6.ネコミミ娘のデート
聖騎士はネコミミ娘のお姉様になりました。
第二章
「なぁ、おい」
「なんなのです?」
「いつまでこうしているつもりだ?」
エナの抗議は今朝から数えて四回目だ。
「何と申されましても、お姉様と浜辺をロマンチックにお散歩してるのですとしか」
エナとフィリアの決闘から丸一日。
一昼夜、延々と抱きつき続けられ、ようやく外に出たと思えば、まるで恋人同士のように腕を組み、湖畔の水辺を歩き続けるばかり。。
「その割に、お前の尻尾は湖の中に突っ込まれたままだぞ?」
「やだぁ、お姉様ったら、フィリア、恥ずかしいのです」
「誤魔化すな!」
「んもう、怒るお姉様も、ス・テ・キ、なのです」
「殴っていいか?」
「本気ですのに……」とフィリアは唇を尖らせる。
「お仕事で、遺跡を探しているですよ」
「遺跡? まさか、お前がここに来たのは、単独でルーン遺跡を探す為だったのか!?」
「その通りなのです。フィリアはお義父様の命令で、この場所の探索に来たのです」
平然と答えるフィリアに、エナは驚きを隠せない。
「信じられん……聖騎士ギルドでさえ、発掘調査には大編隊を組むというのに」
「フィリアには大人数で押し寄せることの方が不思議なのです。ここに遺跡があるぞアピールしたら、奪い合いになるのは当然なのです」
「む、確かに」
確かに、単独で動く外道に対し、組織として動いている聖騎士とでは事情も大きく異なるところだ。
「考えてみれば、私はお前達外道のことをほとんど知らないな」
「これから知ってくれればいいのですよ。と言っても、フィリア達も魔法を使うただの人間なのですけど」
「に、人間、なのか?」
思わず目を丸くしてしまうエナ。
ネコミミに猫の尻尾を付けた、目の前の少女を見ていると、とても信じられない。
エナの反応に、フィリアは珍しく不満そうに頬を膨らませる。
「お姉様、まるでフィリアが木の根っこから生まれたみたいに思っていたのですか?」
「いや、そういう訳ではないのだが、すまん」
「謝らないで欲しいのです、お姉様。良いのですよ、フィリアは言い方によっては、橋の下ですので」
「どういことか、聞いても良いか?」
「フィリアは子供の頃、両親を殺されています。荒野で一人死にかかっていたところを、お義父様に拾われたのです」
「そうなのか……」
「もっとも、外道のお義父様なので、人里から誘拐してきて別の記憶を埋め込んだ可能性も全く否定できないのですけど」
「そ、そうか……」
フィリアの目つきが一瞬侮蔑に満ちたものになっており、エナは頬を引きつらせる。
「いろいろ、あるんだな。外道にも」
「あるのです。でも、フィリアはきっと、お姉様と出会う為に、外道になっていたに違い無いのです」
「出来れば普通の人間の娘でいてほしかったがな……まぁ、それは無理な話か」
「フィリアはお姉様のお話も聞かせて欲しいのです」
「私も大差ないな。両親を失い、孤児院に預けられ、今の聖騎士長と出会った。聖騎士長は私の魔法の際を見いだし、私を養女として、聖騎士として育てて下さったのだ」
「お姉様も孤児なのですか……では、フィリアは聖騎士長さんにご挨拶に行けば良いのですか?」
「何の挨拶をするつもりだ」
「婚姻のです」
「聖騎士ギルドの本拠地に外道が婚姻の挨拶か。笑えない冗談だ」
「フィリアは本気ですのに……」
そう言って口を尖らせる聖騎士の怨敵。
外道に……というか、このネコミミ娘には、常識が通じないのはもう理解したが。
世界の設定は基本的に会話の中に混ざり込みます。