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5.聖騎士の意地

珍しくシリアスに

「覚悟してくださいです、お姉様! 本気のフィリアは、ちょー強いのです!」

「それは、私の魔法を受けきってからいう台詞だ」


 エナは改めて魔法に集中し、途切れかけていた炎に勢いを戻す。


 対して、フィリアは九本の尻尾を自分の周囲に展開し、魔法の発動に備える。


 猛る炎の余波で湖面が波打ち、木々が揺れる。


「いくぞっ!!」

「お姉様の愛、しっかりと受け止めるのです!」

「フレア・ジャッジメント!!」


 魔法の言葉と同時に、エナの足下が爆発。


 炎の矢となったエナの身体が、フィリアに向かって突進する。


「食い止めるのです!!」


 フィリア、九本の尻尾を蜘蛛の巣の様に展開するが、エナの炎が一瞬で焼き尽す。


「もらった!!」

「まだまだ、なのです!!」


 フィリアのお尻から無数の尻尾が出現し、円形の巨大な盾となってエナの前に立ちふさがる。


「無駄だ! この全てを焼き尽くす炎、お前の尻尾では止められない!」


 エナは構わず尻尾の盾に突進し、白く輝く剣が尻尾が盾を貫く。


 その瞬間、真っ白な爆煙が巻き起こり、二人の姿を覆い隠してしまう。


「なにっ!?」


 想定していなかった現象。


 視界が一瞬にして奪われてしまう。


(煙幕!? このタイミングで!?)


 剣からは確かに刺し貫いた感触が伝わっている。


 しかし、伸縮自在のフィリアの尻尾なのだから、剣の感触は信用出来ない。


「フィリアの勝ちです、お姉様」

「なん、だと?」


 フィリアの声にダメージを受けた気配はない。


 つまり、エナに使える最大の攻撃魔法は、防がれたと言うことだ。


(ここまでか……)


 エナが観念するのと同時に、フィリアの尻尾がエナの手足に巻き付く。


 徐々に白煙が晴れて、状況が見えてくる。


「水滴?」


 まず、エナの目に映ったのは、水を被ったように濡れている自分の両腕。見れば、衣服も全て湿りを帯びて身体に吸い付いている。


「……答えろ。いったい、どんな魔法を使った?」

「いつも通り、尻尾の魔法だけなのです。ただし、湖の水をいっぱい使ったのですけど」

「湖、だと?」


 見れば、湖の水位が大きく下がり、中の水草がむき出しになっている。


 そして、フィリアの尻尾の一本が、湖の中に伸びていた。


「綿が水を吸い上げるかの如く、お前の尻尾は湖の水をたっぷり染み込ませ、私の業火を打ち消した、ということか?」

「大正解なのです。正直に言って、相当危なかったです。もっと小さな湖だったら、フィリアは遠慮無く逃げていたのです」


 エナは苦渋の表情を浮かべる。


 魔法で動く尻尾の使い方だけでなく、特性と能力を熟知していなければ出来ない芸当。


 この勝負を受けた時点で、フィリアは勝利の算段をつけていたのだ。


「……本当に、デタラメな尻尾だ」

「同意するのです。文句はネコミミ少女に改造したお義父様までどうぞなのですよ」

「目の前にいたら小一時間説教してやる」

「是非お願いするのです。でも、今は――」


 フィリアの尻尾がエナの剣を奪いとる。


 エナは、もう抵抗しなかった。


「フィリアの勝ちなのですーっ!!」


 玩具を手に入れた少女の様に、フィリアはエナに抱きつき押し倒し、嬉しそうに全身をこすりつける。


「ああ、聖騎士に二言はない。私はお前の軍門に下ろう」


 エナは敢えて無抵抗を貫く構えだ。


「軍門だなんてそんな。ただフィリアのお姉様になって頂けるだけで幸せなのですよ」


 すりすりすりすり。


「……で、何故身体を擦り付ける?」

「臭い付けですよ? お姉様はフィリアのだっていう証明なのです」


 すりすりすりすり。


「妙なところで猫だな……」


 エナはフィリアの身体の温もりを感じながら瞳を閉じる。


 温もりは、普通の人間と何ら変わりは無かった。



聖騎士は外道に捕まってしまった

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