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5-7

「ば、バカ言え! テメェら! どう見てもこいつは言わされている! 証言にはなんねぇ!」


「ま、そう来るわよね。じゃ、次の手段」


 カノンは魔法の袋から、ジャラジャラと音のなる袋を引っ張り出す。

 そしてそれを、地面へとぶちまけた。

 

「騎士の中で他にも証言してくれるやつがいれば、ここにぶちまけた100万Gをそっくりそのままあげるわ! 二番目に証言してくれれば90万! それ以降は10万ずつ下がっていく! さあ! はじめに証言してくれる人は誰!」


 そんなカノンの言葉を聞いて、騎士たちがざわめく。

 無茶だ。

 幾ら何でも金で釣るなんて、国に仕える騎士がそんな簡単に――――。


「お、俺! 証言します!」


 ――――とんだ間抜けがいたもんだ。


 騎士はいそいそとカノンの下まで走ってくる。

 鉄仮面で顔は見えない。

 ……こいつ、本当に騎士か?

 どことなく足運びが訓練されたものとは違う気が――。


「証言したら100万Gなんですよね!?」


「ええ、持ってっていいわよ」


「ありがとうございます! これだけで100万Gだなんて……」


 嬉しそうに袋からこぼれた金貨を集める騎士。

 その様子を見て、周りの連中からまた異なったざわめきが起きる。


「お、俺も……証言する!」


「私だって! 前々からブラム隊長の素行にはうんざりしてたんだもの!」


 しばらくして、数名の騎士たちがカノンの下へ集まってきてしまった。

 カノンはそれを見て、思い通りとでも言いたげにほくそ笑む。

 

 ……なるほど。


 初めに宣言したこの男は、おそらく中身が冒険者だ。

 後に続いた彼らは俺にも見覚えがあるし、騎士で間違いない。

 カノンたちは、サクラ(・・・)を使ったのだ。

 一人が先立てば、後に続く者たちの気持ちが楽になる。

 何故ならば、ここでブラムを告発し牢へぶち込むことさえできれば、タダで金が手に入るようなものなのだから。

 

「ふむ。まあこんだけいれば十分でしょ! んじゃ片っ端から言ってって」


「確かに四年前! フェリス隊長を襲ったのはブラム隊長です!」


「俺たちにもテオが余計なことを言わないよう見張れと指示を出してきました!」


「フェリス隊長とか! 気に入らない人がいると幻草の薬を飲ませて壊したり騙したりしていました!」


「外では権力をチラつかせて女に体を売らせてたり……金を巻き上げてたり……」


「犯罪者から賄賂をもらってたなんて話もあるぞ!」


 一つ一つ語られていくブラムの黒い話。

 中には今まで聞いたこともない話も混ざっていたが、きっと事実なのだろう。

 徐々に青くなっていくブラムの顔が、それを証明しているのだから。


「違う……違うっ! 違う違う違う違うッ! 俺はそんなことしてねぇ! なあフェリス! さっさとあいつらも捕えてくれよ! なっ!? あのとき守ってやっただろ!?」


「わ、私は……私は……」


 突如として話を振られたフェリスは、騎士たちとブラム、そして俺へと視線を巡らせる。

 その目は混乱一色であり、腕が右往左往と動き回っていた。


「こんのくそアマがぁ! どれだけテメェの面倒見てやったと思ってんだよ! 隊長として右も左も分からないテメェにノウハウを教えてやったのは俺だ! そもそも! 俺が推薦してやらなきゃテメェは隊長にすらなれてねぇんだぞ! もっと俺のために働けってんだよッ! さっさと全員斬り捨てろ!」


「あ……うぅ……」


 フェリスは迷った挙句、その剣をレイへと向ける。

 まるで操り人形だ。

 自身で考えることをほとんど放棄して、かろうじて自分を保っている。

 

「あなたは、何?」


「わ、私は! フェリス・イングラス……! 騎士です! 騎士として! あなた方を斬ります!」


「……そう」


 フェリスがレイに斬りかかる。

 しかし、レイはブラムの横に突き立てた自分の剣を取ろうともせず、そのまま迎え撃った。

 レイはフェリスの剣を寸前でかわし、彼女の首へと手を伸ばす。

 首を掴むと同時、レイは彼女の足を払って地面へと叩き落とした。

 

「ぐっ!」


「動かないで」


 フェリスは剣を持っている腕を動かそうとするが、その腕すらもレイに掴み取られてしまう。

 そして骨が軋むほどの強さに握り込まれ、ついに彼女は剣を取り落としてしまった。


「あなたが、テオを犯罪者って決めつけていた女」


「決め……つけていた……?」

 

 フェリスの動きがピタリと止まる。

 そんな彼女の下に、カノンが歩み寄ってきた。


「あんたは幻草の作用で軽い暗示をかけられてたみたいね。それでそこに倒れてるデカブツの発言を信じ込まされていたみたいだけど、幻草の薬の効果は長くて一月。それ以上は薬を一定量ずつ摂取しないと普通の排泄行為で外へ流れてしまう」


 でも――――。

 

 カノンはフェリスの顔に自分の顔を近づけながら、告げる。


「あんたからは幻草の匂いがしない。そもそも定期的に摂取していたのなら、とっくに依存しきって自分から求めに行くはずよ。つまりあんたは、幻草の効果が切れているのにも関わらず、テオが犯人だって信じて疑わなかった。あまりにも愚かだと思わないかしら? 見事に踊らされきって」


「……っ!」


 すべての逃げ道が、塞がれた。

 フェリスの目はカノンを一点に見つめている。

 やがて、その目は俺の方へと移動してきた。

 俺と目が合ったフェリスは、震える声で言葉を吐く。


「ごめ……んな、さい」


「……」


 先ほどまでブラムの操り人形と化していたフェリスであったが、もしやブラムの罪が並べられ始めた段階で気づいていたのかもしれない。

 自分が四年も前から間違い続けていたことに。

 故の謝罪だと、俺は判断した。

 つまりは俺たち側を信じたのだ。


 だからと言って――――彼女を許せるわけがない。


 俺が受けた苦しみや、無駄に過ごした年月。

 誰がどう見てもこの謝罪と釣り合ってないだろう。

 

 だけど、どうしていいかが分からない。


 結局、この件の元凶はブラムだ。

 あいつが今後どれだけ酷い目に遭おうが、俺はただそれを眺めていることができるだろう。

 しかし、フェリスには一応被害者になり得たという事実がある。

 俺からすれば加害者だが、大きく全体を見れば――という話だ。

 一度俺を強姦魔だと思い込み、それに対しブラム含め周りの人間が賛同する。

 たった16歳だったフェリスに、その流れに逆らうだけの力が備わっていたといえるだろうか?

 まだ子供であった彼女に――――。


 もしも立場が逆だったとしたらと思うと、俺は背筋が寒くなる思いだ。

 彼女が酷い目に遭ったとしても、俺はそれをいい気味だとは思えない。


「……レイ、離してやってくれないか」


「ん……分かった」


 レイは言葉とは別に、目で俺に対して「いいの?」と問いかけてくる。

 それに対し、俺は改めて一つ頷いて返した。


「フェリス、隊長……俺はあんたを許さない」


「っ……!」


「あんたに対して、同情できる部分もある。だが、それを差し引いても……どうしても許せない俺がいるんだ。理屈では分かっていても、感情が、体が、あんたを許さない」


 だけど――。


「ここで、俺からあんたへ何かをすることはない。そしてこれからも、だ」


「し、しかし……っ! 私はあなたにどれほどの――」


「俺からの望みは一つ。二度と、俺の前に姿を現さないでくれ。今後街で俺を見かけたら、別の道を通ってくれ。逆に俺の方からあんたに気づいたのなら、俺はあんたを避けて歩く」


 顔を合わせれば、お互い嫌なことを思い出す羽目になる。

 償いとか、もうそれどころじゃなくなってしまうわけだ。

 そうなると、取れる手段はもう顔を合わせないようにして生きるという道しかない。


「あんたのことは、もうどうでもいい。今必要なのは――」


 俺はフェリスから顔をそらし、ブラムの方へと視線を向けた。

このたび、感想欄の方を閉めさせていただくことにいたしました。

作者としては嬉しい感想も厳しい感想もどれもありがたく受け取っておりました。

しかし最近の感想の内容を拝見させていただき、何気なく覗いた方が不快に思われる様子が確認されましたので、これ以上そう言った方を増やさないための決定でございます。

ご理解の方よろしくお願いいたします。

今後ご意見のある方は、メッセージにてお願いいたします。

今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

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