23.ネコミミ娘の決意
ネコミミ娘に戻ります
エナが立ち去った、夜の湖畔。
穏やかに波が打ち寄せる浜辺に、黒い繭のようなものが浜辺に打ち寄せられる。
月明かりに照らされ、まるで安全に羽化が出来るのを待っていたかのように眉がほどけると、中には静かな寝息をたてるフィリアがいた。
「ふむ……どうやら、聖騎士の娘に敗れ、ルーンを奪われたようであるな」
現れたのは、全裸の外道王こと、エクス。
義理の娘を優しく抱き上げると、そのまま踵を返す。
「養女をお姫様だっこして喜んでんじゃねーのです、変態お義父様」
「無理をするな。魔力をここまで消耗しては、一人で動くこともままなるまい」
「シリアスなお義父様なんて、鳥肌ものなのですよ」
憎まれ口とは裏腹に、フィリアは義父の胸に顔を埋める。
「して、お前の嫁はどうした?」
「絶賛ヤンデレモード突入中なのです。人間滅亡を企てる魔王さん状態なのです」
「穏やかではないな。我々外道としても困る。欲望を満たす対象が減ってしまうからな」
「世界の危機的な話をしているのに、自分都合が最優先なのですね」
「いつも言っているであろう。人間突き詰めれば自分のこと以外考えてはいない」
「分かっているのです。だから、フィリアも外道なのですから」
「とにかく今は休め。お前のロッジに連れて行く」
「おちおち、寝込んでる場合じゃ、ないのですよ」
フィリアはゆっくりと首を横に振り、エクスのたくましい胸を押し返す。
震える足で仁王立ちし、義理の父を睨む。
「お義父様、フィリアをトリガーのルーンが封印された遺跡に連れて行きがやれなのです」
「何のことだ?」
「お義父様の考えなんてお見通しなのです。この湖に封印されていたのが集束のルーンだとお義父様は知った上でフィリアを派遣したのです。他の外道の方では、入った後に戻れなくなる。だけど、フィリアの尻尾なら中に入らずルーンだけを回収できるかもしれない」
エクスは珍しく苦い表情を浮かべる。
「……気づいておったか」
「もっとも、フィリアも尻尾から魔力を吸い取られたので、計画失敗なのですが」
「可能性は低くとも、お前の尻尾で突破口が見つかれば良いと思っていた。あの聖騎士の娘と一緒に行くのは想定外だった」
「では、教えるのです。トリガーのルーンは、何処にあるのですか?」
「やれやれ、困った娘だ」
「誉める暇があったらフィリアをそこに連れて行きやがれなのです」
「何故そうまでして、あの聖騎士のために動く? 活きの良い聖騎士なら、他にいくらでもおるだろうに」
フィリアは義父をまっすぐ見据え、
「お姉様の代わりなんて、この世に存在しないです。お姉様を手に入れるためなら、フィリアは何だってしてやるってのですよ」
フィリアは「愛のため」とは決して口にしない。
千の言葉で偽ろうと、突き詰めた先には自分の欲望があると、分かっているから。
そして、外道が自らの欲望を全うする宣言は、何よりも強い決意を示す。
「……お前がそこまで覚悟しているなら、何も言うまい。トリガーの遺跡に案内しよう」
エクスは荘厳に両手を大きく広げ、光と共に屈強な肉体を変化させ、柔らかい毛並みを持つグリフォンへと変身。フィリアを背中へ乗せると、翼をはためかせ月夜に飛び立つ。
「お姉様……絶対に止めて差し上げるのですよ……」
決意に満ちた呟きが、風に流れた。
全裸の義父が出てきても珍しくシリアス。