29.魔道者の行く末
お姉様、無双中
「フリズーッ!!!」
どうにか助けようという一心で、ウィドが竜巻の魔法を生み出す。
竜巻の風を、逆回転の竜巻で相殺できれば、あるいは炎を止められるかもしれない。
だが、この反撃を待ち望んでいたエナは、愉しそうに嗤いながら巨大な火球を、ウィドの竜巻にぶつける。
その瞬間、二つ目の炎の渦が発生し、一つ目の炎の渦とぶつかる。
結果、まるで天にも届きそうな巨大な炎の竜巻が完成した。
「な、なんだ、この巨大な炎の魔法は!?」
「俺の魔法が利用されッ――ぐわあああ!!」
ブレイとウィドは城よりも巨大な紅蓮の炎の中に消えた。
「そ、そんな……聖騎士様が……あっさり……」
衛兵達の心の支えでもあった聖騎士のトップスリー。
目の前で繰り広げられた、あまりにも一方的な攻防は、彼らの心を折るのに十分だった。
「うわああああっ!!!」
「助けてくれえええっ!!」
「死にたくないいいっ!!!」
逃げまどう兵士たち。
しかし、巨大な業火は、まるで意志があるかのように兵士達を追いかけ、次々に飲み込んでいく。
「あっはっはっは!! これは素晴らしい!! 炎の渦は重ねることで、さらに威力を増幅するとは、予想外ですよ! どこまで膨れあがるか、是非試さなくては!」
「止めなさい、エナ!!」
鋭く制止する声に、エナは狂気じみた笑顔を向ける。
「……何故止めるのですか、聖騎士長」
「私は貴方に期待をしていました。全ての魔法を使う、最強の聖騎士になれるのでは、と。しかし、それは間違いだった。期待という重圧は、貴方を苦しめていたのですね」
わが子を迎える父の様に、パラノはゆっくりと両手を広げる。
「ですが、今ならまだ間に合います。貴方の力は正義のためにあるのです。正義無き力は、ただの暴力に成り下がるのですよ」
「……正義、か」
エナの表情から、悪魔のような笑みが消える。
魔力の供給が終わったからか、巨大な炎の渦はゆっくりと消えていき、周囲には瀕死の聖騎士と衛兵で溢れかえっている。
時間にすれば、僅か数分の攻防。
この短時間に、エナは選りすぐりの戦士達を、ほぼ全滅させていた。
残されているのは、パラノの周辺の衛兵のみ。
「ご覧なさい、傷つき倒れた彼らの姿を。これが貴方が力に溺れてしまった結果です」
パラノは絶えず微笑みを浮かべている。
優しい父親が、娘を諭すときのように。
「ですが、貴方は治癒魔法が使える。まだやり直せるのです。さあエナ、貴方の魔法で、みんなの傷を癒してあげなさい」
育ての父への返答は、
「はぁ……」という、感情すら感じさせない、乾いたため息だった。
「まだ理解していないのですね、父上。私は魔道者だ。人間を滅ぼす力を持つ者。即ち、私こそが、魔王ということだ!!!」
エナの宣言と同時に、膨大な規模の黒い霧が吹き出す。
その姿は、人を滅ぼすと宣言した、まさに魔王と呼ばれる姿だった。
魔王宣言入りました。