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カケラのお話し☆ジャガイモの味噌汁の真実




「ふむ、こんなものだろう」


味噌がとけたのを確認すると、味噌汁が沸騰する前にかまどから鍋を上げた。


かまどの薪はいまだ火力を保っている。


「薪の追加もいらなそうだな」


俺は味噌汁の鍋に替え、卵を落としたフライパンを火にかけた。


朝食はジャガイモの味噌汁と目玉焼きだ。


目玉焼きが焼ける様子を注意深く見守る。


……フミィの好みは固めの両面焼き。そろそろ返し時か。


ヘラで目玉焼きをひっくり返す。


こんがりとした焼き色に自然と口角が上がった。




俺の日常はフミィが現れて、180度変わった。


そしてフミィを妻に迎えた今は、毎日が別物のようにキラキラと輝いている。


「よし」


昆布だしの上品な香りが立ち昇る味噌汁、香ばしく焼き上がった目玉焼き、朝食も輝くばかりの出来栄えだ。


「ダルジャンおはよう。いい香りだね」



ちょうど食卓に並べ終えたタイミングで、艶めかしい寝間着姿のフミィが食堂に降りて来た。


ちなみにフミィの寝間着はいまだ俺のシャツだ。


婦人用の夜着を購入せずにいるのは、当然フミィの遠慮だけが理由ではない。フミィは考えもしないだろうが、多分に俺のエゴが混じっている。


俺のシャツを羽織ったフミィは、この上もなく可愛らしい。そんなフミィを眺められるのは僥倖。それをみすみす手放すなど出来る訳がないのだ。


「おはようフミィ。ちょうど朝食が出来たところだ」


女神の如く眩いフミィの姿に鼓動が高鳴る。


つい数刻前まで、俺は女神をこの手に抱いていた。けれど本当に女神は俺のものなのか、再び抱き締めて確かめたい、そんな衝動が湧き上がる。


俺はいつもフミィを前に、尽きず湧き上がる情愛を抑えつけるのに必死だ。


「ごめん、今朝もダルジャンに朝ごはんの用意させちゃったね」


フミィの表情が、僅かに陰りを帯びる。


昨夜も愛しいフミィを前にどうしても自制が利かず、やっとフミィを解放出来たのは空が白み始めてからだった。


フミィが朝起きられぬのも当然というもの。


「何を言う、朝食は俺が作りたいんだ。だから俺に作らせてくれ。フミィはいつまででもゆっくり休んでいてくれ」


なんらフミィが気に病む必要はないのだ。


「もうダルジャン、それじゃものぐさフミィに付け込まれちゃうってば」


ものぐさフミィ? それはどれほど可愛いフミィなのだろう?


俺はフミィが見せるありとあらゆる表情が愛おしい。ものぐさフミィもきっと、卒倒せんばかりに可愛らしいのだろう。


「フミィ、その調子でどんどん付け込んでくれたら俺は嬉しい。俺はもっともっと、フミィにしてやりたい」


フミィのカップにミルクを注ぎ、フミィのパンにバターを塗る。


そしてフミィの手にナイフとフォークを握らせた。


「だめだこりゃ……でもまぁ、いっか! よしダルジャン、せっかくだから温かい内にいただきます!」


「あぁフミィ、おかわりもあるからな」


フミィととる至福の朝食は終始、笑顔が絶えない。








渋るフミィを食堂に残して厨房に舞い戻り、手早く食器洗いを済ませる。


「ほんとに出来過ぎた旦那さまなんだから。でもダルジャン、夕飯は私が作るからね! ダルジャンの好物を作るから、だから手ぇ出しちゃやだからね?」


紅茶を手に戻った俺に、フミィがわざと頬を膨らませて、またしても可愛い事を言う。


「夕食に俺の好物を作ってくれるのか? それは楽しみだ」


フミィが作る全てが俺の好物だ。いや、フミィととる食事の全てが好物と言っていい。


故に俺の食卓はいつだって好物に溢れている。


「ねぇそう言えばダルジャン、ダルジャンの作る味噌汁の具ってジャガイモが多いよね?」


そんなのは当たり前だ。


妻の好物の登場頻度が多いのは当然の事。


「私も嫌いではないし、割と好きだけど、味噌汁の具材としてはマイナーな部類だよね~」


!?


嫌いではない!? 割と好き!?


……こ、好物ではなかったのか?? 


「……コホン。ちなみにフミィは何の味噌汁が好きなんだ?」


なんとか取り繕ってはいるが、いつ卒倒してもいいほどに内心は動揺していた。


「え? ……けんちん汁とかとん汁とかが好きだったかな。あ、ちなみにどっちもある物なんでも入れちゃう系の味噌汁ね」


!!


……ジャガイモの味噌汁は、なんとフミィの好物ではなかった……。


「う~ん、だけどそっか。本当は好きとは違ったのかも。私、結構忙しく働いてたから一品でいっぱいの野菜がとれて勝手が良かっただけか……」


衝撃の事実に打ち震えた。目の前が灰色に染まる。


俺は、とんだ阿呆だ!


よくよく考えてみればジャガイモの味噌汁は病み上がりのフミィが望んだり、寝言で呟いたり、要所要所で登場していただけ。


フミィの口から好物だと聞かされた事は、一度もなかった。


「ねぇダルジャン、前言撤回。やっぱり私、今はジャガイモの味噌汁が好き」



しかし、続くフミィの言葉は俺に更なる衝撃を与えた。


「フ、フミィ?」


灰色だった目の前が、一気に晴れる。どころか、キラキラと眩いばかりに光輝く。


「ダルジャンの好物のジャガイモの味噌汁が、今は私も好き。だけどジャガイモの味噌汁だけじゃなくて、ダルジャンと食べる全てが物凄く美味しいの」


フミィの中でジャガイモの味噌汁は俺の好物と認識されていたらしい。


けれど俺とて、それに否やを唱える気など更々無い。


何故なら、俺にとっても、フミィと啜るジャガイモの味噌汁は好物に違いないのだから。


そして俺も、フミィととる食事が全て別物のように美味い。


「フミィ、俺も同じだ。フミィとの食事、全てが美味い」


「ダルジャン」


俺を見上げ、微笑むフミィ。


俺も微笑んでフミィの肩をそっと、抱き寄せる。


この瞬間の、至福。


「……だがフミィ、明日はなんでも入れちゃう系の味噌汁を作ろう」


「うん!」


しかし、この瞬間の至福はこの先も毎日続く。フミィと共にある限り、俺の至福に終わりはない。




そして我が家の幸福な朝にはこれからも、味噌汁の香りが漂う。





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