少年は少し腰を上げ腕を思い切り振った。布の千切れる音がした。少年は手を離す。
上下ひっくり返った体勢で少女は、面白いくらいに軽々と少年を飛び越えていった。それがオオトカゲに激突する。オオトカゲはバランスを崩して横倒れになる。その先には火が燻っていた。




