27.魔道者の歩みは止まらない
お姉様、完全にやみ落ち
東の空から朝日が昇り、巨大な城を中心にした王都「聖者の都」。
煉瓦作りの家が軒を連ねるこの都市は、聖騎士ギルド発祥の街だ。
聖騎士達は、王国の守護、外道討伐のみならず、近隣諸国の戦争などへの介入なども行い、王自ら秩序の代行者を名乗る程の軍事大国である。
朝日が照らす町並みは、小鳥のさえずりさえ響いていく程の静寂に包まれ、いつもの穏やかな一日を予感させる。
そんな、いつも通りの風景の広がる王都の外れに、小さな宿屋で、それは起きた。
爆発。
何の前触れもなく、唐突な爆音。
周囲の窓が吹き飛ぶほどの衝撃が周囲いったいの朝の静寂を吹き飛ばす。
周辺を包む爆煙。人々の悲鳴と怒号と子供の泣き声。
平和な一日の訪れが、一瞬にして崩れ去ってしまった。
「ああ、しまった。また、やってしまった……」
舞い上がる粉塵の中、フラフラと姿を見せたのは、エナだった。
髪の毛は乱れ、衣服もボロボロ、目の下には色濃く隈が刻まれている。
「困ったな……本当に困った身体になってしまった……」
口振りとは裏腹に、エナの口元に浮かぶのは、愉快そうな笑み。
救助のために集まってきた町人の男が、エナの姿に気づく。
「聖騎士様、いったい何があったのですか!?」
事件が起こった現場にいる聖騎士。
たとえ身なりが崩れているといえど、彼がエナに警戒することなく近づくのは、至極当然のことだろう。
「騒がせてしまってすまない。だが、心配しないで欲しい。すぐに終わるからな」
「終わる? いったい、なにがです?」
「そんなことより、私に近づいてはいけないよ」
「どいうこと、で……」
男は最後まで言葉を続けられなかった。
唐突な脱力感に襲われ、その場で倒れてしまったのだ。
「む? もう魔力の収集が始まってしまったか。いかん、いかん」
エナは荷物も持たず、フラフラと歩き始める。
異様な様子に、集まってきた町人達が思わず身を引く。
そんな周囲の人間に、エナは疲れた笑顔を向ける。
「ああ、逃げるならもっと遠くにしてくれないか。半端な距離では、皆の命が危ない」
彼女の言葉が聞こえた人間が、果たしてどれだけいたか。
エナの歩いた道には、意識を失う人々で溢れかえっていた。
人間、諦めたら楽になるものです。悪い意味でも。