中間報告①「小説家になろう」の本質的な性質に関する考察-紹介作品の面白さと、「小説家になろう」における人気との乖離についての仮説-
本節では、中間報告として、「小説家になろう」の本質的な性質を解明し、紹介作品の評価が必ずしも芳しくない理由について考察する。
まず、紹介作品の評価が必ずしも芳しくない理由について論ずる前に、「小説家になろう」に読者が求めるものを、小説家になろうにおける人気ジャンルや、読者が読む状況と目的についての仮説を立てる。
この仮説に基づき、本項で紹介した作品の性質をまとめた上で、作品の評価が芳しくない理由を考察する。
まず、小説家になろうの大部分を占めるジャンルは、ハイファンタジー、ローファンタジー、現実世界(恋愛)、異世界(恋愛)、ヒューマンドラマの5つである。これらの作品は商業化作品でも例に漏れず人しか気であるが、商業化作品ではさらに歴史や推理、ホラーなど、そのほかのジャンルに比較的満遍なく枝葉を広げているのに対して、小説家になろうでは多くの作品がこのジャンルに所属している(なお、統計データ等はすでに『小説家になろう』内の各種データ解析を行う作品が正確に示しているので、関心のある方は検索し、参照にされたい)。
以下、ジャンル別の作品数を、小説家になろうの検索結果から提示する(2018年11月15日現在)。
全作品数:609,304(作品)
恋愛:65,279
・異世界:24,948
・現実世界:40,331
ファンタジー:98,073
・ハイファンタジー:68,327
・ファンタジー:29,746
文芸:101,380
・純文学:12,545
・ヒューマンドラマ:35,991
・歴史:4,564
・推理:4,695
・ホラー:14,148
・アクション:10,700
・コメディー:18,737
SF:16541
・VRゲーム:3,741
・宇宙:2,053
・空想科学:8,674
・パニック:2,073
その他:68001
・童話:7,604
・詩:20,915
・エッセイ:15,245
・リプレイ:288
・その他:23,949
ノンジャンル:260,045
また、小説家になろうなどの小説投稿サイトが通常の小説と異なる点として、アクセスの容易さが挙げられる。これは、通常の書籍版の小説は、作品を読むために本屋や通信販売などを通して、直接的乃至間接的に対価を支払う。さらに、本屋を利用するのであれば、本来目的としていない本を購入するために、まず、本屋に赴く必要がある。通信販売であれば必然、本屋に赴く手間は省けるが、基本的に特定された目的の本以外購入することは稀である。一方で、小説投稿サイトは多くの場合、不特定多数の作品が随時更新され、目的外の作品に触れる事も必然的に多い。
さらに、商業化作品と異なり、著作者は基本的に不特定多数の素人-趣味で執筆活動を行う者や、興味本位で執筆活動を行う者が手軽に投稿できるという特性を持つ。
これらの特性から、小説家になろうの利用者は、特定の目的を持って読書をする事は少ないと考えられる。即ち、彼らは不特定多数の興味を持ちうるタイトルやジャンルの作品を、目的を持たず-半ば手探りの状態で-読む事を目的として同サイトを利用する。
また、アクセス数の多い時間を計測すると、平日では7-9時、11時-12時、19-22時に、アクセス数が多くなる傾向がある。これらの時間は、丁度読者の空き時間と合致する。つまり、作品の読書は比較的短時間の休憩時間や通勤・通学の時間帯に利用する事になる。
また、あくまで仮説として、その時間帯に利用するという事は10代後半以上の年齢層が対象という事になる。そして、帰宅時間が19時-22時である事から、学生ではなく社会人、恐らく20代半ば以降の年齢層に需要が高いと考えられる。他サイトの利用状況も鑑みると、その主要な年齢層のうち50代以降の年齢層は主要なターゲットから外れるため、必然的に20代半ばから30代乃至40代がメインターゲットという事になる。
以上から、小説家になろうの利用者の多くは、①ファンタジーや恋愛、ヒューマンドラマを好み②特定の目的を持たない、いわば暇つぶしの目的で③20代半ばから40代を中心とする。
上記の通り、本節の目的であるを考察する上で、これらの作品分類には重要な意義があると考える。
まず、読者の傾向②の項目から、彼らの需要は専ら暇つぶしの目的、つまり比較的簡潔で読みやすい作品を好む傾向がある。そして、それは現状読者の傾向①のファンタジーないし恋愛要素のある作品に多く、またこれらの作品の共通点として、そのストーリーの核心について難解な考察を要求されないと予測できる作品群であるという事である。
読者の傾向③から、読書が可能な移動時間を想定すると、その所要時間は概ね10分から30分前後という事になる。つまり、短時間での読了が重要な要件となる。
以上の仮説のもと、以下に、紹介作品の共通点を基にした、伸び悩みの理由について仮説とその理由を提示する。
第一に、紹介作品の共通点として、作品の一部分が長いという点が挙げられる。紹介作品はいずれも、一部分の文字数が多い傾向がある。公共交通機関等を利用した移動時間でこれを一部分読了するにはある程度通勤(通学)時間がかかる必要がある。一部分を読了し、その上でしおり等の各種機能を使いづらい点を鑑みると、当該紹介作品を利用しづらいと考えられないとまでは言えない。
第二に、紹介作品はタイトルからその内容を理解しづらく、ある程度高度な考察が必要な傾向がある。いずれの作品も、タイトルから作品の内容を完全に理解する事は難しく、また、あらすじからある程度世界観に理解を深める必要性が感じられるものが多い。
第三に、作品の更新頻度乃至トップページでの浮上時間が短いという点である。読者の傾向②、③からも明らかな通り、主要な利用者は(a)通勤時間・休憩時間帯に利用を想定し、(b)比較的短時間で読む作品を決める。つまり、彼らが作品を読み始めるきっかけは、(a)の時間帯かつ(b)から、咄嗟に目に付きやすいタイトルを持つ作品である。興味のあるタイトルであっても(a)を満たしていなければ伸びず、(a)の時間帯であっても(b)のようにすぐに惹かれる作品でなければ読まれづらい、という事になるのである。紹介作品のうち、短編作品では(a)を満たしづらく、また継続して浮上しない事、また連載作品でも更新頻度の低い作品では同様の理由で読まれない、という事である。
なお、紹介作品について私見を述べるが、上記の条件を満たそうと無理に更新を増やしたり、タイトルを変更したりすることは得策とは言えない。なぜなら、タイトルを途中変更することは既存の読者の混乱を招く恐れもあり、また、必ずしも内容がわかりやすいタイトルが価値のあるタイトルとは言えないためである。作品のタイトルは作者が決め、その意義を見出した読者に強い衝撃を与えることも一つの文学的な面白さである。
以上が、伸び悩みの仮説である。本節はあくまで仮説であり、より詳細な検討を行っている作品は既に投稿されている。
今後考察する上で必要な資料と考えられるのは、小説家になろうを利用するユーザーの年齢層の分布が示されているものや、読者の所要時間などであろう。このような資料を探すことは極めて困難であるため、あくまで仮説に止めるが、今後の中間報告で新たな見解やより根拠の明瞭な仮説を見出せる事を期待したい。
中間報告は今後もこのような形で、特定の紹介作品を用いずに考察する事になります。
もちろん、これらの仮説は作品の考察の間のいわば息抜きとして、気軽に読んでいただければと思います。