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2-2

日間ハイファンタジーランキングにて五位にランクインしておりました。

これもすべて読んでいただいている皆様のおかげです。

本当にありがとうございます、そしてこれからもよろしくお願いいたします!

「がっ……」


 アルビンの手が、俺の首を掴み上げる。

 そしてそのまま俺の体は宙に持ち上げられてしまった。

 見た目からは想像もできない怪力――やはりレイのファミリーともなるとレベルが違うのか。


「レイさんとともに暮らす? こんな貧弱そうな男が? あまりにも不釣り合いでしょう。格が違いすぎる」


 首が締まり、脳への酸素供給が滞る。

 意識を失う前に何とか腕を外そうと彼の手首を掴むが、びくともしてくれない。


「アルビン、その手を離して」


「……」


 レイが止めに入ってくれたが、アルビンは手を離そうとしない。

 それどころか、俺の首をさらに強く締め上げてきた。

 徐々に視界の端が黒く染まり、間もなく俺が意識を失うということを確信させる。 


「貴様……どういう経緯かは知らんが、身の程を弁えろ。レイさんの隣は強い者こそ相応しい。そう、例えば俺のような――」


「……離せって、言ってる」


「っ!?」


 意識を失う直前、俺の体に突然酸素が入り込んできた。

 アルビンが手を離したのだ。

 盛大に咳き込みながら、俺は尻もちをつく。

 落ち着きを取り戻してから顔を上げてみれば、銀色に光る刃が視界に映った。


「っ……ファミリーに手を上げるんですか」


「こっちの要求を無視したのはそっち。誰であろうと、彼に危害を加えることは許さない」


 レイは怒りを覚えているようだった。

 いつの間にか抜いていた刃を、アルビンの肩へと添えている。

 

「次にテオに危害を加えようとすれば、この利き腕を斬り飛ばす。ファミリーも解消」


「……こんな男の、何がいいんだ」


 アルビンは荒い呼吸を繰り返していた俺を睨みつけ、皆に聞こえるよう舌打ちをする。

 そしてレイを一瞥した後に、苛立った様子でギルドの外へ出ていった。


「大丈夫? テオ」


「あ、ああ……助かった」


「ごめん。彼にはちょっと過激な部分がある」


 ちょっとだっただろうか? ……いや、レイの基準からすればあれはちょっと(・・・・)だったのかもしれない。

 もしかして俺は、だいぶ危険な職場を選んでしまったのではないだろうか?


「だいぶ目立った。もう外に出よう」


「ああ……そうだな」


 レイが差し出してくれた手を借りて立ち上がる。

 俺たちは先ほどまでよりも大きな注目の的になっていた。

 またトラブルが起きる前に移動するのは、懸命な判断だろう。


 いそいそと外へ出てみれば、好奇の目が消えたことで呼吸が幾分か楽になった。

 やはり俺は目立つことに向いていない。


「改めて、私のファミリーがごめん」


「いや、そこまで俺は気にしてないよ。……ああいう扱いは慣れてる」


「ん、そんなことに慣れちゃ駄目。今後は私が許さない」


「……ありがとう」


 レイの言葉は、素直に嬉しかった。

 しかし漠然とした不安が、妙に胸を締め付ける。

 アルビンの目にあった感情は、明らかな嫉妬だ。

 多分レイが俺に構えば構うほど、俺への苛立ちが溜まるだろう。

 レイに安心して仕事へ行ってもらうためにも、俺自身が暴力に立ち向かえるだけの自衛の術を磨いた方がいいかもしれない。

 

 ――不思議だ。

 これまでの理不尽には立ち向かう気力さえ湧かなかったのに、レイのためと思うと少し勇気が湧く。

 

「アルビンはあんな風だったけど、他のファミリーは優しい。多分」


「多分か……何人いるんだ? レイのファミリーは」


「数えたことは、ない。いっぱいとしか言えない。でもギルドに行けば絶対に誰かしらいる」


「結構大規模だな」


「私は別にいらなかったんだけど、自然と集まっていた。おかげで大きな依頼も受けられてるし、感謝はしてる。けど、必要以上に干渉されるのは……それはそれで迷惑。困る。私は自由が好き」


 レイは困り顔で眉をひそめ、そのままギルド前から離れるために歩き出す。

 俺はそれについて行きながら、彼女の姿を何となく横目で観察した。

 確かに、レイが誰かに従っている印象はない。

 

「私のファミリーの話は、もういい。それより、家に帰る前に買い出しを済ませる? 正直、私の家には食材も何もない。元々あまり帰らないから、日用品もない」


「大問題じゃないか……そんな状況なら寄ってくしかないだろ」


「ん。じゃあこっち。もう少し奥の店の野菜が美味しい。いつも生で食べてる」


「それはいい情報だな。――生で食べてる話は置いておくけど」


 しばらく商店街を進んでいけば、レイはやがて一つの店の前で止まる。

 その店にはレイの言った通り美味しそうな野菜が並んでいた。

 これは料理に使うのが楽しみだ。


「おじさん、来た」


「おお! レイじゃねぇか! よく来たな!」


 レイが店の奥へ声をかければ、ガタイのいい頭に布を巻いた男がのしのしと歩いてきた。

 褐色肌でありつつ顔面に大きめの傷跡が残っており、野菜を売っているよりは魔物を狩っている方が似合いそうに見える。

 

「テオ、この人は店主のバートルおじさん」


「あ……どうも、テオと言います」


 俺が挨拶すると、バートルと紹介された男はなぜかあんぐりと口を開けた。

 そして突然笑い出す。


「がっはっは! まさかあのレイが旦那を連れてくるとはなァ! でっかくなったもんだぜ!」


「……まだ、違う」


「まだってこたぁあながち間違っちゃいねぇじゃねぇか! こいつはめでてぇな!」


 一体何の話をしているんだか。

 変に勘違いされていても困るため、俺はちゃんと自己紹介をすることにする。


「旦那じゃないです。そんな予定もないし。俺はレイに雇われる形で家事を任されることになりました。今日は料理のための買い出しです」


「なんでぇ! ちげぇのか!」


「はい、まったく違います」


 俺などと夫婦と思われれば、レイの評判が下がってしまうかもしれない。

 あくまでビジネス関係であることを証明し、アルビンのときのような余計なトラブルは未然に防ぐべきだろう。

 そうして改めて野菜の選別に入ろうとしたとき、突然俺の服の裾が後ろに引っ張られた。

 

「レイ?」


「……ん」


 振り向いて確認してみれば、裾を引っ張っていたのはレイであることが分かった。

 その顔はなぜか不機嫌そうで、ジッと俺を見つめている。


「な、何だ?」


「……別に。確かに私も冗談で言ったけど、そこまで徹底的に否定されると……ちょっと傷つく」


「お、俺は悪かったって言えばいいのか? 変に噂が広まって困るのはレイの方だと思ったんだけど」


「テオの気遣い、分かってはいる。でも……女心は複雑」


 レイの顔はいつだって無表情に見える。

 だけど俺には確かに不機嫌そうに見えたし、今は少し困っているようにも見えた。

 どうして困っているかってところまでは、どうしても分からないのだけど。


「がっはっは! こんなしおらしいレイは初めて見たぜ! 今日は気分がいいから、あんたらにはサービスしてやんよ!」


「え、いいんですか?」


「おうよ! そん代わり、今後もうちを贔屓にしてくれよな!」


「……ありがとうございます」


 感謝をした後、俺は野菜の選別へと入る。

 とは言え、どれも品質が良いことはもはや間違いない。

 だからこそ必要以上に悩むことなく、少しでもサイズが大きく形がいい物を探すことにだけ専念できた。

 

「だいぶ買うねぇ。一週間分か?」


「はい。少ないよりはマシなので、気持ち多めに選びましたが」


「うちの野菜はうめぇからな、どんだけ買ってもすぐに食い尽くしちまうと思うぜ! とりあえずこの量なら4000Gってところだな」


 俺の知っている相場と品質を照らし合わせると、4000Gという値段はかなり安い範囲に入る。

 サービスでだいぶ値引きしてくれているのだろう、俺は先ほど受け取った100万G入った袋を取り出し、そこから金貨(一枚10000G)で支払いを済ませようとした。

 すると、なぜかその手をレイに掴まれる。

 

「何しようとしてるの?」


「え、何って……支払いだけど」


「それはテオの給料。食材を買うのは私のお金」


 レイは魔法の袋から金貨を取り出すと、そのままバートルさんに渡してしまう。

 俺はその行為に対し、疑問符を浮かべることしかできなかった。


「い、いいのか?」


「何で?」


「あ、いや……こういうのは給料から払うものだと思ってたから」


 今まで俺は給料の5万Gから隊の食費や掃除道具を賄っていた。

 寮生活だったおかげで手持ちが0Gでも生活はできていたし、もはや俺が払うことが習慣付いていたのである。


「――禁止」


「へ?」


「テオが個人的に必要な物以外、給料で買うの禁止。家事に必要な物があれば言って。私が払う」


「あ、ああ……」


 有無を言わせない態度を見せるレイに、俺はただただ頷くことしかできなかった。

 

「事情は分かんねぇが、兄ちゃんもだいぶ苦労してきたみてぇだな。よし、こいつもサービスだ! これからも気張って行けよ!」


 購入した野菜が詰まった紙袋を受け取ると、バートルはその上にリンゴを二つ乗せる。

 俺は二人に感謝すると同時に、今まで自分がどれだけ劣悪な環境にいたのかを改めて自覚したのであった。

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