【9月30日非公開予定】コンビネーションの差
たとえ相手が、かつて共に戦った仲間であろうと、この世界の人間は全員が私の敵だ。だから私がこうすることに、私の心は痛まない。もう、いろいろと手遅れだから。
油断も容赦も、ましてや哀れみもない……私はただ無の感情で、手を……いや、手で掴んでいた、エリシア・タニャクの顔を、握りつぶした。まるで、卵を潰すのと同じような感覚で。
手の中には、人の頭を握りつぶした、不快な感覚だけが残る。……そのはずだった。
「……幻影?」
頭を握りつぶしたはずのエリシアの体は、そこにあったのが嘘のように、透明となりその場から消滅する。さすがに、命を絶った瞬間に体が消える、なんてゲームみたいなことは起きるはずもない。
つまり、今私が殺したのは、エリシアであってエリシアでないもの……彼女の姿をした、別のものということだ。それが幻影かどうか、少し疑問もあったけど。
けど、目の前からエリシアの体が消えたことは他に説明のしようもない。転移ともちょっと違うみたいだしね。
「……アンズ……」
ほら、いた。
エリシアは、グレゴの側にいた。さっきまでここにいたエリシアが幻影で、本体はそこにいたってわけか……しかも、実体のある幻影だなんて。すっかり騙されたよ。
「本当に、私を……」
「ちぇっ、とどめを刺し損ねちゃった。残念」
さっきの金縛りみたいな魔法といい、やはりエリシアの魔法は危険だ。さっさと始末しておきたかったんだけど……
しかも今、エリシアとグレゴが一ヶ所に固まってしまったことになる。逆に、私とユーデリアも一ヶ所にいるのだが……それにしたって、あの二人を一緒にしてしまったのはちょっとまずいかな。
『剣星』であるグレゴは剣の達人、接近戦に向いている。『呪剣』を持っていても私では、剣術ではグレゴの足元にも及ばない。『呪剣』はあそこに転がってるけど。破壊しないのは、破壊した途端に下手な呪いが拡散しないことを恐れてだろうか。
『魔女』であるエリシアは魔法術師のエキスパート……もちろん一人でも戦えるが、後方のサポート役の方が彼女にとっては向いている。
つまり、前衛をグレゴ、後衛をエリシアが担当すればそれだけで、脅威度は何倍にも膨れ上がる。その上、あの二人は勇者パーティーのメンバーだった……一番厄介なのは、旅の中で培われたコンビネーションだ。
あの二人に限らず、勇者パーティーにいた六人であれば誰とでも、それこそアイコンタクト一つで次になにをすべきかが伝わる。言葉なんて必要ない。
対してこちらは……出会ったばかりのユーデリアだ。そんな相手と、コンビネーションもへったくれもあったもんじゃない。
個々の力は私はあの二人に負けない自信があるし、ユーデリアだっていい線いってる。が、そこにコンビネーションが加われば別の話だ。コンビネーションの差が、私たちの決定的な違いだ。
「すんなりうまくいくとは思わなかったけど、これは苦労しそうだね……」
周囲の兵士や魔法術師は、私たちの戦いに巻き込まれないよう、一定の距離を保っている。というか、じっとしてろってグレゴに言われてたんだけどね。
さあてどうしようか……とはいえ、このままにらみ合いを続けていてもしょうがない。時間の無駄だし、それに……
「グレゴ、大丈夫?」
「あ、あぁ……」
せっかくグレゴに与えたダメージが、エリシアの回復魔法によって回復されてしまった。やはり、ヒーラーがいるのといないのではえらい違いだ。
考えていても、なってしまったものはどうしようもない。あの二人のコンビネーションが発揮される前に潰すしかない。
「まずは……」
このまま突っ込んでも、バカの一つ覚えだ。だから私は、足下にある手頃な石を手に取る。それをバラバラに握りつぶし、細かな石粒に。
「ユーデリア、私のことを信頼してないのはわかるけど、あの二人に殺されたくないなら私に合わせて」
グレゴとエリシアの二人を相手にするだけでも骨が折れるのに、仮にそこにユーデリアまで加わればいよいよ勝ちの目はない。その可能性は低いだろうけど。
彼は、このマルゴニア王国に恨みがあるのだ。わざわざその王国の人間の味方をしてまで、私を倒そうとは思わないだろう。とはいえ、念には念を。
あの二人に対抗するためには、ユーデリアの力も必要だ。だから、細かな指示はなくていい。ただ、私に合わせてくれれば。
「せい!」
ユーデリアの返事を聞く前に、私は手の中にある石粒を、二人に向かって投げつける。本来ならば単なる石遊び……しかし、それは弾丸のごとく威力と速さを備え、二人を襲う。
「任せて!」
迫る弾丸石粒の対応……それは単純明快、エリシアが魔力障壁を張り、防ぐというものだ。いかに威力と速さが段違いでも、魔力もなにもこもっていないそれではエリシアの壁は破れない。
けど、それでいい。
「せいせいせぇええい!」
「えぇえ!?」
防がれても気にせず、私は石粒を投げ続ける。幸い、ここには岩も瓦礫もたんまりだ。武器には困らない。
そうすれば、エリシアは魔力障壁を張り続けざるをえない。つまり、今彼女は身動きがとれないということ。
「ガルルルァ!」
そこを、ユーデリアが叩く。無防備な彼女の懐に入るなど、彼なら造作もない。が……
「やらせん!」
当然、そううまくはいかない。ユーデリアの爪が届く前に、グレゴの剣がそれを防ぐ。ギィン、と固いものがぶつかり合った音が、ここまで聞こえる。
エリシアの一人狙い……それがうまくいかないことなんて、百も承知だ。さっきと戦っているペアがただ入れ替わっただけ? そう思うことだろう。
だけど、それだけで終わるはずもない。さあて……第二ラウンドの始まりだ!




