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プロローグ
東の方角から空が白み始める。間もなくの夜明けが憎らしい。
夜明けなど来なければ、いつまでだって愛しいフミィをこの腕に抱いていられるというのに。
俺の腕を枕にし、すやすやと寝息を立てる愛しき我が妻。
その頭をサラリと撫でれば、艶やかな黒髪はスルリと指の隙間を滑る。その感触が嬉しくて、艶々の黒髪を何度も何度も指で梳く。
起きていれば文句のひとつも言われるが、フミィは幸せそうに未だ夢の世界。
あぁ、願わくばこの幸福な時間が少しでも長く続いて欲しい。
フミィが俺の全て。もう手放してなんてやれない。俺は生涯フミィの愛を乞う僕になれる。
フミィ、フミィは紛う事無き俺の至宝……。
「……むにゃむにゃ、ジャガイモの味噌汁……じゅるり」
「! そうか、分かった。朝食はジャガイモの味噌汁にしよう」
フミィの望みとあらば、俺は喜び勇んで温かな敷布も後にする。
明けぬ夜を望みもしたが、フミィがジャガイモの味噌汁を望むというのなら、俺に異存などあろうはずもない。
愛しい妻の額にひとつキスを落とすと、俺は味噌汁の準備をするべく一人寝台を後にした。