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30.最後のトラブルの解決策

ネコミミ娘は賭に勝ったようです


「きたっ!!」


 カノンが会心の笑みを浮かべたのは、キスをしたまま硬直しているエナの身体の紋様が消え始めたからだ。これは乱雑に刻まれたルーン文字を正しい形に刻み直すフィリアの作戦が、成功したことを意味している。


「お願いだから、成功してよ……」


 ここからも一か八かの賭だ。


 カノンは祈るように組んだ両手にさらに力を込め、砲撃中止を念じる。


 魔力のエネルギー体になったエナとフィリアは、言ってみればヒエロやカノン達と同じ、霊体の状態。


 この魔力に変換される僅かな時間に、エナに刻まれたルーンをフィリアが持つ変化のルーンで組み直す、というのがここまでの賭け。


 ここからは、霊体の状態で魔力変換をされかかった二人が、無事に肉体に戻れるか、という賭け。


 どちらも前例が無い、大博打。


「戻ってきなさいよ、フィリア……あんたならきっと、どんな無茶でも自分の欲望だけでぶっ飛ばせるでしょ!!」


 カノンが胸の前で組んでいた手を解き、左右に開く。


 目映く輝いていた二人の身体から、少しずつ光が収まり、やがて何事もなかったかの様に、静かに口付けを交わすエナとフィリアの姿が露わとなる。


「……ぷっはぁ!!」


 フィリアが先に唇を放し、大きく息を吸い込む。


「ふぅ~、堪能させていただいたのです」


 フィリアは満足そうに額の汗を拭いつつ、晴れやかな笑顔で尻尾の拘束を解除すると、意識を失い前のめりに倒れるエナを、しっかりと抱き止めた。


「どうやら、賭には勝ったみたいね」

「当然なのです。フィリアを誰だと思ってやがるのですか」

「変態ネコミミ娘」

「その通りなのです」

「認めんのね」

「もちろん、なのです。フィリアは外道なのですから」

「人間の欲望は底が知れないわ」


 苦笑いを浮かべるカノン。


「あたしたち魔族より、あんたら人間の方がよっぽど質が悪いわ。ほら」


 周囲には、少しずつ衛兵達が包囲網を狭めてきている。


 彼らにとっては、エナは大量殺人を犯した犯罪人。外道のフィリアは討伐するべき悪。何が起こったのか理解できなくとも、己の職務を全うするチャンスは逃さないらしい。


「ふん、フィリアとお姉様の仲を邪魔する連中なんて、馬に蹴られて死んじゃえばいいのです」


 フィリアの尻尾が大きく展開し、威嚇するように蠢く。


「ちょ、ちょっと待って、フィリア!」


 カノンの声はひどく狼狽している。


「集束のルーンが止まってないわ!!」

「なのです!?」


 見れば、エナの身体からは、僅かな黒い霧がわき出ている。


 これまでの凶悪な動きはせず、風に揺らめくほど僅かな量だが、間近にいるフィリアとカノンは収集対象になってしまう。


「あんたちゃんとルーンの組み替えたんでしょうね!?」

「当たり前なのです! デタラメだったルーンを配置し直して燃費を良くしたですし、永続持続の魔法ではなくて、任意で発動する条件に変化させたのです!」

「つまり、この収集が継続しているのは、最後に使用していた魔法の残り香ってことなのかしら?」

「冷静に分析してる暇無いのです! これじゃ、お姉様は歩く死に神のままなのです!」

「仕方ないでしょ! 彼女が意識を取り戻して、自分の意志で魔法を止めるしか方法はないわ! ああ、もう! せめて最後に使っていたのが、集束の魔法じゃなかったら……」

「どういうことなのです?」

「基本的に、魔法は一度に一種類しか使えないのよ。だから、集束の魔法が発動する余裕がないような、たとえば召還の魔法なんて使ってくれてたら、集束のルーンは発動しなかったかもしれないわ」

「一種類……召還魔法……お姉様……と、フィリアの……」

「もっとも、たらればの話なんてこの状況じゃ無意味だわ。トリガーをもう一度使って、リンクして魔法を止める手はあるけど、完全に無防備になるから今発動するのは自殺行為だし……って、ちょっとフィリア、聞いているの?」

「…………にへっ」


 エナの寝顔を一心に見つめていたかと思えば、フィリアは突然破顔した。


「……カノン。ナイスアドバイスなのです」

「あ、あんた、何か良からぬことを企んだわね!?」

「当然なのです。フィリアは外道なのですから!!」


 何をするつもりか問いただす間もなく、フィリアの尻尾が無数に広がり、まるで成虫になる前の繭のように、カノンとエナを包み込む。


「フィリアは、自分の欲望に忠実になるだけなのですよ!!!」


 巨大な繭を前に狼狽する衛兵達を余所に、フィリアの声は、さも楽しそうだった。



ネコミミ娘は自分一人だけハッピーエンドなら良いようです

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