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2-1

 リストリア王国城下町には、およそ三時間ほどでついた。

 まだ昼前ということで、商店街の方が大変騒がしい。

 

『おい……あの人って』


『白銀の姫じゃない? ふわぁ……美しいわね』


『隣にいるやつは誰だ?』


 そんな商店街をレイとともに歩いていると、様々な人が俺たちに視線を向けてくる。

 さすがは有名人と言ったところか。

 しかし仕方がないことではあるが、俺まで注目されてしまうのは結構辛い。

 様々な憶測まで聞こえてきてしまい、いい気分のままではいられなかった。


「ごめん、私といると結構目立つ」


「……こればかりは仕方ないって。レイのせいじゃない。それにしても、ほんとに有名だな」


「Sランクってだけ。数が少ないから騒がれてる」


 冒険者事情に詳しくないのだが、Sランクは冒険者が千人いたら一人いるかどうからしい。

 Aランクに上がった後に国から感謝状が出るレベルの功績を上げる必要があるんだとか。

 そこまでいけば、まさに国宝と言ってもいいだろう。


「ドラゴンを呆気なく倒すほどだもんな……慕われてるのもよく分かるよ」


「ん、褒められると嬉しい」


 見た目からは想像もできない――とは伝えないでおいた。

 

「すぐそこが冒険者ギルドの建物。ここまで言い忘れてたけど、入る前に鎧は脱いでおいた方がいい」


「え、何でだ?」


「冒険者の中には騎士が嫌いな人がいる。騎士が冒険者を目の敵にすることが多いからみたい。だから脱いだ方がいい。難癖をつけられる」


「……なるほど」


 よくブラムも同僚も『冒険者ども』って口にしていたっけ。

 冒険者は人からの依頼を受けて金を稼ぐ職業のことを指す。

 レイのように魔物討伐の依頼を受ける人間もいれば、中には迷宮探索や薬草採取などを受け持つ人もいるそうだ。

 だけど基本は魔物を狩ることが多いため、騎士のほとんどは仕事を奪われたように感じている。

 危険な仕事を受け持ってもらえるのだから、俺からすれば感謝しかないのだけど。

 

 俺は人混みを避けるようにして、鎧を外した。

 あとはこれをどこに置くかなのだが――。


「私の袋の中に入れればいい。容量は気にしないで」


「分かった、助かる」


 外した鎧をレイの魔法の袋の中へと押し込み、収納した。

 あれだけの竜の巨体を入れても、この袋にはまだまだ余裕があるらしい。

 

「じゃあ、入ろう」

 

 そうしてレイは、冒険者ギルドの扉を開けた。

 

 冒険者ギルドの中は、商店街よりもにぎやかだった。

 殴り合いの喧嘩をしている者、昼間から酒をあおる者。

 ここには多くの自由を感じる。

 冒険者か……家事に余裕ができたら、登録してみてもいいかもしれない。


「うおぉぉぉぉぉ! レイさんだぁ!」


「おかえりなさい! レイさん!」


「今日も美しいですわ! レイ様!」


 ――何だこれ。

 

 入った瞬間、あらゆる歓声がレイへと集まった。

 喧嘩をしていた者も酒を飲んでいた者も、皆が皆レイへと言葉を投げかける。

 正直な話、ビビってしまった。

 どうしよう、離れて歩こうかな。


「ん」


 当事者であるレイは、冒険者たちに短く声を返す。

『ん』って……リアクションが薄すぎるように思えないこともない。


「テオ、こっち」


「あ、ああ……」


 呆然としている俺の手を、レイが掴む。

 そして俺は、すぐさまこの状況がまずいことに気づいた。


「「「……」」」


 周りの視線が、俺へと刺さっているのだ。

 これだけの人気者が見知らぬ男を連れていたら、誰もが気になるだろう。

 しかしレイはそれをまったく気にしない様子で、女性の座るカウンターの方へと俺を連れて行った。 


「おかえりなさいませ、レイさん」


「ん。依頼を達成した。報酬が欲しい」


 どうやらここは受付のようで、レイは受付嬢に一枚のカードを渡す。

 確かギルドカードというもので、依頼の受注状況や達成した依頼の確認、さらには金を預け、それを引き出すためにも使えると聞いたことがある。


「はい。竜の討伐依頼でしたね。素材はお持ちですか?」


「ん。今出す」


 レイは魔法の袋を多少開けた場所へかざす。

 すると中から切断された竜の頭が飛び出した。

 それを見て、再びギルド内に歓声が上がる。

 俺も今初めてこれを見たのであれば、同じように興奮していたかもしれない。


「これと……」


 続いて竜の腕が二本飛び出してくる。

 冷静に見てみれば、これもまた巨大だ。

 殺されかけたときのことを思い出し、背筋に冷や汗が浮かび上がる。


「想像以上に大きいですね……」


「これと別に体がある。そっちはあとでウロコだけ剥がして持ってくるから」


「分かりました。では現状この素材分と討伐報酬だけお渡ししますね」


 頭と腕がギルドの職員によって回収されていく。

 そしてしばらくの査定の後、受付嬢は何枚かの書類を持って再びレイの前に立った。


「査定の結果、報酬1000万G、そこに加える形で素材の売却値が3000万G。合計4000万Gのお支払いとなりますね」


「ん、分かった」


「いつも通りギルド預かりでいいですか?」


「100万Gだけ引き落としたい」


「かしこまりました」


 ……本当に俺はレイと同じ世界に生きているのだろうか。

 あまりにも俺の生きてきた世界と金の単位が違いすぎる。

 下っ端騎士の給料が月20万Gと言った通り、基本的に一月それだけあれば暮らしていける。

 つまり贅沢を考えなければ、レイはこの報酬で十六年以上生きていけるのだ。

 

「ではこちら100万Gとなります」


「ありがとう」


 金貨がぎっしりと詰まっているであろう袋を受け取ったレイは、俺を引っ張るようにして受付から離れる。

 毎回レイが俺の手を掴んで連れていくものだから、周りからの視線はさらに訝しげなものに変わっていた。


「はい」


「へ?」


 突然、レイが金貨の詰まった袋を突き出してくる。

 俺は一瞬何のことか分からず、混乱して挙動不審になってしまった。


「給料。前払い」


「い、いやあんた……こんなところで渡すか?」


「私は忘れっぽい。だから早めに渡しておきたい」


 俺の手に、見かけ以上に重い袋が手渡された。

 これほどの大金を持ったことがない俺は、みっともなく動揺して袋を取り落としそうになる。

 逆にレイは小遣いを渡した程度にしか思っていないようだ。

 俺の動揺っぷりを疑問の浮かんだ目で見ている。


「今後は毎月の頭に払う。増やしてほしかったら言って。あと足りなくなったら言ってくれれば追加で渡す」


「贅沢すぎないか……?」


「私と一緒に暮らす以上、たくさんわがままを言ってほしい。テオに不自由させたくない」


「うっ……」


 大変甘やかされている気がする。

 こう言ってもらえるのは素直に嬉しいのだが、ここまで来ると逆にわがままを言うことに罪悪感を覚えてしまいそうだ。

 給料はきちんと貯金しておこう。そして献身的に働こう。

 俺は改めて自分にそう言い聞かせた。


『おい……今一緒に暮らすって……』


『え⁉ じゃあまさか……あいつレイさんの恋人……!?』


 ――しまった。

 こんなところで話すものだから、周りの何人かに聞かれてしまったようだ。

 慌てて否定をするべく、俺は冒険者たちの方へ視線を向ける。

 

「……聞き捨てならないな」


 すると、人混みを掻き分けて一人の男が姿を現した。

 剣士だろうか、高そうな鎧と同じくらい高そうな剣を帯刀している。

 背も高く顔つきも端正で、実力と品性を兼ね備えた男という印象を受けた。


「アルビン、久々」


「久しぶりです、レイさん。ドラゴン討伐お疲れさまでした」


「ん」


 アルビンと呼ばれた男は、レイへと近づくと軽く頭を下げる。

 そして不機嫌そうな顔を隠そうともせず、俺へと視線を向けてきた。

 顔ごとではなく視線だけを向けてきているのが、どうにも嫌な態度である。


「テオ、彼はアルビン・ブルーノ。私のファミリーメンバー」


「あ、確かファミリーって――」


 冒険者は、難易度の高い依頼をこなすためにファミリーという団体を作ると聞いたことがある。

 中にはそもそも一人では受けられない依頼があるらしく、そういうときこそファミリーで挑むんだとか。


「レイさん、こいつは?」


「テオっていうの。今後私と一緒に暮らす」


「……意味が分からないな」


 アルビンはそうつぶやくと、突然俺へと腕を伸ばしてきた――。

※追記

3%では多いという指摘をいただいたので、3%→千人に一人 という描写に変更いたしました。


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