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モルモット・パレード  作者: 花岡しい@かえる
1.名もない少女
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1.名もない少女―3

 うさぎー、うさぎー、とリュウは呟きながら歩を進める。獣道を探して、鬱蒼とした藪の中をざくざくと進む。

 そういや魚とも言ってたっけか。リュウはそう反芻し、そして今朝行った沢を思い出した。あそこに旨そうなヤツがいたな。


 えーとあれはドコだったっけ、と辺りを見渡して目の端、遠くの方で何かが動いたのを感じた。リュウは直ぐ様姿勢を低くし、その辺りを凝視した。すると随分遠くに猪が、点ほどの大きさで見えた。

 そういや猪とも言ってたな。リュウはひとり小さく呟くと、腰にある刀の柄を触った。


 親父に打って貰った小太刀。子どもでも扱いやすいようにと調節してくれた逸品だった。それで猪を切り付けるところをイメージする。


 猪を狩るのは初めてではなかった。だがいつもはノジマがいる。

 ノジマと一緒になって野生動物を追い詰め、仕留めることは何度もあった。むしろ町や集落にいって飯を食うよりも頻度は高かった。それだけノジマの実入りが少ないわけだが、リュウはその事を不満に思ったことはなかった。


 息を殺し、猪の動きに合わせて少しずつ近付く。初めて一人で猪を狩る。その緊張からか、手に汗が滲んでいる。

 気付かれれば逃げられるか攻撃されるか。前者であれば問題はない。あ~あと言って、再び沢の方へ向かえばいい。けれど後者の場合、ただでは済まないかもしれない。それもリュウの緊張に拍車を掛けていた。


 もう少し。猪の息遣いが聞こえ、獣臭さが鼻につくようだ。

 一撃で仕留めないと。そう、リュウが小太刀の柄に手を伸ばしたとき、猪の耳がぴくりと揺れた。そして呆気なく振り返られる。


 あ。猪と目が合った。


 リュウは慌てて鯉口を切った。出来るだけ低くしていた体を引き上げ、腰を落として臨戦態勢に入ろうとする。

 そのかんにも猪が身体をリュウの方へ向けてくる。先端の、その泥で汚れた牙が酷く鋭利に見える。


 やばっ。まだ体勢が整っていない。今飛び掛かられるとまともに躱すことも出来ないかも。リュウは直感でそう思った。


 ぴぎっ、と猪が裏返ったような声を上げた。突然のその声にリュウの体が跳ねた。生臭い匂いが鼻を突く。

 リュウは咄嗟に覚悟を決めた。もう無理だ。猪がこっちに突っ込んでくるのが目に浮かぶ。無様にひっくり返る自分の姿も。


 リュウの想像を実現しようとするかのように、猪が駆け出す。と思ったら、猪は明後日の方へ駆け抜けていった。がさがさと慌てた音が遠退いていく。


 リュウは呆気に取られた。しばらく佇んで刀を納めると、予定していたようにあ~あ、と口にする。生臭さが鼻を突く。


 …え、何で?猪の残り香か?そう思いながら振り返ると、目の前に夥しいほどの牙が並んでいた。

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