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【9月30日非公開予定】帰るために



「……と、いうわけだ」


「はぁ」



 その後、私は別の部屋へと案内された。私が召喚された部屋よりもさらに広く、明るい。うわあ、シャンデリアがいっぱい。


 床には赤いじゅうたんが敷いてあり、その先には数段の階段。そこにはきらきらしたご立派な椅子があり、そこにイケメン王子……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアと名乗る男は座っている。



 あれが、玉座ってやつかなー。



「……あまり、驚かないのだな」



 説明を受けても驚きを見せない私に、少し困惑している。もう少し慌てると思ったんだろう。



「いや、これでも驚いてるっていうか……驚き過ぎて、逆に冷静というか」


「ふふ、なるほど」



 うわぁ、この人イケメンどころか笑うと爽やかだなあ。


 この人……ウィルドレッドさんが言うのは、まあ物語ではよくある話だ。世界滅亡を企む魔王が現れて、この世界の人間じゃ太刀打ちできないから別の世界から召喚しようと……うん、よくある話だ。物語の中ではね。



「あの、ウィルドレッドさん……」


「ん、ウィルでいい。さんもいらないしな」


「はぁ、ならウィル……」



 とりあえずこれは現実で、自分の身に起こっていることだと受け入れる。夢じゃないのは、何度も自分の頬を叩いたので確認済みだ。受け入れたうえで、聞くのだけれど……



「なんで、私? 別に私じゃなくても……他にも、それっぽい人なんてたくさん。それに、私向こうでやりたいことだってあるし」


「当然の疑問だ。でも悪いね、召喚したのはボクだが、選んだのはこの世界だ。キミに素質があると判断されてのことだから、気を悪くしないでほしい」



 召喚をしたのはウィル……けれどあくまでも私を選んだのは、この世界、と彼は言う。


 気を悪くするな、と言われても……それで納得なんて出来ない。なんとか、帰れないかと聞いてみるのだけど……



「すまない。召喚に成功したら、役目を終えるまでは帰ることが出来ないんだ」



 と、彼は言う。申し訳なさそうな顔をしており、彼に悪気がないことはわかった。


 はぁ……つまりは、この世界で魔王ってのを倒さないと、元の世界には帰れないのか。私にそんなことが出来るとは思えないけど、素質があると言われたのだし、なにより倒さないと帰れない。



「……わかりました、私、魔王を倒します!」


「そう言ってもらえて、嬉しいよ」



 彼は、異性を殺す魔性の笑顔を浮かべる。うわぁ、すごいイケメンだぁ。



「キミを勇者として、魔王討伐に旅立つためのメンバーは事前にこちらで選抜しておいた。準備が完了するまではこちらで用意した宿で暮らすといい」



 こうして、私はこの世界を救うための『勇者』として、旅に出ることになった。旅立つまでの三か月、荷物の準備や最低限の戦闘技術を学ぶ訓練、この世界の知識を得たりと、この国で過ごした。


 驚いたのが、用意してくれたという宿。そこは私の世界で言うホテルと大差ないものだった。もっとも、この世界の宿が変なのではなく、勇者待遇の私だから、らしい。


 この世界の暮らしはそれなりに楽しく、充実していた。けれど、私は帰るのだ、元の世界に。あまりここに馴染みすぎても、いけない。


 そして三ヶ月後、私は五人の仲間を連れ、旅に出た。男三人、女三人のパーティーだ。


 旅の道中では、様々な戦いや出会いがあった。魔物と呼ばれる生き物を倒したり、いろんな町や村、国に訪れたり。そして、別れも……


 魔王の下へとたどり着くまでに一人、魔王を守る四天王との戦いで一人、そして魔王との戦いで一人が犠牲になった。


 大きな犠牲を払いながらも魔王を討ち倒した私は、『勇者』から『英雄』として称えられた。それは決して嫌な気持ちではなかったし、一緒に旅をした仲間とは固い絆で結ばれた。


 それでも、私がこの日まで頑張ってきたのは元の世界に帰るためだ。この世界での役割を果たした私は、ついに元の世界に帰ることが叶った。


 その期間、ざっと一年。長いような、あっという間だったような。でもきっと、お母さんもお父さんもあこも、他にもみんな、心配しているに違いない。多分、どこに行ってたのかとかたっぷり怒られるんだろうな。信じてくれないだろうな、異世界に行ってたなんて。


 なんにせよ、やっと帰れる! 私はやっと、元のあの平和な世界に……



「…………」



 平和な世界に、帰れたはずだった。

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