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17.終、聖騎士vsネコミミ娘

お姉様、更にご乱心


「周囲から常時、しかも無制限に魔力を奪い取るルーンなんて、無差別殺人兵器なのです。だから、お姉様に渡すわけにはいかないのです!!」

「が、はっ……」


 フィリアの締め付けが強まり、呼吸が止まる。


 ここまでされては、意識が落ちるまで十秒とかからない。


 逃げ場を求めて手を伸ばした先に、ヒエロの姿が映る。


(私は、また負けるのか? ヒエロさえ……このルーンさえ手に入れば……私の望みが、叶うというのに……)


 歯を食いしばるエナの口元から血が流れる。


 懸命に手を伸ばす先のヒエロの姿が少しずつぼやけ、周囲が闇に包まてていく。





『ああ、弱い弱い。本当にレベルがあがらぬ娘だ』


『全ての魔法が使えるといっても、一日一回限定ではな』


『とんだ道化の聖騎士様よ』


『聖騎士長のお情けで聖騎士の称号をお情けで貰っただけらしいじゃないか』


『役立たずのシングルヒッター、うまいこと言ったもんだ』


『同じパーティーで外道討伐? 冗談じゃない、足を引っ張られるだけだ』


『クズが』


『犬でも連れて行った方がまだ役に立つのではないか?』


『ああ、獲物の臭いを追いかけてくれる分、優秀だ』


『まだ最低ランクか』


『同期はとっくにCランクまであがっているぞ』


『おいおい、やめてやれ、落ちこぼれが哀れじゃないか』


『あいつとパーティーを組んだ奴が死んだらしいぞ』


『もしかして、殺しているのは、あいつじゃないか?』


『分かるだろ、ひがんでんだよ』


『シングルヒッターのうえに、疫病神か』


『聖騎士ギルドの唯一の汚点だ』


『『『クスクスクス、あははは、ハハハ』』』





 意識が落ちる刹那。


 エナの脳裏に走馬燈の如く反響する侮蔑と雑言の声は、それまで自身が受けていた言葉。


 そして、自分の生きている理由の全て。


「ふざ、けるな……」


 血に塗れた口から零れたのは、憎悪の言葉。


「お、お姉様?」

「私が……いったい、何を、したと言うんだッ!」

「意味が分からないのです! お姉様、お気を確かに!」

「自分が締め落とそうとしているのに、無茶な言い分だねぇ」


 ヒエロがふらりと二人の近くに降りてくる。


 エナの失神を確かめるためだったが、この時のエナには、自分が求めてやまない、ルーンの固まりにしか見えなかった


「そうだ……私には、必要なのだ……無尽蔵の魔力……世界最強の力がッ!!」


 エナが凶暴な表情でヒエロに向け、手を伸ばす。


「へぇ~」と、伸ばされた手を面白そうに見つめるヒエロ。


「そんなに欲しいのかい? ボクの力が」

「しっしっ! お姉様に近づくななのです! フィリアが勝つところなんですから、おとなしく待ってろなのです!」

「ふふ、それは無理かなぁ、だってここで見ていた方が愉しいし……あれ?」


 不意にヒエロの霊体が大きく歪む。


「寄越せ……お前の、力を……」


 狂気じみた瞳で、エナはヒエロに腕を伸ばし続ける。


「ああ、これはまずいな」


 と、言葉に反してヒエロは淡々と、


「ボク、彼女に取り込まれてる」

「はぁっ!?」


 思わずフィリアの声が裏返る。


「お姉様、ストップストップ!! ずるいのです、反則なのです、泥棒なのです!!」

「彼女を責めるのは筋違いだよ。彼女の中に刻まれた無数のルーンは、乾いたボロボロの雑巾と一緒なんだ。間近の水を吸い取るように、ボクのルーンを吸い込もうとするのは当然の摂理さ」


 解説の間にも、ヒエロの身体は光の粒子になり、エナの手の中に吸い込まれていく。


「っつーか、解説している暇があったら、ちったぁ抵抗しろってのですよ!!」

「だから無理だってば。意志を持っていても、ボクはただのルーンなんだから。あわよくば彼女の意識を奪うつもりだったけど、これほどの執念で取り込まれた、僕の意識なんて食い尽くされるだろうね」

「この決闘とは何だったのか、なのです!!」

「中途半端に彼女の意識を飛ばした君にも責任はあると思うよ。手心を加えず、意識を断つべきだったね」

「てめーが間近で見物しに降りてきたからだってのですよ!」

「あはは、それを言われると耳が痛いや。じゃあ、お詫びに一つだけ教えてあげる。ボク以外にも意志を持ったルーン文字がある。トリガーのルーンだ。ボクの集束のルーンと対を為す、魔力砲撃の発射装置、だね」

「とりがー? のルーン、なんて聞いたことがないのです。って言うか、封印されているってことは、作ったは良いけど自分たちがヤバいから見なかった事にした系のルーンなのですか!?」

「その通り。いいかい、フィリア。ルーン遺跡っていうのはね、天使の軍団を迎撃するための魔法陣なんだ」

「な!? どういうことなのです!?」

「神の軍団と戦争状態だった僕たち魔族は、常に飛翔を続けられる天使たちにずっと苦戦を強いられてきた。そこで、上空の天使たちを一掃出来る魔力砲撃の魔法陣を作ることにした」

「それが、ルーン文字の封印した、遺跡?」

「やっぱり君は頭がキレるね。じゃあ、遺跡のルーンを解放するってことは?」

「魔力砲撃の準備なのです」

「大正解。じゃあ、天使がいないこの世界で、解放された遺跡からの魔力を、トリガーのルーンは何に向かって、魔力砲を撃つと思う?」

「何って……」


 フィリアは素直に想像をする。


 この遺跡から放たれた砲撃に対象物は存在しない。


 つまり流れ弾は――、


「そのまま地表に落ちてくる?」

「エクセレント!」


 ヒエロは微笑みながら拍手をしようとして、既にその腕は光の粒子となり消えていることに気づく。


「あ、ごめん、時間切れだ」

「待つのです! せめてトリガーのルーンが何処にあるかくらい教えてから消えるのが大人の責任なのです!」

「あっはっは、数百年経っているんだから世界も様変わりしているだろう? ボクからは東の方としか言えないよ。それより、この後の心配をした方がいい」

「どういうこと、なのです?」

「正規の手続きをせずにルーンを取り込むんだ。集束のルーンが、エナにどう作用するのか、ボクにも分からない。もしかしたら、世界の魔力を吸い尽くすかもしれないね」


 心配そうな口調とは裏腹に、ヒエロの表情は実に愉しそうだ。


「数百年ぶりに訪れたのが、君たちで良かった。実に愉しい時間だったよ。それじゃあ、フィリア。がんばってね~」

「んがーっ!! 原因作ったくせに綺麗にまとめたように見せかけて、実は全部丸投げかましただけの口実残して消えてんじゃねーのです!!」


 フィリアの抗議もむなしく、ヒエロの霊体は全て光の粒子になり、エナの手の中に吸い尽くされてしまう。


「かくなる上は……お姉様、ごめんなさいなのです!!」


 フィリアは締めの力を強め、意識自体を断ちにでる。


「ぐっ、あっ……」


 苦しげに口を開閉するエナ。


 既に朦朧とした意識に耐えるだけに力は残されておらず、締め落とされたエナの手が無抵抗に砂地に落ちた。 



お姉様、賞品を強奪。そしてさらっと世界設定解説。

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