1、ネコミミ娘の求愛
本編です
第一章
「フィリアの愛を受け入れるのですー!!」
「絶対に断る!!」
閑静な山間の湖畔に響く二人の少女の求愛と怒声、そして爆発。
打ち上げ花火の暴発事故のような閃光が周囲を照らし、木々が衝撃に揺れる。
それは、麓の山村にいても十分に確認が出来るほどの衝撃で、村人たちが皆一様に山を仰ぎ、
「ありゃま、もう聖騎士様が魔法をぶっ放す時間か」
「お昼にしますかね、おじーさん」
「んだな」
時報扱いにされてるほどであった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
爆煙が収まらない浜辺。
両手を前方に掲げ、金髪のロングヘアを風になびかせる少女が一人。
エナ・リーベント。
彼女が身に纏っている藍色のジャケットの肩口には雷雲の神が象られている。
人の道を踏み外した外道を討伐する聖騎士の証だ。
ただし、他の装備と言えば、銀のクロスソードに革の胸当て。ショートパンツから引き締まった太股がのぞかせるのは、機敏性を重視しているからではなく、単に駆け出しで満足な装備品を揃えられないだけ。
更に特徴的なのは、彼女の素肌には、魔法を使う者がその身に刻むルーン文字が、所狭しと刻まれていることだった。
「や、やったか?」
エナは頬をひきつらせつつ、前方の爆煙を注視する。
正義の執行者らしからぬ弱気な態度に付け入るかのように、
「んっひっひっ……」
と、妖しく瞳を光らせながら、爆煙の中から人影が現れる。
エナより頭一つ背が低い。短く切り揃えられた栗色のショートヘアの両端で、ネコミミがピョコピョコと忙しなく動き、お尻では長い尻尾が獲物を狙う蛇のように動いている。
「虎の子の魔法を使ってしまったのですね、お姉様?」
現れたのは、まだあどけなさの残る少女、フィリア・ルビア。
長い黒のニーソックスに、濃紺のレオタードを来ている姿は、何とも異様だ。
「全部の種類を使える代わりに、一日一回しか使えない。お姉様の最大の強みにして最大の弱点。つまり、一度でも使わせてしまえばフィリアの勝ちですのに、まだ闘ってもいないのに使ってしまわれるなんて」
「お前がいかがわしいことをしようとするからだろうが!!」
「フィリアの純粋な求愛行動をいかがわしいとは心外なのです」
携えていたクロスソードを構えるエナに、フィリアは全く警戒した様子もなく、まるで幼児のようにほっぺたを膨らませる。
「お姉様を愛するために、フィリアの尻尾はありますの、に!!」
フィリアが前傾すると、突然尻尾が九本に分かれ、エナに襲いかかる。
「はあああっ!!」
気合い一閃、尻尾の軌道を見切ったエナが、横凪ぎに三本の尻尾を切り落とす。
さらに返す刀で迫っていた一本を弾き、再び唐竹割りに剣を振るう。
しかし、狙った尻尾は素早く引っ込み、別の尻尾がエナの腕を縛る。さらに別の尻尾に足を払われ、転倒してしまう。その瞬間に両足は尻尾に巻き付かれ、取られた腕は頭上に万歳状態にさせられ浜辺に押しつけられてしまった。
「くっ、くそっ! またしても、こんな屈辱を!」
「んふふ、嫌よ嫌よも好きのうちなのです」
「敵に自由を奪われて喜ぶバカがどこにいる!?」
「フィリアのお義父様なのです」
即答されるとは予想しておらず、エナは目を点にして固まってしまう。
何とも間が抜けた風が、二人の間を通りすぎだ。
「……なんか、すまん」
「いえ、事実なので仕方ないのですよ」
思うところがあったのか、フィリアは遠くを見つめてたそがれる。
「……隙あり!!」
注意がそれた今が好機と、エナは身体をよじる。
「愛しのお姉様を、フィリアが逃がすとお思いなのですか?」
尻尾の束縛はまるで緩んでおらず、エナの抵抗は芋虫のようにもがいたに過ぎなかった。
「くっ……私がただやられるのを待っていると思うか!?」
「それでこそフィリアの愛しのお姉様なのです。抵抗虚しく蹂躙されるというプレイをお望みなのですよね? よく分かっているのです」
「どこが分かっている!?」
フィリアは満面の笑顔でエナの上に跨がり、四つん這いになって、顔を近づける。
「ああ、お姉様の芳しい香りが……」
「バカなのか、お前は!!」
フィリアは鼻息も荒く、涎まで垂らさんばかりに、緩みきった顔になっている。
エナが繰り返し脱出を試みてるが、逃げようとした先からフィリアの尻尾が巻き付き、体の自由をさらに奪っていく。
ものの数分で、抵抗をしていたはずのエナは、両手両足を締め上げられ、身体を晒すような体勢で宙づりにされてしまった。
エナの自由を奪ったフィリアは、上下左右から苦痛にうめくエナを鑑賞している。
「んっふっふ、これぞ外道流緊縛愛好術が一つ、ろめろすぺしゃる!」
「く、屈辱……やるなら、ひと思いにやれ!!」
「え~?」
「えー、じゃない!!」
「だって、これからお姉様をたっぷり愛して差し上げるところですのに」
「私のそんな趣味はないと何度言えば分かる!!」
「ツンデレ萌えというやつなのですね、よく分かるのです」
「私が分からん!!」
「もー、お姉様ってば。負けてもすぐに会いに来て下さるのに、いまさら嫌だなんて、ツンデレにもほどがあるのです」
「私はお前を倒すために来ているんだと言っているだろう!」
「お姉様、ま、さか……」
フィリアは信じられないと口元を隠し、
「ヤンデレなのですか?」
「意味が分からん!」
「デレとはつまり、何とも思ってなかったり、むしろキライだった相手を好きになってしまうという状態で、つまりお姉様はフィリアにデレて――」
「デレるか!! 私は聖騎士で、お前は外道! 敵同士だ!!」
「ある人が言いました。障害があるほど愛の炎はより強く燃え上がると」
「誰だ、そんなマヌケたことを言う奴は!?」
「フィリアなのです」
「お前がマヌケかっ!」
どうしてもツッコミを入れずにいられないエナ。
フィリアは満足そうな笑みを浮かべ、
「さあさあ、夫婦漫才はここまでなのです。諦めて身も心もフィリアの虜になってもらうのですよ」
フィリアは瞳をギラつかせ、両手をわきわきと妖しく動かし、エナの身体に迫る。
性的欲望丸出しの動きに、さしものエナの顔も恐怖に引き釣り、
「いやああああああ!!!」
少女の悲鳴は山の彼方まで木霊した。
ネコミミ娘は元気です