5.強襲―8
リュウは馭者台に足を掛け、馬車馬の手綱を握る。街中から響いてくる警報が体の底を叩いてくるようだった。これには覚えがある。幼い頃の記憶が蘇ってきて、リュウの胸を締め上げる。
「おいリュウっ!敵襲ってどう言うことだよ!首都に急に敵が来るのか」状況が飲み込めていないノジマが後ろから訊ねてくる。
早く移動させねぇと。とりあえず、城の向こう側だ。リュウの頭はそれで一杯になっていて、ノジマに懇切丁寧に説明している暇がない。
「ネフィルだ!確かこの音はネフィルのだ!」
警報音のパターンの話だったが、要領を得ないまま後ろに投げる。
するとリュウの横から赤い何かが飛び出していった。反射的に眼で追うと、浴衣姿のエミだった。下駄をカラコロと鳴らし、信じられない速度で走っていく。
「あいつ…っ!」リュウは直ぐ様振り返り、馬車の中に飛んで戻る。
「エミちゃん、どこ行くのぉっ!」老婆が喉を締め上げて叫んだが、カラコロとした音はもう聞こえなくなっている。
「ノジマさん、馬車を城の向こうに!」
リュウは自分の刀を引っ掴むと踵を返しながらノジマに言った。
「城の向こうって何だよ!どういうことか説明しろ!」
「そんな暇ねぇよ!とにかくこっから動け!」リュウはそれだけ言うと、まだ質問してくるノジマを置いて馬車を飛び出した。
鳥居を潜り、大通りに出る。そこはもう混乱の坩堝と化していた。困惑と悲鳴、怒号が行き交う。そんな本能のまま叫び続ける怪物のような集団を、どこから沸いたのか、甲冑姿の侍達が誘導していた。
「押さないで下さい!順次地下へ!そこから隣町へ抜けて下さい!」黒い甲冑をテカらせながら声を張り上げている。
あのバカ、どこ行った。リュウは怪物となった客達の腹の中で、キョロキョロと視線を動かした。




