表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/35

聖騎士は外道と生きていく

少々投稿に間が開きました。

このお話で完結です。

エピローグ


 窓から朝日がロッジの中を照らす。


 ベッドで安らかな寝息をたてていた少女は、光に誘われるように瞳を開き、


「……何をしている?」


 枕元に忍び寄っていた人影に冷淡な視線を向ける。


「……お目覚めのキッスを」


 愛想笑いで誤魔化そうとする相手に、大きなため息を一つ。


 やることはいつもと変わらない。


 その日、七日連続になる微弱な地震が、山の木々と凪いだ湖の水面を揺らした。



「お姉様ひどいのです、つれないのです、どめすてっくバイオレンスなのです」


 フィリアは頭にタンコブに負けないくらい、ほっぺたを膨らませる。


「だったら少しは懲りろ。何回繰り返す気だ」

「お姉様の唇を奪うまでです!!」


 当然と胸を張るフィリアに、ベッドであぐらを掻き、腕組みをして不機嫌さを隠そうともしないエナが、大きくため息をつく。


「……もうとっくに奪っているだろ。本当に不本意だが」

「夜這いで奪わないと、何回キスしてもノーカンなのですよ?」

「そんな理屈は初めて聞いた」

「ぅるさいわね、もうちょっと静かに朝を迎えられないの?」


 と、エナの後ろからモゾモゾと顔を出す赤毛の幼女。


「カノンが朝寝坊過ぎるのですよ」


 勝ち誇ったように鼻を鳴らすフィリアに、エナは軽い拳骨を一発。


「殴られる意味が分からないのです! 早寝早起きは三文の得なのですよ!?」

「あんたが早過ぎんのよ。だいたい、朝日が昇る前から朝食の準備とか、甲斐甲斐しいにも程があるわ」


 カノンは大きな欠伸をしながら、身体のあちこちをのばし始める。


「にしても、まだまだ、この身体には慣れそうもないわ」

「新しい余生を過ごせる時点で感謝してほしいものなのです」

「あんたが勝手に”この身体に“入れたんじゃない!!」

「ちっちっち、入れたんじゃなくて、たまたま、入っちゃったのです」

「そんな都合のいい偶然があるもんですか!」


 朝から元気に口げんかを始める二人を前に、エナは面倒そうに頭を抱える。


「私も未だに信じられない。まさか私が意識を失っている状態で、収集した魔力を使わせて、霊体に身体を与えたなんて」

「魔族の使う魔法にも、使い魔を召還するっていうのはあったわ。もっとも、たまたま近くにいた霊体を触媒に新しい人間を生み出した、なんて話は聞いたことも無いけれど」


 と、カノンは非難の視線をフィリアに向けるが、 


「誉め讃えて結構なのですよ!」


 自慢げに胸を張られるばかりで効果無し。



 一週間前。


 尻尾の繭の中で、フィリアは再びエナと魂のリンクを行い、魔法を使った。


 魔族から始まる長い魔法の歴史の中で存在しなかった、子供を生み出す魔法。


 肉体の情報は、エナの”子宮の中“から引き出し、変化のルーンを応用して、魔法の人形を生み出す。さらに、カノンという意志をもった霊体を入れて、意志を持って動く”人間の子供“の出来上がり。


 全てが終わった後、フィリアは一言。


「今日からカノンは、お姉様とフィリアの娘なのです」


 エナとカノン、揃って開いた口を塞げなかったのは言うまでもない。



「さあさ、お姉様、悩んでいる暇はないのですよ。村人の皆さんが待っているのです。今日は治水工事のお手伝いなのですから」


 フィリアはいつも通り尻尾を駆使し、テーブルにパンにサラダ、程良く温められたミルク、焼きベーコンに目玉焼きと次々に運ぶ。


 エナはどこか達観した表情でテーブルにつき、カノンはパンを不満げ気に頬張る。


 麓の村では「聖騎士様と猫神様が神の子をお産みになった」ともっぱら評判となり、フィリアともども、エナとカノンも生き神扱いの仲間入り。


 供物の返礼は、魔法を駆使しての開墾で、麓の村は次第に豊かになりつつある。


「……どうして、こうなった……」


 呟いてみても、何も解決しない。


 分かっているのだが、この一週間、エナがこの言葉を呟かない日は無かった。


「お姉様、どうかしたのですか?」


 目の前では、自分一人だけ納得のハッピーエンドを迎えた外道が、上機嫌に笑っている。


「……何でもない」


 自分の浮かべる笑みは、苦笑いなのか、それとも……。


 エナは答えのでない自問自答を繰り返しながら、温かなミルクに口を付けた。



約一月の間、お付き合い頂き感謝致します。


感想など頂けると幸いです。

続編の準備はございません。

別ネタを仕込んでおりますので、また一読頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ