【9月30日非公開予定】異世界召喚されちゃった?
少し、昔話をしようと思う。昔、とは言っても、ほんの一年前の話……
「うわわ、遅刻遅刻!」
その日、私は、いつもの時間に寝過ごして……大慌てで、学校に行く準備をしていた。いつもは時間をかけて手入れする髪もちゃっちゃと済ませ、制服に腕を通し、どたばたと駆ける。
「お母さん、どうして起こしてくれなかったの!」
そう、リビングですか朝食の準備をしているお母さんに訴える。
「あんたももう高校生なんだから、自分のことくらい自分でしなさい」
「そうだよおねーちゃん、私より年上なんだからしっかりしてよ」
なんでもない風に、お母さんとあこはそれぞれ言葉を返してくる。あこは私より二つ下の中学生だが、すでに準備を済ませのんきに朝食中だ。
おのれ妹め……少し早く起きたからって偉そうに!
「ははは、杏、あこを見習うなんてことがないようにしないとな?」
新聞を広げ椅子に座るお父さんも、愉快そうだ。みんな、私が寝坊したのがそんなにおかしいか!
私は髪を軽く整えつつ、朝食のトーストを手にする。
「あれお姉ちゃん、もう行くの?」
「今日日直なの!」
だから、こんなに急いでるんだってば! 普段なら、慌ててもここまでどたばたすることはないよ!
なので私は、トーストを高速で食べ終え、牛乳で流し込む。登校中に食べるなんて、そんなベターで行儀の悪いことはしない。
「んっ……ぷはっ。はぁ、じゃ、行ってきます!」
「んん」
「いってらー」
牛乳を飲み干し、玄関へ。ったく、なんでこんな日に日直なのよ!
「いってらっしゃい、気を付けるのよー」
最後にお母さんの声を背に、私は家を飛び出す。食べたばかりで走るのはよくないけど、今は緊急事態だ。それに、トーストしか食べてないからお腹にもたまらない。
朝からダッシュは堪えるけど、間に合うためには仕方ない。それに、今日同じ日直の男子は、私の彼氏だ。それを思うだけでも、足取りは軽くなる。
いつもの通学路も、まるでいつもと違うような景色に感じられて……
「……え?」
……足元が光る。それが全身を包み込み、いつもの通学路は本当に違う景色へと姿を変え……やがてまばゆいばかりの白い光は、私の視界すべてを包み込んだ。
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「おぉ、本当に……」
『召喚なされた。ということはあの方が……』
『しかしまだ子供ではないか?』
……視界が光に包まれ、音もなく。次に聞こえてきたのは、なにか複数人の声。男か女か、とにかくたくさんいる。
なにが起こっているのか、確認するために、瞑っていた目をそっと開けると、そこには……
「……なに、ここ……」
さっきまで通学路を走っていたはずなのに……ここは部屋、だろうか。ううん、少なくとも私の知ってる部屋じゃない。内装的な意味だけじゃなく、広さ的な意味でも。
だって、ここには見た限り三十は人がいる。それも、私を囲うように、一定の距離を置いて。こんな大人数が入る部屋なんて、私の記憶にはどこにもない。
室内は暗い。なのに、なぜか私の視界は青白く光っている。……いや、正しくは、私の足元が光っているんだ。円状の、サークルのようなものが地面に描かれている。
なんなんだろう、この状況は。本当なら、かわいらしく悲鳴でも上げて取り乱すのが正しいのかもしれない……けど。すごいな、人って、本当に驚くと動けなくなるんだ。
「ここ、どこ……わたし、今から、学校……」
『おぉ、なにか喋っているぞ』
『しかしなんと言っているのか。誰か、言語がわかる者は?』
『心配ない、うろたえるな』
『おぉ、王子』
なんだろう、この人たちなにを言っているの? 外国語? それとも……まさかだけどこの状況ってさ……
「……そろそろ、こちらの言葉がわかるころかな?」
「えっ……あ、あれ」
先程まで意味不明だった言葉が、急に意味を持って聞こえてきた。そして、私の目の前には、一人の若い男の人が立っていた。うっわ、超イケメンじゃん。
「召喚の際、言語理解の魔法もかけておいた。これで、意思疎通が図れる」
「おぉ、さすがは王子」
目の前のイケメンは、周りの老人たちから『王子』なんて呼ばれている。そしてイケメン王子は、召喚とか魔法とか、意味不明なことを言っている。
……いや、意味が分からないわけじゃない。むしろ、この状況に対する疑問が確信に変わりつつある。
つまり、この状況は……
「あ、の……ここ、って……」
「ん、あぁすまない。キミを放って話を進めてしまった」
この、状況は……
「ボクは、ウィルドレッド・サラ・マルゴニア。このマルゴニア王国の王子であり……キミを、異世界から召喚した者だ」
「……へえ、そう、ですか」
やっぱり……ラノベとかでよく見る、異世界召喚だぁあ!?