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5-4

本日二話投稿しております。

5-3話を読んでいない方は、先にそちらをお読みいただけると幸いです。

「ちょっと! どうしてそんなに急ぐのよ!」


 どういうわけか、あたしたちは城下町を全力で走っていた。

 先頭を走るのはレイ。その後ろにあたしと、またそのちょっと後ろをアルビンが走っている。

 

「テオに、魔石を渡しておいたの。いざというときに私を転移させられる効果があるものを」


「確かに渡してたけど! それがどうしたっていうのよ!」


「あれは特注品。予期せぬ砕かれ方をして転移が実行できなかったとき、私との魔力のリンクが切れて教えてくれる仕組み」


「はぁ!?」


 この子は自分が何を言っているのか分かっているのだろうか?

 

 転移の魔石は、ランクが上がってきた冒険者にとっては必需品と言ってもいいアイテム。

 引き寄せる方も、自分から転移する方も、とりあえず一つずつ持っていることが基本だ。

 ぶっちゃけ、これだけでもクッソ高い。

 保険として持っておくべきとはいえ、Aランクでも簡単に手が出ない金額であることは間違いない。

 この子は、それをさらに改造したと言うのだ。

 高等魔法である転移の術式と、レイ自体とリンクさせる新しい術式。

 それを同じ石に組み込むことができる人間なんて、この国に三人いるかどうか。

 同時にその値段は、本来の十倍で済むかどうかってくらいだと思う。


 いくらなんでも過保護すぎ――――と言いたいところだけど、現状それが機能しているということで、あたしは何も言えなくなった。


「レイさん! もっと速く移動したいのであれば、他の方の迷惑になるかとは思いますが、屋根の上を走らせていただきましょう!」


「ん、アルビン名案」


 確かに屋根の上を走った方が圧倒的に速い。

 ……後で謝罪して回るのが大変そうだけど。


 目の前でレイが建物の屋根に飛び上がる。

 それにつられる形で、あたしたちも同じ屋根へと飛び上がった。


「うおっ! カノンちゃんたち! どうしてそんなところ走ってるんだい!?」


「リーンさんごめん! また後で説明するから!」


 商店街でリーンさんに声をかけられつつも、あたしたちは駆け抜ける。

 そうして本来の速度よりも速く、あたしたちはレイの屋敷へとたどり着いた。

 たどり着いて、言葉を失う。


 まず、玄関の扉がない。

 

 そして屋敷の中は、まるで複数人の人間が暴れまわったかのような跡が残っていた。

 壁は蹴破られていたり、剣で斬りつけられたような傷があったり。

 恐ろしいのは、争った跡ではなく、一方的に悪意を持って暴れまわったような跡であること。


「テオ……っ!」

 

 レイが屋敷の中へと駆けていく。

 あたしとアルビンもそれに続いた。

 扉のなくなった玄関を潜ったレイは、廊下に身を屈める。

 手で何かを拾い上げたようだ。


「やっぱり……壊れてる」


 レイの掌の上には、青色の宝石の欠片が乗っていた。

 間違いなく転移の魔石である。 


「一体何があったって言うのよ……っ!」


 正直、あたしは混乱していた。

 冒険者業をしている以上、あたしたちだって誰かの恨みを買うことはある。

 それの報復に彼が巻き込まれたと言われれば、今のところ一番納得できた。


「お、やっと帰ってきたな」


 しかし、その予想はすぐさま否定される。

 突然廊下の方から二人ほどの騎士が現れた。

 彼らは卑しい笑みを浮かべながら、レイの方へと近づいていく。


「レイ・シルバーホーンだな? あんたを麻薬所持及び麻薬売買の罪で拘束させてもらう」


「はぁ!? 何言ってんのよあんたたち!」


「部外者は黙っていろ! もうすでに証拠は上がってるんだ!」


 そう言いながら、騎士たちはあたしの前に白い粉の入った袋を放ってくる。

 あたしは溢れたその粉を指ですくった。


 ――確かに、これは麻薬だ。


 魔法に精通しているあたしは、この薬を用いて魔法的実験を行ったことがある。

 幻草と呼ばれる貴重な草を原材料にして、甘い香りのする木で燻すことによって完成する薬だ。

 人間が摂取すれば、強い快楽と依存性を発揮する。

 とある機関では、これを少量摂取させることで暗示を植え付けるために利用していると聞いたことすらあった。

 ま、要するに世にあってはならない薬ってことね。


 こんなもの、魔法研究なんてしたこともないレイが持っているわけがない。

 

「それはこの家から見つかったものだ。つまり紛れもない麻薬所持の証拠! 大人しく同行してもらうぞ!」


 やっぱり、この国の騎士団は腐ってるわね。

 ほとんどの連中が冒険者を目の敵にしていて、隙あらば排除しようとしているのはあたしだって知っていた。

 まさか、その排除の方法がこんなでっち上げとは思わなかったけど。


「とんだ茶番ね! レイが麻薬所持で捕まったなんて、街の人たちも信じないわよ!」


「街の人間の意見など知らん。我々騎士団が発表したことは国の意志だ。どれだけ周りの連中が彼女の無実を訴えようが、証拠が上がっている以上投獄は免れない」


「……」


 情報操作ってやつかしら? 

 あまりにも腐りすぎていて、あたしは思わず言葉を失った。


「さあ、立て! 逃れられるだなんて思わないことだな」


「――そんなことは、どうでもいい」


「は?」


「テオは、どうしたの?」


 立ち上がりながら、レイが彼らに問いかける。

 すると騎士たちは顔を見合わせ、途端に嘲笑を浮かべた。


「はっ、あの野郎ならついさっきブラム隊長に連れてかれたよ。バカなやつだよな。くだらない正義感のせいで一生奴隷扱いされる羽目になったんだから。なぁ?」


 こいつらは、一体何を言っているのだろうか。

 頭の湧き方が異常すぎる。

 自分達に正義があると思い込んでいる分、ただの悪党よりもタチが悪い。

 何をしたらここまで考え方が歪んでしまうのだろうか。

 少し、妙だ


「……そう。もう十分」


「分かったならさっさとついてこい。抵抗すれば、貴様ら全員罪人として追われ――」

 

 彼の言葉が、途中で途切れる。

 あたしは思わず顔を覆った。

 そう、レイは本来こういう子だ。

 口よりも先に手が出る(・・・・・・・・・・)のが、基本的なレイの本質。


「もう、余計なことは言わないで」


「へ――?」


 もう一人の騎士が素っ頓狂な声を上げる。

 そりゃそうでしょう。

 突然仲間が殴り飛ばされ、壁に半身をめり込ませたのだから。

 バカね。国の権力ごときで彼女を抑え込めるとでも思っていたのかしら?

 

「テオは、どこに連れて行かれたの?」


 レイは剣を抜くと、震え上がっている騎士の首へとそっと添える。

 あたしの知る中で、おそらく一番恐ろしい脅迫ね。


「き、騎士団の……ブラム隊の訓練所です……」


「……そう」


 冷たく告げたレイは、彼の首根っこを掴んで床へと放り投げる。

 

 ――はっきり言おう。


 あたしはさっきから漏らしかけている。

 アルビンなんて顔が真っ青で、声を上げることすら叶わない。

 なぜかって、そりゃ、レイが今までにないくらい怒っているからよ。


「アルビン」


「は、はい!」


 突然名前を呼ばれたアルビンが、裏返った声を上げる。

 やっと声が出たみたいだけど、もう可哀想なくらい怯えてるわね。


「現時点で街にいるファミリーメンバー、全員集めて」


「ぜ、全員ですか……」


「難しい?」


「……いえ、そんなことはありません」


 アルビンは何度か深呼吸して、動揺した心を落ち着かせたようだ。

 やっぱり、この子はAランクの中でも頭一つ出ているわね。


「テオを、迎えに行くのですね」


「ん」


「ならば俺も全力を尽くして集めましょう。彼には借りがありますから」


「……ありがとう」


 ファミリー全員――依頼で街を出ている連中を抜いても、おそらく百人以上はいるだろう。

 集まれば、まさに一国の軍に匹敵するんじゃないかしら?


「今まで放っておいて、肝心なときだけ集めるなんて都合が良すぎるとも分かってるんだけど……」


「そんなこと言わないでください。あなたのファミリーは、みんなあなたに憧れ、近づきたくて集まったんです。レイさんから頼みごとをされて、断る人間は一人としていません」


 それこそ、国が敵になったとしても――。


 そう言って、アルビンはニヤリと笑う。

 申し訳ないけど、気色悪いわね。申し訳ないけど。


「カノンも、ついて来て欲しい」


「事情はまだよく分からないけど……仕掛けるのね、レイ」


「ん。事情もちゃんと後で説明する。騎士団は、やってはいけないことをした。だから――――潰す」


 レイの言葉を聞いて、あたしは再び顔を覆った。

 騎士団の中の誰だか知らないけど、きっとうちの大将を怒らせたことを、一生後悔することになるんでしょうね。


「はぁ、いいわ。どこまでだってついてってやるわよ!」


「ん……ありがとう」


 お礼なんていらなかった。

 実はあたしだって、結構怒り狂ってるんだからね。

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