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***








グリゼダム家は代々軍人の家系。アルバンド王国を建国から支え、既に王国の将軍職を十代に渡り務めている。


将軍職は世襲ではないからその実力とてお墨付きだ。


「ダルジャン殿、儂への此度の仕打ち。儂は其方を許しませんぞ」


グリゼダム将軍の怨嗟の言葉が耳を打つ。老境に差し掛かって尚、眼光鋭く衰えを知らない鋼の肉体。俺が捨て身で挑みかかったとて、刺し違えられるかは自信がない。


フミィの指摘によって確信に変わったグリゼダム将軍と軍需産業の後ろ暗い関係。叩けば他にも埃が上がった。


議会で示した証拠の数々に誰も異議を唱える隙などなかった。


グリゼダム将軍は罷免。建国から続いた家督も断絶となった。


「許す、許さないではないのです。アルバンド王国は法治国家でございますれば」


深く、深く頭を下げたのは長きに渡り王国を支えた功労者への精一杯の敬意から。


しかしそれもグリゼダム将軍には響かなかったようで、グリゼダム将軍は憤怒に燃える瞳を俺に向けたまま兵に引っ立てられて退出した。


バタン。


「ヒュ~」


両開きの扉が兵の手によって重々しく閉められた。それと同時に高らかに口笛を鳴らしたのは陛下。


ジトリと陛下に睨みを利かせたとて、陛下はどこ吹く風。


「いやぁダルジャン、全くお前たちはいいコンビだ」


ここで言うコンビとは俺とフミィの事に違いない。


グリゼダム将軍の偉功は既に過去の物。グリゼダム将軍は今ではアルバンド王国の癌だ。


「…俺一人ではここまでの証拠を上げられたかどうか。正直、今回の一件はフミィの手腕に寄るところです」


陛下とて分かっていよう。事実、長きに渡り疑惑は疑惑のままにグリゼダム将軍を野放しにせざるを得なかったのだ。


「ふぅん。では、フミィに何か褒美を取らせるか?」


俺は陛下の提案に即座に首を横に振る。


「いいえ。フミィはあくまで政務室の雑用係。周囲においては掃除婦くらいの認識で良いのです」


フミィにこれ以上無い安全な職を斡旋した気でいた。しかしフミィの能力は俺の予想のはるか上を行き、想定する範疇にまるで納まってくれない。


これでは俺が何より願うフミィの安全が脅かされやしないか。フミィを陛下に引き合わせた事は果たして正しかったのだろうか。俺の不安は日に日に積もる。まるで俺のフミィへの愛しい想いと比例するように。








「フミィ? 待たせてしまったな? ……フミィ?」


グリゼダム将軍を罷免して三日目、宰相としての処理案件に加えグリゼダム将軍罷免の事後処理を怒涛の勢いになんとか熟し、フミィを迎えに陛下の政務室に辿り着いたのは西日が沈みきる前だった。


ところが、いつもなら直ぐに返るフミィの返事は無い。手洗いにでも行ったか?


陛下は今夜、会食会の予定だ。だから今の時分、陛下は身支度の為に自室へと下がっている。


婦女子の事情を詮索など出来ない。続きの手洗い場を気にしつつ、はやる心をなんとか抑える。しかし待てど暮らせどフミィは戻らない。


おかしい!!


「フミィ!? フミィ居ないのか!?」


政務室と続きの手洗い場、その扉を叩けど返答はない。しかしガタガタと扉の取手を引けば、中から鍵が掛かっている。


「入るぞ!!」


渾身の力で体当たりを食らわした。そうすればガキンと不快な音で鍵は壊れて扉は開いた。


「フミィ!?」


しかし手洗い場はもぬけの殻。


「フミィッ!!」


俺の叫びはむなしく狭い手洗い場に反響した。








◇◇◇








雑用係の仕事はいつもダルジャンのお迎えでもって終業。この日陛下は会食会の予定だとかで、まだ日も高い内から早々に政務室を後にした。それはもう、山と積まれた裁決案件を華麗にスルーして。


「おっそいなー」


いつもならボチボチお迎えがあってもいい時刻。どうやらダルジャンは忙しいらしい。


そりゃそうだよね。一国の宰相閣下が毎日公務員の定時上がりって、そっちの方がよっぽど胡散臭い。


「まぁここんとこはずっとそんな胡散臭い働き方だったわけだけどさ」


ふへぇ、疲れたぁ~。


何故ってそりゃー、陛下が働かないように働かないようにってバックレてばかりだからだ。で、私は所詮小庶民。これがまた、ついつい働かない人の分まで働いちゃう性分なわけだ。


ま、それはそれ。


読みかけの資料を閉じて、デスクを手早く整える。席を立ってバルコニーに面した大きなガラス窓から眼下を覗く。


流石にここは陛下の政務室だけあって見下ろす景色景観が素晴らしい。


「あ、トイレいっとこ。トイレ~」


ここのトイレは水洗トイレ。ただし、レバーを引けば水が流れてゴゴゴゴッて吸い込まれていく現代のトイレと同じではない。


ポンプで水を押し出して流れては行くんだけど、吸い込まれない。要はあれだ、古代ローマの水洗トイレあれと同じ。各トイレの腰掛け型の便器の下は下水道。この下水道は最終的には城下の公衆トイレにまで直結してる。ちなみにこの下水道、人ひとり通れちゃうんじゃないかって直径。


だもんで、現代日本人の感覚としてはトイレがどーも、セキュリティ対策追いついていない気がしてる。だってトイレって、個室空間かつ王様だって最も無防備になっちゃう、そういう場所。


ま、汚物まみれの誘拐劇なんてそうそうあっちゃたまんないか。


トイレの扉をガチャリと開けた。


瞬間、ものすごい異臭の人物に羽交い絞めにされた。


「ッッ!」


ぎりぎりと首を締めあげられれば、息、息出来ないっ!


犯人の腕にぎりぎりと気道が圧迫される。


やっぱりじゃん!!


そりゃそうだよ!外部からの侵入容易いっしょコレ!


霞みゆく思考の隅に思う。


しかし悲しいかな、内心でどんなに悪態を吐いたってもう後の祭り。たとえ口にできたって私の悪態を拾うのは犯人だけ。そもそもこの状況じゃ悲鳴のひとつも上がらない、意識がもうろうと沈む。


ううぅぅ。


う○こまみれ確定ーー。


でもひとつ、パンツ下ろす前で良かったかも。


これでもって思考は完全に闇に沈んだ。




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