28.魔道者の力
無詠唱なのは、属性のルーンを刻んでいる為です。
「ああ、これは飲み応えがありそうだ」
凶悪な笑みを浮かべるエナの周囲から暗闇の霧が溢れ、魔法と衝突する。
「バッ、バカなっ!?」
目の前の光景が信じられず、ブレイは声を上げてしまう。
暗闇の霧は、まるで獲物を丸飲みにする蛇の様に火の玉を丸飲みに、底なし沼のように氷柱を沈み込ませ、竜巻は巻き付くように吸収された。
当然、エナは何事もなかったかのように笑みを浮かべたまま。
「ああ、いいですね。これは素晴らしい。さすが最上位魔法だ。身体の中に魔力が満たされましたよ」
「こ、この化け物め!!」
「魔法がダメなら、剣で倒すまでだ!!」
フリズとウィドが抜刀したのを合図に、他の聖騎士、兵士、全員が武器を構え、エナに向けて突撃を開始する。
「おやおや、気の早いことだ。私はまだ、魔法の返礼をしていないというのに」
エナは凶悪な笑みを浮かべたまま、右手から炎、左手からつむじ風を生み出す。
「バカな!? 二発目の魔法を!? しかも、二つの魔法を同時に使用できるというのですか!?」
一番驚いたのは、パラノだった。
「だから、言ったでしょう? 私は、魔法の神髄を極めたのですよ」
エナは満足そうに笑う。
今のパラノの顔が、見たかったのだ。
一人一種類が限界である魔法の、一度に一種類が限界の魔法のセオリーを破る、自分の姿を見せることで。
「怯むな! 何度魔法が使えるようになろうと、所詮シングルヒッターに毛が生えただけのこと! 恐れる必要など何もない!!」
ブレイの号令で、兵士達の突撃は止まらない。
「ああ、なんと嘆かわしいことだ。風と炎が同時に使えるということは、先輩方の知らない魔法が、生み出されているということなのに」
「戯れ言を!! 貴様程度の魔法など、恐れるに足らぬ!!」
「知っていますか、先輩方。激しい炎は、ある一定条件の風に当たることで、炎の渦となり、さらに猛り狂うことを」
エナが右手を前方に掲げると、炎が巨大な火球に変化する。
それは先ほどブレイが放った火球と、同等かそれ以上だ。
続けて、エナは左手を下から上へと振り上げる。
今度は先ほどウィドが放ったような竜巻が巻き起こり、火球とぶつかる。
その瞬間、竜巻は巨大な炎の渦へとその姿を変え、兵士達へと迫る。
「う、うわああああっ!!!」
断末魔の悲鳴は、先頭を切っていた兵士のもの。
彼は竜巻に巻き込まれ、逃げようのない空中で業火を浴び続ける。
逃げ惑う兵士達を次々に飲み込む炎の竜巻は、まさに地獄絵図を再現していた。
「この程度の火炎魔法など、私の氷雪魔法でかき消すまでです!!」
フリズの掲げた両手から吹雪が放たれる。
並の炎なら、相殺することは出来ただろう。
しかし、炎の渦は若干速度を緩めただけで、まるで勢いを衰えさせない。
「くっ、ぐっ!!」
フリズが歯を食いしばり、どうにか拮抗させようと魔法を強める。
「さすが、フリズ先輩ですね。では、これはどうします?」
と、エナは今度は氷魔法と風魔法を同時につかい、無数の氷の刃を宿した竜巻を作り上げ、フリズに向けて放つ。
「まさか!? こんなに早く次の魔法を放てるはずがっ――」
フリズの顔に恐怖が浮かぶ。
吹雪の魔法で炎は相殺出来ても、竜巻の風は止められない。
彼女が最後に見たのは、エナの狂気に染まった、悪魔のような笑顔だった。
「あああああああっ!!!」
氷刃の竜巻に飲まれ、フリズは全身を切り刻まれ、天高く放り出され、肩口から地面に激突する。
「ぐ、うっ……」
一命だけは取り留めた。
激痛に意識をとばされそうになりながら、どうにか身体を起こそうとするフリズを、今度は炎の渦が飲み込む。
「ッッ!!!!!」
もはや、悲鳴を上げることもなく、フリズの美しい肉体は炎の中に飲み込まれた。
常にオートドレインしてたら無敵だと思いませんか?