26.ネコミミ娘の勝算
変態と天才は紙一重
「ど、どういうことなのです!? ヒエロがトリガーのルーンを探すように言ったからここまで来たのですよ!?」
「ヒエロが何を言ったのかは知らないけど、あたしに出来るのは、集められた魔力を、純粋なエネルギーとして打ち出すことだけよ。あんたの愛しのお姉様を助ける力は無いわ」
「そ、それでは、フィリアはどうしたらいいのです!?」
フィリアは珍しく頭を抱え込んでしまう。
「一刻も早くフィリアが無敵の無差別殺人兵器になってしまったお姉様を止めなきゃいけないですのに、あの性悪幽霊男に騙されたのです!!」
「ちょっと待ちなさい!!」
カノンは両目をつり上げて、
「誰が性悪幽霊男だって!?」
「策士気取りでお姉様に取り込まれた間抜けなルーンのことなのです!」
「間抜けぇ!?」
怒りの余りに声がひっくり返った。
「いうに事欠いて、ヒエロが間抜けですって!? あいつはね、この魔力砲撃の魔法陣の創案者なのよ!? 天才なの、て・ん・さ・い!! 言ってみれば、あんた達人間の魔法は、ヒエロの計画のオコボレ程度の次元でしかないってことね!!」
「はっ! どんなすごい魔族だろうと、性悪だった事実は変わらないのです~」
「なんですってぇ!?」
「だいたい、語るに落ちたのはカノンなのです。気づかないのですか?」
「ふんっ! あんたみたいなガキが、あたしの何を分かったって言うの!?」
「知識はあっても、知恵が無いってことなのですよ!」
「ぎくっ!!」
カノンは思わず声に出してしまう。
「な、ななな、なんのことかしら!? あたしは魔法の全てに精通していて、膨大な種類の魔法をまとめて……」
「使い方は常にヒエロが考えていたのですね」
「ぐっ!」
歯噛みして反論出来ないカノン。
フィリアは勝ち誇ったように胸を張り、上から目線。
と、フィリアは、ここまでの口げんかに、はたと気づく。
「……ちょっと待つのです。つまり、ヒエロが砲撃のルーンを探せと言ったということは、カノンの知らない使い方がはあるってことなのでは?」
「え、えええっ!?」
この話の振られ方は予想していなかったのか、カノンは目を丸くして、
「だ、だって、あたし、魔力を純粋なエネルギーに変換する為の要だから、君にしか任せられないって言ってくれて、ヒエロの期待に応えたくて……はっ!」
「はは~ん、要するに利用されたのですね」
「ちっ、違うわよ!!」
「おそらく、カノンちゃんが正しいであろう。ヒエロ殿はきっと、カノンちゃんを生涯の伴侶と選んだからこそ、共に意志を持つ霊体になったのであろうな」
「……」
「……」
二人の白い視線に気づかない全裸の筋肉だるま。
しかし、腐っても素っ裸でも、この男、人類の誰よりもルーンと魔法を研究してきた、外道の王なのだ。
「それと、今の話を統合するに、カノンちゃんのルーンの要は、魔力をエネルギー化することであるな。即ち、聖騎士の娘にため込んだ魔力をエネルギー化すれば、無理矢理に組まれたルーンを再構築出来る可能性があるのである」
義父の的確なアドバイスにフィリアは驚きつつ、幽霊の少女に視線を戻す。
「……カノン、そんなことが可能なのですか!?」
「ちょ、ちょっと、待って! 確かに変化のルーンを持っているフィリアがいるし、可能かもしれないけど、ヒエロだって、そんなこと一言も言ってなかったし」
「砲撃をするだけなら、必要のない知識だからであろうな。余計な知識は迷いを生み、純粋な力を阻害してしまうのである」
やたらと説得力を感じてしまうのは、本来必要なはずの知識まで明後日へと放棄したエクスが、人類の誰よりも魔法を使いこなしているからか。
「……試す価値はあるわ。だけど、この方法はフィリアの命の保証は全く出来ないわよ」
「上等なのです。お姉様と心中できるなら、本懐遂げすぎて罰が当たるレベルなのです」
「オーケー、気に入ったわ。あんたの大博打、あたしも付き合ってあげようじゃない」
カノンは鳥の羽のように、ふわりとフィリアの肩に寄りかかる。
「よし、我も協力を惜しま――」
エクスの台詞は、首筋に当てられたフィリアの尻尾によって中断させられる。
「お義父様」
「な、何かな、愛しき娘よ」
「お姉様のルーン、正確な組み方を、今すぐ教えやがれ、なのです」
「待つのだ、娘よ。人にものを頼むときは、必ず対価を支払うべきと教えたであろう」
エクスの言葉に、フィリアは不服そうな表情を浮かべるが、すぐに猫を被り、
「お義父様。お・ね・が・い、にゃん♪」
上目遣いで胸の谷間を少しのぞかせつつ、頬の横で猫の手。
「……その言葉を待っていたぁぁぁっ!!!」
効果は絶大だった。
「このときをどれほど待ちわびていたか!! 娘のネコ語でオネダリされる我が悲願、ここに成就せりぃ!!!」
興奮するエクスに、あからさまに引いているカノン。
「どんだけ安い夢見てたの、この男」
「フィリアもここぞという時以外には使わないのです。安い人で本当に助かるのです」
「任せるが良い、娘よ! 我が研究の粋、今こそ見せるとき!!」
「おとうさま、フィリア、お外にも連れて行って欲しいにゃん♪」
先ほどより若干棒読みになっているが、
「ふははははっ!! 良きかな良きかな!!」
高笑いもそこそこに、巨大な龍へと変身するエクス。
「……ルーンと魔力の無駄遣いだわ」
「恨むなら、最初にルーンを見つけてしまったのが、人類最悪の変態だったという運命を恨んで欲しいのです」
既に割り切って悟っている娘だけが、満面の氷の笑顔を浮かべていた。
ネコミミ娘はお姉様を諦めないようです