中間報告②‐「小説家になろう」とSNSの利用に関する一考察
本節では、中間報告として、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用した、作品の宣伝活動を通して、簡単な知見を述べる事とする。具体的には、1.小説家になろうへの投稿者によるSNSでの宣伝活動、2.小説家になろう読者によるSNSでの宣伝活動を利用した作品検索について、それぞれの視点からSNSの有用性を確認する。
なお、本節に記載する内容はいずれも著者による宣伝活動の特性に対する情報を整理することによって得られた知見を基に考察するため、具体的な統計を基とするものでは無いことに留意されたい。
まず、1.について考察するにあたって、「小説家になろう」における宣伝活動の幾つかについて、概観する。
まず、小説家になろうにおいて、投稿者が宣伝活動を行う場合に、最も有効と考えられる方法は「ランキング」の利用である。ランキングとは、小説家になろうにおけるポイント評価の上位作品が、ランキングとして、トップページに記載される場合を指す。この場合、ランキング上位者であれば、多くの読者へ向けて自作品の宣伝活動が、比較的容易に行えると言える。しかし、ランキング機能自体は恣意的な宣伝活動としては限界があり、また、恣意的に行った場合には、小説家になろうの規約違反者となるおそれがある。そのため、宣伝活動としての優位性は大きくなく、むしろ、宣伝の結果としてランキングに乗った場合の二次的な相乗効果に有用性があるに留まる。
第二に、活動報告がある。活動報告は、作品の更新や進捗について、定期的に読者に報告することができる点が特徴であり、小説家になろうのトップページにも新着の活動報告欄に表示されるため、新規の読者へ対する宣伝効果も期待できる。
また、新着小説の欄と比較して相対的に長時間表示される為、読者への宣伝効果は低く無いと言える。
しかし、直接小説への誘導が困難な点が問題点であると言える。小説の更新報告としての効果はある程度期待できるものの、小説自体へのアクセスを期待するには工夫が必要である為、ある程度固定された読者への限定的な宣伝効果としての意義がより大きいと言える。
第三に、小説の更新がある。この方法は、更新日数に応じて小説自体の更新状況が小説家になろうのトップページに記載される為に有効であると言えるが、時間的拘束が大きく、作家への負担が大きいこと、小説の見直し等の時間が限定される為、結果的に誤字や些細な表現のぶれが完全に排除されないことなど、管理の難しさが課題となる。
また、仮に新着情報として更新状況をトップページに表示された場合にも、数分後には多数の小説が更新される為、拘束時間に対して宣伝効果の持続時間が長く無いことなどが課題となる。
では、これらを踏まえた上で、小説投稿者からの視点で行われる、SNSでの宣伝効果について考察する。
SNSの特徴は、(イ)登録者が限定された交友関係を持つ人々へ向けて情報を発信し、(ロ)その周辺に交友関係を持つ人々へ発信した情報が伝播することによって、(ハ)情報が限定的・漸進的・定期的に拡散する点にある。上述の(イ)の特徴から、情報の拡散は、小説家になろう内での宣伝活動と比較して、かなり限定的なものと言える。
しかし、(ロ)の特徴から、その拡散は半ば鼠算の様に拡散されていき、枝分かれして拡散された情報が(ハ)の様に時間をかけて拡散されていくことが可能な為、小説家になろうのトップページにあるような時間的課題のいくつかが解決される点で有効と言える。
一方で、その拡散はある程度限定的である事、また、前掲した中間報告にあるように小説家になろうの主要な読者層が通勤・通学・休憩時間などの比較的短期の休憩時間の手遊びとして利用する例が大きい事から、その拡散によって情報を受け取る読者側からの利用にある程度制限がある点には留意が必要である。
これらの情報から、読者への宣伝活動としてのSNSの効果は限定的ではあるが一定の需要を持つ、交友関係を持つ人々への宣伝活動としては有効であると言える。そのため、主要読者層への宣伝活動としてよりも、むしろ定期的に購読をする友好的な読者との情報共有の点で有益と言える。
さらに、(ロ)において情報を拡散する周辺の交友関係の中に位置する、ポイントにならないアカウントを持たない読者(以後、このような読者を隠れた読者層と呼称する)への宣伝活動としてもある程度有効であると言える。
上記の検討から、投稿者のSNSを利用した宣伝活動は、活動報告により近く、その課題点を小説の更新に近い形式による宣伝によって解決するものということが出来る。
次に、2.について述べる。ここで言う読者とは、「小説家になろう」に投稿される作品を読む可能性のある読者のうち、アカウント等を有し、又はそれに類する形式によって、投稿作品を読むための積極的な検索を行う読者を前提とする。その為、ここで言う読者は「継続的かつ反復的に小説家になろうにアクセスする読者」であり、隠れた読者を含まない。
では、SNSを利用した読者による小説の検索がどの様な効果を持つかについて確認する。
まず、SNSを利用した小説検索について確認する前に、小説家になろうに内での小説検索の方法について、簡単に確認する。
小説家になろうにおいて基本的な検索方法は、(ニ)ジャンル別検索、(ホ)活動報告による検索、(へ)ランキング検索がある。
第一に、(ニ)について確認する。(二)は、小説家になろう内にある検索機能を利用した検索方法であり、不特定多数の関心のあるジャンルの作品について検索する方法である。この検索方法の特徴は、ある程度検索者の好みの傾向に合わせた作品を多数検索することができる点にあり、他の検索方法と比較して詳細な検索は難しいものの、その読者のニーズに合った作品だけを検索できる。
しかし、一方で、読者から見て小説の質が一見して判断しづらい点、不特定多数の作品の中からひとつの作品を見つける必要がある点で煩雑となる点が問題と言える。
第二に、(ホ)について確認する。(ホ)は、小説家になろうのトップページからアクセスする事が出来る活動報告の中から、作品を検索する方法である。なお、一般的に、活動報告を利用する場合、お気に入りユーザー等に登録したユーザーの作品の更新状況を確認するといった使用方法が一般的であり、所謂新規作品の開拓方法として利用する事は少ないと考えられるが、本節は宣伝活動としての効果全般を概観する事が主たる目的であるため、上述のような不特定多数の者への影響を念頭に置いた上で考察する。
活動報告は、新着小説の投稿と比較して、長時間情報がホームに残る点が特徴である。また、小説の展開、現状などを断片的に確認する事が可能な例も多い。その為、作品自体の内容に関心を抱いた場合にも、活動報告を先に確認してあれば、現在の展開から読者の望むような話の展開がなされているか想像する余地が出来る。
一方で、好みのジャンルに限らない活動報告による更新一覧は、新着小説と同様に読者の望む作品が更新されているとは限らない点に留意が必要である。しかし、活動報告で更新報告がされる作品は、実際に現在更新中の作品であること、異なるジャンルへの関心を得られる検索方法ではあることから、副次的な検索手段としては意味があると考えられる。
第三に、(へ)について確認する。(へ)は、小説家になろうにおいて評価を得ている作品を読む際に有効な方法であり、昨今のランキング算定方法の変更によって、現在人気のある作品まで確認し得るようになったため、現在の人気のジャンルを検索する時にも有効である。また、ジャンル別のランキングも存在しており、読者の関心に合わせた、新着の人気作品を確認する事が出来る。
一方で、小説家になろうにおいて人気のある作品にはある程度傾向に偏りがあるため、読者は自身の好みに合わせた作品の傾向を把握したうえで、ランキング上の作品の中から、好みの作品を精査する必要があろう。
最後に、これらを踏まえて、SNSを利用した読者による作品検索について考察する。
SNSの特徴は、前述の通り、(イ)登録者が限定された交友関係を持つ人々へ向けて情報を送信し、(ロ)その周辺に交友関係を持つ人々へ送信した情報が伝播することによって、(ハ)情報が限定的・漸進的・定期的に拡散する点にある。そのため、読者の交友関係によっては特定の作品の情報だけが定期的に伝達されることがあるものの、読者と交友関係のある人物が読了した作品や、宣伝した作品などの新たな作品検索に利用できる。その為、自身の関心のある作品についての情報を無作為に収集する場合には有効な手段であり、また、読書中の作品の新着情報を確認する事にも利用できる。その為、読者としては、SNSを利用した検索とは、関心のある作品の情報と、関心を持つ余地のある作品を検索するために利用できると考えられる。
このように、SNSを利用した作品の宣伝活動には、限定的ではあるが一定の効果がある。また、小説家になろう内では補完できない持続的な宣伝活動には有効であると言える。
但し、SNSを利用した場合、「小説家になろう」に関連する情報以外にも雑多な情報が伝達される点には留意する必要がある。