22.魔道者の苦悩
お姉様が起こした惨劇。
「な、なんて、ことだ……」
村の――否、村だった場所の惨状を目の当たりに、エナは絶望的な表情を浮かべる。
宿で会った場所には、がれきの一つも残らず、周囲の家は土台を残し全て吹き飛び、遠巻きの家も屋根と外壁の大半を失っている。
そして、ここで暮らす人々が、瀕死の状態で横たわっていた。
きっと朝の食事を準備していたであろう女達、畑仕事に向かおうとしていた男達、そしてまだまだこの先に、明るい未来を夢見ているだろう子供達。
エナの起こした純粋な魔力の暴発は、村の全てを奪っていた。
「ま、まさか……こんなことが……」
エナは呆然と呟き、周囲を見渡す。
「い、たぃよぅ……」
僅かに聞こえた声に、エナは弾かれたように駆け出す。
程なく、ボロボロの姿の男の子を発見した。
「大丈夫か!? 心配することはない、直ぐに回復の魔法を――」
魔法を使おうとしたエナの手が止まる。
一体、私は何をしようとしているのか。
自分が引き起こした惨劇の後始末。
それは構わない。
だが、今この瞬間、エナは自ら魔力を放出してしまった。
この状況で魔法を使うと言うことは、即ち周囲から魔力を集めると言うこと。
つまり、目の前に横たわる、瀕死の子供からすら、魔力を集めてしまうのだ。
「……出来、ない」
エナは現実を受け入れがたく、震えながら顔を横に振る。
泣き叫びたい。
しかし、許されない。
この力を望んだのは他でもない、エナ自身なのだから。
「みんな、すまない……すまないっ!!」
エナは、一心不乱に駆け出す。
周囲の魔力を集め続ける自分に出来ることは、一刻も早く村から離れること。
そう、集束のルーンを身体に刻み、ヒエロの交渉を拒否した時から、エナは人間と接することが出来ない存在になっていたのだ。
『魔族が匙を投げるような危険なルーンを、たかが人間のフィリアたちに扱えると思うのですか!?』
いまさら、フィリアの叫んだ言葉が、頭の中に響いていた。
正義の執行者より欲望に忠実な外道の言葉が正しい世界。