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告部〜I want to go out with you.〜  作者: 歌うポケモントレーナー
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第六章~それぞれの進展~

明けましておめでとうございます。

 HRが終わった。教室内は騒がしくなる。運動部連中はどこに遊びに行くか話しながら教室を出て行った。バンド内勉強会が終わってから初めての月曜日、結成してから2回目の会議の日。柿沼は自分に希望があるとわかって以来、顔が艶やかになった気がする。笑顔も増えているようで、時々プリントの事で質問しに行くとニヤニヤしている。俺以上に隣で見ている優喜によると、授業中でもニヤニヤしていることが多いらしく、その様子に気づいた何人かの先生が柿沼を不審に思うような表情をしていることも少なくないらしい。調子に乗って暴走して樋口に接触しないように優喜が注意したら

「大丈夫!今の状態でも十分幸せ!まだ何もしないよ!まだね!フフフフフ。」

と言ったらしい。亘が頃合いを見て柿沼と樋口が話せる場を用意するので、それまでは余計なことをさせないようにと俺と優喜は指示を受けていた。最初の会議の時もそうだったが、暴走しそうなテンションなのに理性は働いているので、善悪の分別はついている。しかし、それを考慮しても「まだ何もしないよ!」は変態の台詞ではないだろうか。樋口に害が及んでいるわけでもなく、柿沼自身が幸せそうなので特に問題はないのだが、あまりにも気持ち悪いのは言うまでもなかった。優喜は非常に嫌がっていたが、席替えが近いから我慢するように言ったら不満げな顔をしていた。幸せそうな顔と不幸そうな顔が並んでいたので、妙におかしく感じた。告部の活動としては、柿沼が異常に気持ち悪い以外は特に問題なさそうに思っていたが、今日の会議で亘からいろいろな報告があるらしい。柿沼のテンション、俺に任される内容等が不安に思えてならない。今の状態の柿沼ですら手に余るのに、これ以上テンションがおかしくなられては困る。柿沼の場合、行動にしても精神面にしても極端なので、テンションが上がっても下がっても面倒なのは確実である。そして、そのパラメーターは俺の行動次第で大きく変わる。謎の重圧で気が重くなった。

「亘、視聴覚室行こうぜ。」

隣の席の亘に声をかける。珍しく何かに悩んでいるらしくノートと睨めっこしている。思い返してみれば、今日の亘は口数も少なく冗談を一切言ってこなかった。ノートと睨めっこは珍しくはないのだが、口数の少なさと冗談を言ってこないのは明らかに異常だ。仲良くなって半年近く経つが、この状態の亘は6月頃以来2回目だと思う。確か、生徒会選挙の何日か前。去年の生徒会選挙は全く覚えてないが、今年の生徒会選挙はスピーチが面白くてよく覚えている。

「生徒会長候補の赤井美樹です。いきなりですが皆さん、右にご注目ください。」

俺を含めた体育館にいた全員が右を見た。先生達ですら右を見ていた。

「このように、私にはこの場の全員、先生方にすら影響を及ぼす力があります。」

笑うやつもいれば、感心するやつもいた。現生徒会長の赤井さんは容姿も良くて、選挙前から当選確実みたいな雰囲気があったが、そのスピーチで生徒会長の座を確実の物にした。開幕からユーモア全開で飛ばした赤井さんのスピーチは大変評判で、可愛い・賢い・面白いの三拍子揃った有能生徒会長として有名になった。そんなことを考えていたらやっと亘が口を開いた。

「悪い、先行っててくれ。」

おそらく柿沼関係だと思うが、ここまで悩んでいる亘を見るのは初めてで正直驚いた。

「わかった。なるべく早くしろよ?優喜にどやされるぞ。」

「了解。」

悩むと同時に集中しているようにも感じたので、先に行くことにした。教室を出ると少し先に優喜がいた。

「優喜。」

優喜が俺の声に気付き振り向く。

「あれ、1人?深澤君は?」

「先行ってろって言われた。なんかめちゃくちゃ悩んでた。」

「へえ、珍しいこともあるんだね。一緒に行く?」

いつもの笑顔が期待通りの言葉をくれた。

「おう。」

待ってくれている優喜の隣まで行く。隣同士になり、一緒に歩きだす。ふと、以前から疑問に持っていることを聞いてみることにした。

「なあ、なんで柿沼の恋を手伝おうって思ったの?」

「え?」

優喜がこっちを見る。少し動揺しているように感じた。

「あたしが手伝ったらいけない?」

「いや、女子友達ならまだしも男の恋愛だし。そもそもあまり人の恋愛に余計なちょっかい出したりしないと思ってたから。」

優喜は困っているのか、こっちを見ずなかなか返事をくれない。

「・・・聞きたい?」

やっと口を開いた優喜の声は震えていて、何故かその声が胸に刺さった。

「お、おう。」

聞いたら何かが壊れるようなそんな気がして、聞きたくない気持ちもあったが、自分から聞いたので今更拒むことができなかった。そうこうしているうちに、視聴覚室の前に着いた。

「柿沼君の件が終わったら教えてあげる。」

そう言うと、優喜は扉を開けて足早に入っていった。いつもと違う雰囲気の優喜が頭から離れない。気づかないうちに心臓の鼓動が早くなっていて、自分が自分じゃない感じがする。とりあえず落ち着いてから視聴覚室に入ることにした。

「なーにやってんだよ。」

「うお。」

突然後ろから声をかけられて変な声が出た。振り向くと亘がいた。

「いや、そんな動揺とかじゃなくて。とりあえず落ち着かないと。」

亘は不思議そうな顔をしている。

「何の話?俺は何で視聴覚室に入らないか聞いてんだけど。」

亘にそう言われ、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。

「・・・入ろう。」

小さく亘にそう言った。

「なあなあ、何で・・・」

「入ろう!」

少し声が大きくなってしまった。

「・・・あい。」

亘は驚いたのか、「はい。」とうまく言えていなかった。

視聴覚室に入ると、前と同じ席で優喜が顔を伏せていた。その側で、どうしたらいいのかわからない様子の柿沼があたふたしていてこっちに気がついた。

「あ、やっときた!」

柿沼がそう言うと優喜が顔を上げてこっちを見た。さっきのこともあってか俺も優喜も気まずい。とりあえず俺も亘も、前と同じ席に座った。そういえば柿沼は、また1番乗りで視聴覚室に来たらしい。自分のこととはいえ、誰よりも早く来るその姿勢には感心した。

「いろいろあったようですが、まあとりあえずみんな落ち着いて。第2回目の告部の会議やるよ。」

亘の言葉に俺はドキッとした。おそらく優喜もしたはずだ。亘の落ち着けという言葉に反して、室内は変な雰囲気になった。

「いきなりだけど、2つニュースがあります。良いニュースと悪いニュース、どっちがいい?」

漫画とかでよく聞く台詞を亘が言った。しかし、俺と優喜は何も言えなかった。そんな雰囲気を察してか柿沼が口を開いた。

「じゃあ、良いニュースから。」

「え?良いニュースからでいいの?本当にいいの?」

亘が柿沼をからかう。素直な柿沼はとても動揺して、その様子を見て亘はニヤニヤしていた。

「じゃあ、良いニュースから言うぞ。えーと、・・・」

「待って!考えるから待って!」

柿沼が亘の言葉を遮る。

「やかましい!良いニュースから!」

亘がギャグマンガのような勢いのある声で柿沼を叱咤する。

「・・・はい。」

その勢いに負け、柿沼は静かになった。

「では、改めて。えーと、柿沼君。おめでとうございます。おそらくこのまま順調に進めば、君の恋は成就します。」

それを聞いた柿沼含めた俺と優喜は3秒ほどフリーズしていた。そして、

「えええええええええええええええええええ!?」

3人で驚愕のハモリで叫んだ。

「いや、お前ら喜ぶより先に驚くなよ。」

亘は呆れた顔で言った。

「いや、本気で助けてはいるけど、本当に上手くいくとは微塵も思ってなくて。」

優喜がまた余計なことを言った。

「ええ!?」

柿沼が大ダメージを受けた。

「まあ、俺も確率は宝くじ1等当選より低いと思ってたけどね。」

亘が笑いながら言う。

「ええ!?」

柿沼のダメージはもうすぐ致死量に達しそうだ。

「とりあえず現実を見よう。当初の予定より、樋口さんの印象改善が早いんだよね。それに、俊の話から元々そんなに悪くもなかったみたいだし。」

柿沼の顔が、今まで見た中で1番ニヤニヤしていた。受けたダメージは全回復したらしい。そういえば勉強会の時、樋口は柿沼に感謝したいことがもう1つあると言っていた。あの時は聞けなかったが、樋口にとっての柿沼は亘の予想より遥かに良いものらしい。内容については次の機会に樋口に聞こうと思っていたが、この場にもう一人の当事者がいるので聞くことにした。

「柿沼あのさ、お前樋口に何したの?」

「ええ!?何にもしてないよ!」

攻撃した覚えはないが、柿沼はダメージを受けたらしい。

「いや、悪い意味じゃなくて。勉強会の時に、樋口がお前に感謝したいことがあるって言ってたんだけど何かわかる?」

「ええ!?何にもしてないよ!」

何かしたから感謝されるんですよ?柿沼さん。

「それ、この前俺も確認したけど身に覚えがないんだってさ。柿沼が知らないところで何かしたか、忘れているかのどっちかだと思うよ。後者だったら最悪だよね。もし告白成功しても、彼氏が大事な思い出忘れてたら一瞬で幻滅だよね。」

亘が楽しそうに話す。

「100年の恋も一瞬で冷めるね。」

優喜が柿沼にとどめを刺しに来た。

「ああ・・・ああ・・・。」

柿沼のメンタルが死んだようだ。意識が朦朧としている。

「で、告白予定日を決めました。」

亘がそう言うと、柿沼は復活したと同時に神妙な面持ちになった。

「豪大悟天皇陛下、俊達のバンドのクリスマスライブの日にしました!」

なんとなく想像はしていたが、いざ決まると緊張してしまう。今が9月下旬、樋口と柿沼の距離を縮める期間を考えると3か月後が決行日は妥当だろう。ましてや俺達のバンドの晴れ舞台、俺もサポートしやすいし樋口にアピールするには絶好の場だ。

「とりあえず11月にある修学旅行で、もう付き合ってますよねぐらいの位置まで好感度上げるからみんなよろしく。」

決行日の間にある大きなイベントの修学旅行。ここが大きなポイントになることはわかっていた。ここまで作戦としては順調でさすが亘だと思ったが、教室で悩んでる姿の亘が頭から離れなかった。

「良いニュースはわかった。それで、悪いニュースって?教室でめちゃくちゃ悩んでたじゃん。」

「よくぞ聞いてくれました。さすがわが盟友。」

とてつもなく大げさである。

「最悪のライバルの佐藤が、そろそろ本格的に動き出しそうなんだよ。」

最近おとなしいと思っていたが、修学旅行前で遂に動き出すのか。実は塩の乱のせいで樋口と話しづらくなってたのは、佐藤も同じだった。柿沼とは違いちょくちょく話しかけてはいたが、樋口の反応の悪さを察し以前ほど積極的に行動できてはいなかった。しかし、例え佐藤が何かをしても何の影響もない気もする。

「佐藤が動いても特に問題ないだろ?」

「と、思うだろ?とんでもなく重要なんだよ。勉強会の時、柿沼の名前聞いて樋口さんの表情が曇ったって言ってたよな。柿沼の印象問題は大丈夫にしても、樋口さんの男子恐怖症は完全に完治してないんだよ。そんな状態でまたトラウマ植え付けられてみろ。恋愛したくないってなったらどうしようもないぞ?」

「確かにな。」

「それに、今回は樋口さんだけじゃない。」

「え?」

「俊、お前も危ないんだよ。」

「は?」

亘が何を言っているかわからなかった。


第七章に続く



さあ、やっと主人公に危機が訪れます笑

次章もお楽しみに!

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