4.城下町の祭り―12
「お前な、人のこと馬鹿だなんて言うもんじゃないぞ」ノジマが呆れた様子でリュウを嗜めた。
「いやいや、だってよ」あー腹いて、とリュウが脇腹を擦る。「まぁいいや、ちゃっちゃとやろーぜ、エミ」
リュウが、馬車の脇に立つオオトカゲに近づく。おっかなびっくりとした様子で。
「う、うん」遅れてエミも後に続く。
信じられないことが起きていた。馬車をひっくり返しそうになったのに、怒られない。暴力も振るわれない。罵声も飛んでこない。これは本当に現実だろうか。夢を見ている気分だった。
そう言えば、おばあちゃんがさっき、夢かどうかを判断する方法を言っていたな。それを思い出して、エミは自分の頬を抓ってみた。
「…いたい」
「何やってんの?」エミの声に振り返ったリュウが不思議そうに見つめてきた。
「う、ううんっ。何でもない」慌てて抓っていた手を離し、頬を擦った。何故だか恥ずかしかった。「あ、ガブに馬車引かせるんだっけ?」
「そうだよ。…さっきからその話しかしてねぇと思うんだけど?」
「…そっか、ごめん」
にしてもコイツ、噛まねぇよな。リュウはエミのことに気にしてないのか、へっぴり腰でオオトカゲに手を伸ばす。「どうにか、コイツを、あのハーネスに…」
「うん、噛まないよ、多分」
「多分て─」
オオトカゲはリュウの出された手を、何だろうかと確かめるように鼻先を動かした。
「─ひっ」途端にリュウが手を引っ込める。その様子が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「な、何だよ。何がおかしいんだ」不貞腐れたようにリュウが言った。
「ああごめん。あ、でもそれだったら、こうしたらいいんじゃない」エミは思い付いたまま手を叩いた。
するとそれを合図にオオトカゲが忽然と消えた。
そしてすぐさま振り返って、今度は馬車のハーネスの辺りに手を翳す。その手の平からまたもや黒いもやもやが出てきた。それが膨らんで、次の瞬間にはオオトカゲがそこにいた。二つのハーネスの輪っかに、ちょうど両足を入れ込んで。
「おお…すげ」リュウが目を丸くして感嘆する。
「こんな感じでいいかな」上手く出来たため、エミは腕を組んでみせる。
すると馬車の方からノジマの声がした。「あのーすみません、エミさん」
声に引っ張られるように振り返ると、想定していなかった光景が目に飛び込んできた。
「あ」隣のリュウと声が揃う。
ハーネスの真後ろに位置する馬車内に、オオトカゲの太い尻尾がすっぽりと収まっている。
「あのー…中が随分と狭くなっちゃったんだけど」ノジマが苦笑いを覗かせていた。




