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28.正義の在処

もうお姉様は止まらないようです


「困ったな。町中は自然よりも生命の種類が少ない所為か、どうしても人から魔力を集めてしまうようだ。分かっていたとは言え、少々心が痛むな」


 町の中心部へと向かうエナ。


 しかし、既に騒ぎの中心でもあった。


 エナが歩いた道では、次々と人が倒れ、まさに死屍累々の光景が広がっている。


 これでは、何が起きているかは分からないまでも、エナが原因であることは明白。


 エナが城へと続く城門前にたどり着く頃には、膨大な数の聖騎士と衛兵が、鉄壁の布陣でエナを待ちかまえていた。


「止まれ、エナ・リーベント!!」


 口上をあげたのは、聖騎士の中でもトップランクの一人、ブレイ・エンガー。


 他にも氷の聖騎士フリズ・アイスベルトや、風の聖騎士ウィド・リッダーと、聖騎士ギルドのトップスリーが並ぶ。


「ああ、先輩方。私のような最下位の聖騎士を、先輩自ら歓迎をしていただけるなんて、なんという身に余る光栄でしょう」


 武器を向けられているにも関わらず、エナは笑顔を浮かべる。


「動くなと言っているでしょう!!」


 フリズの放った氷の矢がエナの足下を穿つ。


 それでも、エナの笑顔は崩れない。


「……フリズ先輩、いったい何をなさっているんです? 私は命じられた外道討伐を終え、さらに新たなルーンを発見したことを報告するために、帰参したのですよ?」

「ならば、おまえの背後に広がる惨状をなんと申し開く!?」


 怒りの表情を隠さないウィドの怒声も、エナには何処吹く風だ。


「あっはっは、ウィド先輩、大きな力に多少の犠牲はついて回るものですよ」


 肩を揺すって笑うエナの様子に、聖騎士も衛兵達も、みな一様に顔をしかめる。


「なんという身勝手な言い分。まるで外道ではないか」

「もはや弁解の余地など無い」

「聖騎士の面汚しめ!! 正義の名に於いて、成敗してくれる!!」

「正義? 正義と、仰ったのですか!? ……くっくっく、あっはあははは!!!」


 エナは堪えきれなかったように、仰け反りながら嘲笑する。


「何がおかしい!?」

「ねぇ、先輩方。私たちは何を以て正義を名乗るのでしょうか?」


 エナは大仰に両手を広げ、天を仰ぐ。


「このたび私が討伐した外道は、本当に間の抜けた娘でした。住まう山の麓の村人に挨拶周りをして生き神扱いされ、あまつさえ敵である私に求愛行動をしてくるほどの……」


 今度は身体を抱きしめ、身体を揺する。


 笑っているのか、泣いているのか、伏せられた顔からは伺い知れ無い。


「なんとも、滑稽な娘でした。私を殺さなかったばかりか、悪魔の道に足を踏み入れる私を諌めようとして、命を落としました……私が、殺しました」


 ゆっくりとエナが顔を上げる。


 その顔には、悪魔のようなアイライン、集束のルーンが赤黒く走っていた。


「さあ、先輩方。どちらが正義でしょうか!? 私が殺した外道は、誰一人として迷惑をかけることなく静かに暮らしていた。そんな暮らしを土足で踏みにじり、あまつさえ自分の都合で殺した聖騎士と、どちらが外道と呼ばれるにふさわしいのでしょうか!?」


 エナの叫びに、誰も反論を返さない。


 静寂がエナの声を町中に響かせる。


「我々のしてきたことは、魔法が使える変態を見つけては、外道と宣って殺してきただけ。つまることろ、我々は正義という金看板を掲げた人殺しに過ぎない! 違いますか、聖騎士長パラノ・リーベント!!」


 再び沈黙。


 そんな中、衛兵達の中央をゆっくりと前に進み出る大柄な男が一人。


 聖騎士長パラノ・リーベントだ。


 彼は哀れんだ眼差しをエナに向け、さも大仰に、


「悲しいことですね、エナ。まさか貴方が外道に身を落としてしまうなんて」


「外道ではありませんよ、聖騎士長。いえ、父上とお呼びしましょうか?」


 エナはまるで道化師の様に頭を下げ、


「私を呼ぶなら、魔道者と呼んで頂きたい」

「魔道、ですって?」

「そのとおり。私を姉と慕ってくれた娘が名付けてくれました。今の私は、欲望を果たすためではなく、正義のためでもない。ただ朝に食するパンの様に、人から、植物から、あらゆる生き物から命を奪い取り、そして無限に魔法を使い続ける魔性の者なのです」


 パラノはじっとエナを見つめる。


 笑みを絶やさない彼女の背後には、既に倒れて動かない人々の姿。


「成る程……話の信憑性は、貴方の背後を見れば分かること。エナ、貴方は死地を求めてここへ戻ってきた。そうですね?」

「死地を、求めて? く……くくく、くははははっ!!」


 高笑いに呼応するかのように、エナの身体から暗闇の霧があふれ出す。


「バカなことを言わないで頂きたい!! 私を愚弄し続けた相手にくれてやる命など、私は持ち合わせていない!! 私は私を蔑んだ者達に、魔法の神髄を究めた者の姿を見せつけるために、戻ってきたのですよ!!」


 その場にいる人間が同時に感じたのは、恐怖。


 狂気に対する畏怖でなく、絶対的な肉食獣を前にしたときの、絶望感。


「おのれ、乱心者めが!!」


 ブレイがエナに向けて火の玉が放つ。


「そのような児戯で、私が倒せるとお思いなのですか?」


 対して、エナは軽く腕を振っただけ。


 すると、突風が巻き起こり、火の玉がかき消された。


「愚かな。たった一度しか使えない魔法を早々と使うとは!!」


 続けざまにフリズが無数の氷の刃を放つ。


「その程度の魔法、今の私には氷菓子にしか見えませんよ」


 エナは薄ら笑いを浮かべ、ゆっくりと右手を掲げる。


 瞬間、暗闇の霧は前方に広がり、氷の刃を飲み込んでしまう。


「なん……ですって?」


 見たこともない現象に、フリズは動揺を隠せない。


「さすがは、フリズ先輩。なかなか良い魔力ですが、まるで腹の足しになりませんね」

「ならば、これはどうだ!!」


 ウィドが両手を振りかざし、鎌鼬の魔法を放つ。


 不可視の刃に対しても、エナの対抗策は変わらない。


 迎え入れるように軽く手を広げ、暗闇の霧を広げるだけ。


 エナを切り刻むはずだった真空の刃は、暗闇の中に吸い込まれ、消え去ってしまった。


「バ、バカな! 魔法が通じないだと!?」


 ウィドの言葉に、兵士達は一様に動揺を見せる。


 虎の子の聖騎士の魔法が通じないとなれば、自分たちに勝ち目などあるわけがない。


 一方、聖騎士のスリートップの魔法を吸収したエナは、不満顔だ。


「この程度の魔法しか使えないのに、大きな顔をしていたのですか? これなら外道の方がまだ魔法を使いこなすでしょうに。せめてもう少し大きな魔法を見せて頂きたいものだ」


 エナの挑発に、聖騎士達の顔色が変わる。


 彼らにとって、エナは最低ランクの役立たずのはずで、侮蔑する対象でしかない。


 そんな最下層の人間の挑発に、彼らのプライドが刺激されないわけがない。


「ならば、これでっ!!」

「一瞬で終わらせてあげましょう!!」

「後悔するがいい!!」


 エナを取り囲むように布陣し、ブレイは燃えさかる火の玉を、フリズは巨大な氷柱を、ウィドは猛烈な竜巻を起こす。


 対して、エナは歓迎するように暗闇の霧の中で両手を広げるだけ。


「「「うおおおおおっ!!!」」」


 聖騎士達が同時に魔法を放つ。


 どんな外道が相手であろうと一瞬で打ち倒せるであろう最大魔法の同時攻撃。


 エナが何のルーンを用いているかは知らないが、その愚策ごと倒せるはずであった。



正義とは自分が決めて他人に押しつける物のようです。

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