5.強襲―10
「ネ…フィル……あれが?」
昨日の昼間に見たものに似ている。けれど違う。昨日のやつはあんなに眼が小さくなかったし、口だって牙も生えていなかった。そして何より、飛んでいなかった。
人々の恐怖の喝采が周囲に充満している。そんな中、リュウは空に浮かぶ異形から目を離せないでいた。
「陣形を立て直せ!ここで食い止めるぞ!」勇ましい声が上がり、リュウ達町民等の前に甲冑の兵士が隊列を組んで現れた。その間に別の侍がおろおろする町民に声を掛け誘導している。
「さぁ坊主、君もこっちに来るんだ」
その声に顔を上げると、若武者がリュウを見据えていた。こちらに手を差し伸べてくる。
「いや…俺は─」あいつを探さねぇと。
「馬鹿の一つ覚えみたいによくもまあ…いや、馬鹿の方がマシか」天から少年の声が落ちてきた。見上げると、異形が大きな翼を更に大きく広げているところだった。それをこちらに吹き付けるように動かす。
突風が吹いた。空気の千切れる音がする。その勢いに思わず目を閉じる。多くの悲鳴が空中に溶けるように消えた。どうにか薄らと目を開けると、目の前の人々がもの凄い勢いで視界の外へ飛ばされていた。その旋風が猛然とリュウに迫る。
轟音がし、気付けば重力感覚がなくなっていた。体が今、上を向いているのか、下を向いているのかま分からない。
不意に落下を感じ、左肩辺りに衝撃が来た。意識が飛びそうになる。直後体が回転し、僅かばかりの意識さえも飛び散らせようとしてくる。
いつの間にか体は止まっていた。四肢がバラバラになっている気がする。どこが痛いのか、どこがどうなっているのか、リュウにはてんで分からなかった。
体を動かす。恐々と、感覚を少しずつ確認するように。地面を押さえようとした手が、斜めに硬いものを捉えた。痛みに霞む目で見ると、黒い甲冑だった。うう、と呻き声がし、その振動が手の平から伝わってくる。
さっきの人だろうか。リュウに手を差し伸べていたあの若武者。腕に力を込めて体を擡げる。途端左肩が火に焼かれた。あまりの痛みにまた突っ伏す。
必死に右腕を動かし確認すると、左腕は付いていた。千切れたわけではない。そう分かったものの、腕に触れると激痛が走る。
痛みで意識が遠退くようだ。そこに少年の嘲笑う声が響いてくる。
「情けねぇ。人間なんてのはどいつもこいつも弱っちぃな!」
声のする方を見上げると、逆さまになった異形が霞んで見えた。何なんだよ、こいつ。
するとその異形の右上に突然、赤いものが矢のように飛んできた。
「──シェムハザっ!」聞き覚えのあるエミの声がした。




